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第三十三話

 「そんな・・・」

 「先ほども言いましたが、オフェリア夫人の事故については今となっては証拠も上げられませんから、立証は厳しいでしょう。確実なのは自白ですが、それも難しいと思います。」

 

 アートスの言うとおり、証拠がなければ、自白しかないが、自白すればより己の状況が不利になるようなことを進んで言うとは思えなかった。


 「酷なことを言って申し訳ないのですが、勿論今の段階では憶測です。」

 「「「・・・・」」」

  

 確かに有り得ない話ではなかった。なにせレイリア自身も確かに殺されそうになったのだから。 

 

 「それで、どうして行方不明の私に目安を?」

 「オルガ嬢の紫の瞳が偽物だとわかったのなら、あとは早かったですよ。長女であるエステル嬢が行方不明と言われていましたが、それすらもきな臭く思えてきましたからね。だから調べました。」


 するとアートスはヤレヤレといった感じで、


 「すると、あっけないくらい、貴方の居所は掴めました。」

 「そうなんですか?」

 「ええ。少し調査しただけで、貴方の居所が判明しました。レイリア嬢、貴方の場合、瞳の色がかなり特徴的だったからというのもありますが。ですが本気で探せば見つけられると思います。なのに、それをしなかった。ということは・・・」

 「見つかってほしくなかった、ってことだな。」

 「そうです。意図的にそうしなかったと思わざるを得ません。あとは、隣国であることから、手を出しにくかったということも多少はあったのかもしれませんが。どちらにしても、レイリア嬢には戻ってきて欲しくなかったからでしょうね。」

 

 まぁそうだろうなと、レイリアは思ったが、自分も戻りたくはなかったので、それは構わなかった。だが、母のことは別だ。もし本当に意図的だったのだとしたら・・・・・

そしてふと気になったので、レイリアは遠慮がちに手を上げた。


 「あと、ちょっと気になったんですけど、別に援助なら婚約しなくても、謝礼という形をとればよかったのではと?」

 

 レイリアは話の流れで気になっていた。援助からするにあたり、どうして婚約に結びついたのかを。


 「あぁ、それは・・・母のことは公にはできないですからね、ですから内々に解決したかったもので。それにバルミング家の『祝福』も門外不出という意味では、同様ですからね。結婚という形であればお互い外に漏れにくいでしょう?」

 

 言われてみれば、アーティファクトで病の為とはいえ、時間を止めたなど外聞が悪いよねと、納得し、レイリアはコクコクと頷いた。  


 「以上が、大体のあらましになります。」

 

 アートスがそいう言うと、全員が飲み物を口にした。そして開口一番だったのは、またもやアートスであった。 


 「改めて、レイリア嬢、私の母の『解呪』をお願いできますか?」

 

 アートスは真剣な表情でレイリアを見つめていた。レイリアは一息ついて、


 「勿論です。私の『祝福』が役にたつのなら。」


 そういうとレイリアはにっこりと笑った。


 「レイリア嬢、恩に着る。」


 そういうと、アートスは深々と頭を下げた。


 「あー、まだ成功してないから、そこまではいいです!」


 レイリアは慌てて手で制した。 


 『『解呪』大丈夫かな?・・・今までも外したことないから大丈夫だよね?』


 少し自信無さげなレイリアだったが、ギルドではこっそりと何度か『解呪』をやっていた。主にギードが呪いのかかった武具や道具をレイリアにやらせていたからだ。勿論それ相当の謝礼は貰っている。


 「心配すんな。大丈夫だ」


 そういうと、ヴァンはレイリアの胸中を図ったかのように、頭をいつものようにわしわしと撫でた。


 「うん、じっちゃん。」


 ヴァンがいつもの様に接してくれるだけで、少し緊張していた気がほぐれた気がした。




 そうして、レイリア達はアートスの母の寝室に案内してもらった。ベッドには女性が眠っているかのように横たわり、そして傍には憔悴し無精ひげを生やしたアートスの父親が女性の傍で椅子に座っていた。


 レイリアはベッドの傍に行き、全員がこれから起きることを息を呑んで見守っていた。そしてレイリアだけには見えていた。女性が着けている腕輪から黒い靄のようなモヤが出ており、それが彼女の周りを包んでるのを。恐らくこれが話にあったアーティファクト(魔道具)であるとわかった。

 レイリアは一呼吸をし、女性を見据えた。


 『黒い霧・・・消えて!』

 「解呪」


 レイリアの声が静まりかえった部屋に響いたと同時に、レイリアの身体が光った。その眩い光は女性をも包み、そして黒い霧が霧散してゆき、やがて光も消えていった。


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