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第三十五話

 レイリア達は、ナーリスバーナ侯爵邸を後にして、帰路に付いていた。

 

 「そういや、じっちゃん。」

 「なんだ?」

 「ちょっと不思議だったんだけど、侯爵様相手なのにどうして敬語じゃなかったの?」

 「あーそれな。俺が敬語を使うのは王様とその後継者くらいだけでいいからな。」

 「なんで?」

 「だって俺『剣豪』だもん♪」

 「えーーーー!!」


 驚くアレクを尻目に、年甲斐もなく可愛く言ってみたヴァンであったがそこはスルーされ、ヴァンはちょっと恥ずかしかった。


 「え?それは知ってるけど、『剣豪』だったら敬語いらないの?」

 「あたぼうよ!それくらい『剣豪』ってのはすげぇんだぞ!誰でも名乗れるもんじゃねぇからな。国に一人か二人いたらいい方じゃねぇかな?」


 スルーされたことにヴァンはまだ少し顔を赤らめていたが、『剣豪』がいかに凄いことなのかを力説していた。事実剣豪のなり手はほとんどいない。ヴァンの言うとおり、国にいなくても当たり前の、それくらい希少なものだったのだ。故に、その実力から権力にかしずく必要がない『称号』なのだ。ちなみに、こういった『称号』は他にもあるが、それは『剣豪』と同じく稀有な存在である。

 

 「えーそんなに凄いなんて知らなかった!なら私もそれなりたい!!」

 「じじいすごかったんだな・・・」

 「だったら日々の鍛錬を怠らぬよう、精進あるのみだな!!」

 「「目指せ『剣豪』ー!!」」

 

 二人はすっかりその気になっていた。

 そしてヴァンはレイリアに聞こえないように小さい声でアレクに言った。


 「だからアレク、お前さん相手にはまだ敬語は使えねぇな。」

 「え?!!」


 この時、アレクはヴァンは知りながら自分を匿ってくれていたのだと、驚きを隠せなかった。

 「じじい・・・まさか・・・」

 「わっはっはっはっはっは」


 こうして、三人はアーレンベック共和国に帰っていった。






 ナーリスバーナ侯爵邸のサロンにて、アートスはある夫人と対面していた。


 「わざわざお越しいただいて、すみませんね。」

 「いえ、手続き上王都に来るのは必要でしたし、お気になさらずですわ。」

 「そう言っていただけると助かります。それで手続きは滞ることなくすみましたか?」

 「えぇ、つつがなくお陰様で。私の息子が、バルミング家の後継者となりました。」

 「ふふ、それはよかった。しかし・・・本当に会わなくて良かったんですか?」

 

 とある夫人は首を横に振り、

 

 「えぇ、今さらどんな顔をして会えばいいのかわからないですわ。私はあの子が大変な時に何もしてあげられなかったもの・・・」

 「・・・・貴方も母と同じ病で伏せていらっしゃったので、仕方ないと思いますが・・・そうですか、わかりました。」

 「あの子は・・・良い子でしたか?」

 「えぇ、貴方のお姉さまによく似た面影の優しく強い女性でしたよ。」 

 「そう・・・それなら良かったですわ。」

 「それでは、こちらの品をお返しさせていただきますね。」


 そういうと、アートスは丁寧に梱包された長方形のものを夫人に渡した。


 「・・・これはお役立ちましたか?」

 「えぇ、それはもう。」

 「ふふ、それなら良かったですわ。」

 



 夫人は、ナーリスバーナ侯爵邸をあとにし、帰りの馬車の中で先ほど受け取った長方形の物の梱包を開封した。

 

 「・・・お姉さま、仇はとれたかしら?・・・いえ、貴方は優しい人だったもの・・・こういう事は望まなかったかもしれないわね。それでも私は・・・・・」


 とある夫人は、レイリアの母親オフェリア夫人の肖像画にそう語りかけるのであった。 





 

 結局、レイリアの判断は、司法の刑罰に委ねるとのことだった。


 そしてその結果、レイリアの父親ブルーノや継母のドミニカ夫人は罪状から悪質と判断され、終身刑。娘のオルガについては、ナーリスバーナ侯爵に詐欺をした罪により、修道女行きとなった。

 これらに関わった者達はバルミング姓を名乗るも、正当継承者ではないため、お家取り潰しはなし。バルミング家は、正当後継者の辞退により、オフェリア夫人の親戚が後継者となることになった。


 オフェリア夫人の事故については、新たな事実もわかった。供述から、当初事故を起した馬車に不具合があることをブルーノとドミニカ夫人は知っていたというのだ。あえてそれを放置し、あわよくばを狙ったところ、その通りになってしまったとのこと。殺人罪としての立証はできないが、こちらも悪質であると判断され、罪状として終身刑に別途炭鉱への『強制労働』が付加されたことをここに記録する。


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