第三十一話
ナーリスバーナ侯爵の客室にて____
「なーんか呆気なかったわね。」
「俺もめっちゃ張り切ってたのになぁ・・・リアねぇさんだけ活躍だし・・・」
「とはいえ、私も使うのは久しぶりだったから緊張したけどね」
レイリアはそういうと苦笑いをし、アレクは少しブーたれていた。暴れられると思っていたので、なんとも不完全燃焼だったからだ。
「まー楽できたってことでいいだろ。」
そういうとヴァンはわははと笑っていた。
「そうね。それに私の力が役になったのならいっか。」
「まーそうなんだけどさ。」
「で、リア、本当にいいのか?お前さんが本来の貴族に戻ってバルミング家を継ぐことができるんだぞ?」
「ううん。悪いけどあの家は嫌な思い出で塗り替えられちゃってるし、本当に未練はないの。それに後任の人はちゃんと貴族教育も受けてるしね。継いでくれるっていうならお願いしたいし、それでいいのよ。」
「わかった。じゃ俺もこれ以上は言うまいよ。」
「うん!私の家はじっちゃんとアレクと住んでいる森の中のログハウスなの。」
そういうとレイリアは、何の未練もないと証明するかのように微笑んでいた。
時は少し遡って____
ナーリスバーナ侯爵邸の食堂にて
「依頼したいというのは、母のことです。」
「侯爵の母親がどういう依頼なんだ?」
「実は・・・母は呪われています。」
「・・・つまり、それをどうにかして欲しいってことだな?」
「仰る通りです。」
「「!」」
レイリアは驚いた。それってつまり、自分の『祝福』の内容がバレているのではと?しかし検討がつかなかった。知っているのはヴァンとギードとアレクの三人だけだからだ。
「・・・呪いは命に関わるモノだったのか?」
「いえ、そういう意図のモノではないです。ですが、当時はそれに賭けるしかなかったのです。」
「いったいどういう意味だ?」
「母は元々身体が弱く、僕が幼い頃に病気になりました。それは不治の病で、余命いくばくかと宣告されていたのです。だけど父はそんな母をどうにかできないかと、あらゆる医師や神官に診てもらっていましたが、残念ながら、その時点ではどうしようもない病だったのです。そんな時に見つけたのがアーティファクト(魔道具)でした。」
「?魔道具で病気を治すようなものでも見つけたってことじゃねぇよな?」
でなきゃ解呪してくれなんていうわけないか、ヴァンがそういうと、アートスは少し悲しそうな顔をした。
「本当に、そうだったらどんなに良かったか・・・当時の父も疲弊していたのでしょう。そんな怪しげな道具にすがるまで、精神が追い詰められていたのです。僕の父と母はこの貴族社会では珍しい、恋愛結婚だったんですよ。だから父は余計に母をなんとかしようと必死だったのでしょうね。そして父は藁にも縋る気持ちで、見つけたのです。ただそれは、病気を治すものではありませんでした。」
「え、じゃ一体・・・?」
「『時間を止めることができる魔法』だそうです。」
「「「??!!」」」
「父は母の病気の進行を遅らせるべく、時が止まるアーティファクト(魔道具)を母に使いました。不治の病が今は治らなくとも、将来的に病気が治すことができるかもしれないと、ただそれだけに賭けたのです。」
「おいおい、侯爵の親父さんはまたぶっ飛んだこと考えるなぁ」
「父と母は愛し合っていました。だから母を失うことが耐えられなかったのでしょうね。ただ・・・」
アートスは一区切りすると、飲み物を口にし、話を続けた。
「父の読みは当たりました。あの当時は不治の病だったものが、今は医療の力で治療が可能になったのです。」
「「「おぉ!!」」」
三人は本当に驚いていた。
「父は歓喜しました。すぐにでも母に治療を受けさせるべく、アーティファクトを止めようとしました。ですがここで問題が生じました。」
「・・・・アーティファクトの『解除』ができなかったんだな?」
ヴァンの問いに、アートスは頷いた。
「もちろん、『魔法解除』の為にあらゆるところにお願いをしました。ですが、誰も解除することはできませんでした。」
「なんでそんなことになってんだ?」
ヴァンが腑に落ちないので疑問を口にした。
「神官が言うには母の病が関係しているそうで、純粋に魔法なら解除は可能でしたが、母の病が阻害要因になってしまったのです。」
「あーたまーにあるレアケースだな。・・・呪いになっちまったか。」
ヴァンの言う、レアケースとは、魔道具による魔法は『魔法解除』をすれば、解かれるのが通常だが、稀に本来の魔法の効果が外的要因や内的要因により、異なる作用を及ぼすことがある。この場合は病が悪さをして『魔法解除』ができない状態に陥り、『魔法』から『呪い』になってしまったのだ。
「神官の見立てでは、アーティファクトの魔法が呪いになってしまっている。呪いであるなら『解呪』になるが、ただでさえ複雑な魔道具の式がさらに複雑に絡みすぎて時間がかかるとのことでした。それも確約は出来ないと言われてしまったのです・・・」
そこでアートスはレイリアに視線を向けた。
「えー、えーと・・・」
レイリアは自分の『祝福』が公になっていないだけに、肯定するわけにもいかず視線が泳いでいた。そんな様子にアートスはくすっと笑った。
「そして、見つけたのです。バルミング家は代々紫の瞳を持つ者は、癒しの力かもしくは『祝福』を持っているということを突き止めました。そしてそれは特に第一子にその力が宿り易いとも。癒しの力か『祝福』かのどちらかは必ず持っているのだそうです。」
「え、そうなの?」
レイリアもその事は知らなかったので驚いていた。
「だから、レイリア嬢、貴方のことをいろいろと調べさせてもらいました。そして貴方は癒しの力は使えない。ならば必然的に『祝福』を持っているということになるんです。」
『うわーー初めからお見通しだったのね!』
レイリアは、真っ赤になってごまかしていたことが恥ずかしくてたまらなかった。




