第三十六話 オルガ
どうして?意味がわかんない!どうして私がこんな目に合うの??
今私は修道院にいる。一生修道女として、ここにいなければならないのだそうだ。
お父様とお母様が捕まってしまった。
なんでも、ずっと前にお姉さまを殺そうとしたからだって。確かに私には姉がいたわ。だけど、いつに間にかいなくなった。あの頃私は確かに思ったの。
「いなくなればいいって」
まさかそれが、本当に叶うなんて!だからいなくなってあの頃はせいせいしてたわ。だってお姉さまってよくよく見たら私が欲しくなるようなものいっぱい持っているんだもの。ほんと癪にさわるったら!お姉さまがいなくなって、お姉さまのものは全部私のモノになったの。本当に嬉しかった。
そして物心ついた時から私はオルガ・サー・バルミングだと名乗ってきた。だけどそれは間違いで、私は「サー」のサブネームを名乗っちゃいけないのだと、こんこんと憲兵に説教されたわ。大体言われなくてもそんなのわかってるわよ!だけどそう名乗る方が高位貴族として扱ってもらえるし、どのみち、お姉さまがいないんなら跡継ぎは私しかいないじゃない!。だから名乗って何が悪いのよ!
憲兵は、
「母親はオフェリア夫人だったのか?」
とか意味不明なことをいうから、
「私の母親はドミニカよ!そんな人、名前しか知らないし!確かお姉さまの生母だって聞いただけよ!」って。
だけどそれがいけなかったみたいなの。
「ならどうして『サー』を名乗っていたんだって。」
だからさっきも言ったじゃない。私はそう両親に教えてもらっただけよって。ホントにここにいる人、憲兵っていうの?頭悪くて嫌になっちゃう。
だけど、憲兵の人は言うの。
「名を偽ることを知らないではすまされない。それがナーリスバーナ侯爵相手なら尚更だと。」
なんで?アートス様はそんなことで、怒ったりしないもん!確かになにか怒らせちゃったみたいで、婚約はなくなるって言われたけど。でも、それだって、本来の意味を知っていたとはいえ、元々はお母様とお父様がそう言えって言ったのを私は守っただけよ。大体騒ぎ過ぎなのよ。名前を偽るのは詐称だとか大袈裟なのよ。今度会えた時には、きっと誤解は解けるはずよ。
「ならばなぜ、目の色を変えていた」
とも言われたわ。知らないわよ!それだってした方がいいってお母様とお父様が瞳の色が変わる指輪をもらって付けていただけであって・・・
それに本当はちょっと憧れていたのよ。お姉さまは好きではなかったけど、あの瞳の色は正直羨ましかったわ。それに絶対に私の方が似合うって思ってたから。
だから、アーティファクト(魔道具)を使うと紫にになるって聞いて、喜んで使ってただけなのに。たかがファッションじゃない!そんなことで目くじらたてられるとは思ってもみなかったわよ!
戸籍が違う?母親はオフェリア夫人になってるって。私が生まれた時の話なんか知らないわよ!
お父様とお母様はお姉さまを殺そうとした罪と私の戸籍を偽ったことで、重い罪になるのだという。
貴族の淑女ともあろう者が「サー」の重要性を知らないでは通らないのだと。だからそれも知ってるなんて言ったら私の分が悪くなるでしょ?だから知らないふりしてるのに、なんで通じないのかしら?
結局お父様とお母様の罪は、少なからず私も自主的に関わっていると判断されてしまった。名前や瞳の色を偽ったことで、無関係ではないと判断され、私も罪人になってしまった。
ほんっとうにとばっちりだわ!
お姉さま、こんなことなら、ちゃんと死んでくれてたらよかったのに!!
ナーリスバーナ侯爵の執務室にて__
「あの、オルガ嬢については、少し可哀想だったのではと・・・」
ナーリスバーナ侯爵の執事は遠慮がちにアートスに言った。彼自身、オルガと同じ年の頃の孫がいるから、気になったのだろう。
「そうかい?」
「えぇ、まだ年端もいかない成人前の少女ですからね・・・」
「ふふ、君の目にそう見えたなら、彼女の方が上手だね。」
「・・・と仰いますと?」
「彼女はそんな殊勝なたまではないよ。君が思うより強かだよ?」
「え?」
「彼女はわかってやっていた。僕も見くびられたものさ・・・」
「アートス様・・・」
「それに、彼女は「サー」の称号をいいことに、家でも外でもかなり我儘放題だったようだよ。気になるならこれを読んでみるといい」
そういうと、バルミング家の調査した報告書のうち、オルガに関する書類を執事に渡した。執事はしばしソレを読むと、書類から顔を上げた表情は残念そうに眉が下がっていた。
「・・・・女性は見かけに寄らないものですね。」
「ふふ、そういうことだよ。」




