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第三十話 バルミング伯爵家③

 その日は、突然訪れた。




 ドンドンドン!!ドンドンドンドン!!!


 深夜、けたたましく乱暴に玄関扉をノックする音が、屋敷中に鳴り響いた。

 屋敷にいた侍従やメイドたちが、不安な顔をして、玄関扉のあるエントランスに集まってきた。

 

 「バルミング伯爵家の者につぐ!我々は国家憲兵だ!大人しく扉を開けてもらおうか!開けぬのなら、扉を破壊する!!」


 それを聞いた侍従は慌てて扉を開け、


 「い、一体な、何事ですが?」


 侍従の問いに答えず、扉が開いた途端に、わらわらとカーキ色の軍服を着た数十人の憲兵達が一斉に屋敷に侵入した。その様子にメイドたちも只ならぬ殺伐とした雰囲気に不安を隠しきれなかった。

 国家憲兵とは、国の軍部に席を置き、主に軍部や貴族の秩序維持を目的とした執行機関である。


 「バルミング夫妻およびオルガ・バルミングはどこにいるか?!!」


 憲兵の上官らしき男が一人、そういうと、あまりの騒ぎにバルミング夫妻がガウンを羽織ったナイトウエアのまま二階から姿を現した。

 

 「な、なんだこれは一体?!!」

 「なによ、一体なんの騒ぎよ?!」

 

 ブルーノもドミニクも、一階のエントランスに憲兵が数十人もいる場景を見て驚いていた。その姿からバルミング夫妻だと目星を付けた上官らしき男が、見上げて言った。


 「お達しである!バルミング家に逮捕状が出ている!」

 「なっ!!!一体何の罪状で?!」


 従侍の一人がそう言うと、憲兵の上官らしき男は、一気に罪状を述べた。


 「バルミング家が長女エステル・サー・バルミング殺人未遂の件・そして次女オルガについて戸籍文書虚偽罪の件だ!!そして他にも余罪を確認している。」

 「「「「「「?!」」」」」」

 

 その罪状に、バルミング側の皆が驚愕していた。殺人などと物騒な言葉が出たからだ。

 

 「そ・・そんな」

 『どこでバレた?!なんで?なんでだ?!なんでだ?!!なんでだ?!!!』


 ブルーノは焦っていた。表情はできるだけ取り繕うと必死だったが、心の中は疑問符で溢れかえっていた。先に声を上げたのはドミニクだった。


 「な、なによ!一体何を根拠に?!」

 「そ、そうだ!!言いがかりだ!証拠を出せ!!」

 「残念だが、その証拠を元に既に逮捕状がでている。詳しくはで憲兵庁で聞かせてもらおう。」

 「「!!!」」   

 

 「バルミング夫妻、貴方方の目論見は潰えた。一緒に同行してもらおうか。」

 「い、いやよ!なによあんた達、私達は誰だと思っているの?!サーの称号がある伯爵家なのよ!」


 ドミニクの主張する伯爵であることと、サーの称号が名前に付くのは、彼女の言うとおりバルミング家は高位貴族となる。しかしこの主張は憲兵相手では通用しない。だがドミニクはその意味がわからなかった。


 「我々は将軍直轄の部隊なのだ。よって貴様の主張は全く意味がない。」

 「!!」 


 そう、憲兵上官の言うとおり、憲兵は軍の管轄であり、そしてそれを統括しているのは王弟である将軍なのだ。どんな貴族であろうとも、王族からの命令なのだから、それを阻止することはできない。

 そして遅れて二階の奥の部屋から眠そうなオルガが姿を現した。


 「一体、なんの騒ぎよぉ?」


 彼女もまた、ナイトウエアのままだったが、やはり一階の様子を見て、一瞬で眠気が覚めてしまった。

   

 「え?え?一体なに?え?」


 オルガも驚きすぎて、言葉になっていなかった。しかし憲兵上官は、そんなオルガの様子もお構いなく、続けた。

 

 「オルガ嬢、貴方は直接関わっていないかもしれないが、参考人として貴方も一緒に同行してもらう!」

 「な、何言ってるのよ?!意味わかんない!!私達を誰だと思ってるのよ!」


 オルガもまたドミニクと同じようなことを言うのは、さすが親子であった。

 

 「オルガ嬢、貴方の瞳の色が魔道具で変えているのはバレている。」

 「?!」

 

 オルガは心当たりはあった。指摘された通り、今の瞳の色は本来の緑ではない。まさかそれを言われると思わなかったオルガは動揺して立ってられず、へなへなと膝から崩れ落ちた。 


 「あ・・・・・」


 そう今のオルガの瞳の色は紫だったのだ。


 「連れていけ!!」

 「「「「「はっ!!」」」」」 

  

 

 そうして、あっという間にバルミング伯爵家の三人は憲兵に連行されてしまったのだ。 


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