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第二十八話

 「私、約束なんて知りませんけど!それに貴方とは初対面ですよ?!」

 

 アートスは笑みを浮かべた顔でレイリアを見つめ、 


 「そうですね。私もレイリア嬢、貴方とは今日が初対面です。」

 「だったら何故?!」


 レイリアは婚約と言われ、内心はかなり動揺していたが、何とか耐えていた。そして次の侯爵の言葉に、なぜ婚約なのかということが理解することができた。


 「正確にはそうですね、レイリア・ブロームとしてではなく、エステル・サー・バルミング、と言えば、ご理解いただけるのではないかと?」


 アートスは、レイリア個人としてではなく、家同志の話であると暗に示したのだ。

 ヴァンやアレクは言葉に出さなかったが、外的要因がこのナーリスバーナ侯爵であると、バルミング家の帰還要請はこの婚約話だったのだと、確信したのだ。だが、ヴァンにはまだ腑に落ちない点があった。それはわざわざナーリスバーナ侯爵から接触してきたからに他ならない。

 

 「・・・私がなぜ、エステル・サー・バルミングだと言えるのですか?」


 レイリアは、この男アートスは既にわかって言ってるのだろうとは思ってはいたが、あえてすっとぼけてみた。


 「・・・知っていますか?レイリア嬢、貴方の紫の瞳は、治癒系の魔力、つまり聖なる力が宿り易いんだそうですよ。そしてそれはバルミング家の特徴でもあるんです。もちろんあくまで宿り易いであって、必ずしもそうではないのは周知のところですが。」

 「!?」


 アートスが述べた、バルミング家の特徴はレイリアは小さい頃に聞いたことがあった。だがレイリアには治癒の力はない。あくまであるのは『祝福』だった。


 「それに貴方の亜麻色の髪は御父上にそっくりです。バルミング家の特徴の紫の瞳、髪色、年の頃も合っている。そして極めつけは・・・」


 アートスは指を鳴らし、傍にいた執事に例のモノを、と言付けたあと、一旦退出した執事はすぐさま戻ってきたが、長方形の何かを両手で抱えていた。


 「こちらをご覧ください。」


 アートスの声を合図にその執事がその長方形のものを裏返すと、それは絵画だった。そこに描かれていたのは・・・


 「リア・・ねぇさん?じゃない・・・」

 「え?これは・・・!!」

 「なるほどな・・・」


 そこに描かれていたのはレイリアによく似た女性の肖像画だった。上半身だけが描かれ、髪をハーフアップにした貴族の女性。瞳は紫であったが、ただし髪色は濃いブラウンで今のレイリアとは違った。 


 「レイリア嬢、この肖像画は貴方のお母様です。」

 「か・・・かあさまの・・・!」


 レイリアは覚えていた。生みの母親の記憶を。脳裏には母親の「レイリア」と呼ぶ懐かしい声が聞こえたような気がした。レイリアは肖像画を見て、目に涙が溢れてしまった。しかし慌てて涙を堪えようとしたが、アレクがソッとハンカチを渡されたことで、余計に涙が止まらなくなった。ヴァンはレイリアの頭をポンポンと撫でると、優しく言った。


 「リア、今更繕わなくていい。泣きたいなら泣けばいい。」

 「じっちゃん・・・ごめ・・・」

 「なんで謝る必要がある。」

 「だって・・・」


 『まさか、こんなところで母様の肖像画を見れるとは本当に思いも寄らなかった・・・』


 レイリアは母親の肖像画の前で涙が止まらなかった。


 『母様・・・か』


アレクも思うところがあったが、アレクは黙ってレイリアの傍で寄り添っていた。


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