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第二十五話

 パンパン__


 「はぁーやっぱりこういう場所には出るわよねー」

 「うん、俺も逃げてる時、こういう奴ら見たことあるよ。けどこっちが見付けただけだから、絡まれないですんだけど。」  

 「ま、どのみち準備運動にもならんな。ゴキュゴキュ」

 

 ここは、国境にあるブ-ルセル山で、アーレンベック共和国とクライブ王国を結ぶ山道であった。

 その道中の途中で、レイリア達は立ち回りを終え、パンパンと手を払っていた。ヴァンに至っては見知らぬ寝転がった男の腰あたりを椅子代わりに座りながら、持ってきている水筒の水をゴクゴクと飲んでいた。アレクはキョロキョロと他に打ち漏れがないかと見回して確認していた。


 レイリア達の周りには十名以上のならず者らしき男たちが、気絶かもしくは痛みに悶え苦しんで全員もれなく倒れていた。そして意識のある者たちは後悔していた。

  

 『なんだよ!女とじじいとガキって話が、中身が普通じゃねぇじゃねぇか!!』

 『あれは・・・ヴァンデル・ブロームじゃねぇか!話が全然違う!!じじいはじじいでも、元ギルドマスターじゃただのじじいじゃねぇだろ!』

 『ガキもガキのくせに強ぇえし!どうなってんだよ!!』

 『女の方なんか鼻歌まじりで、のされちっまたのに!』


 

 山道でレイリアたち一行を襲ってきたのは、バルミング伯爵が雇ったならず者達だった。依頼対象者の大まかすぎる特徴だけを聞き、またバルミング伯爵もさほど詳しく調べていなかったため「亜麻色の髪の紫の瞳の若い女と老人と子供の三人組」としか聞いていなかったのだ。

 しかしさほど詳しく調べていなかったのには、バルミング伯爵夫妻なりに一応理由はあったのだが、それはまた後ほどわかることになる。


 「人間相手の立ち回りは、あんまりしたことなかったから、勉強になったわ!」

 「おいおい、この程度のやつらで勉強になったとはいわんだろ」

 「・・・あら、それもそうね。」


 『『『『!!』』』』

 

 それを聞いていたならず者たちは、少なからずショックを受けていた。    

 

 「俺は勉強になったよ!」


 『『『『少年ありがとう!』』』』


 アレクの前向きなセリフにならず者たちはちょっと救われた!


 「アレクは優しいのねー」

 「へへっ」


 レイリアはいつものようにアレクの頭を良い子とばかりに撫でていた。






 クライブ王国への道のりは、アーレンベック共和国から王都までは馬で走って丸一日ほどかかるほどの距離だ。二つの国は隣国で、国境にはブールセル山があった。そのため、道のりの大半は山道がほとんどであった。とはいえ、二つの国は貿易の交流があるため、馬車が通れるくらいは整備されている。 


 「よーし、今日はこの辺りで野宿でもするか」

 「「さんせーい」」 

 

 夕方になったので、ここで一晩過ごすことにした。野宿するのにちょうどいい拓けた場所があり、そこにテントを構えることにした。乗ってきた馬達はすぐ近くの川の浅瀬で水を飲ませていた。ちなみに馬は二頭で、まだ乗馬が不慣れなアレクはレイリアと二人乗りだった。 


 「結局、あの後は特に何もなかったわねー」

 「そんな頻繁にごろつき共がウロウロされてても困るけどな。めんどくせぇし」

 「♪」


 少し暗くなってきた頃、テント前では焚き火をし、川で釣った魚を焼き、持ってきていたパンや干した肉・野菜などを簡単にスープなどにして三人は早めの夕飯をしていたが、中でもアレクは嬉しそうだった。


 「アレクなんだか嬉しそうね?何かあったの?」

 「あーえっとさ。」


 ポリポリと頬を掻いて照れくさそうにしたアレクは話を続けた。


 「俺さ、リアねぇさんに会うまで必死で逃げ回ってきたからさ。こういうちゃんとした野宿ってしたことなかったから、なんか新鮮で、楽しいなって・・・」


 レイリアとヴァンはそれを聞いて、ショックを受けた。


 『そっか、そうだよね。逃げて来たって言ってたもん。わかってたけど、こういう場所を掻い潜ってきたのよね・・・』


 レイリアはそれを聞いて、改めてアレクの境遇に同情していた。そしてヴァンはいきなりアレクの肩を組むと、焚き火の前に刺してあった焼き魚の串をとり、それをずずっずいっとアレクの前に差し出した。


 「アレク、食え!!」

 「え?」

 「いいか、俺が必ずアレク強くしてやる!だから食え!!」

 「えっと食べてるけど?」

 「バカやろう!前から思ってたがお前さんは男のくせに小食すぎる!!本当に強くなりたかったのなら、たくさん食べて身体を作らねぇとな!」

 

 今では初対面時の『小僧』呼びはなくなっていた。アレクはあれから鍛錬して、短剣を的のど真ん中に当てられたからだ。ヴァンは約束通り、その後はちゃんとアレクと名前を呼んでいる。


 「小食じゃ・・・だめなのかな?」

 「あったり前だろ!アレク!お前そんなんじゃリアよりもおっきくなれねぇぞ!」

 「!!!」

 「やだ、じっちゃんそんなわけ・・・」

 

 ムシャムシャムシャ!


 アレクはそれを聞くなり、急に焼き魚にがっつき始めた。

 

 「えーと、アレク?」

 「俺・・・ムシャムシャ リアねぇさんより絶対でっかくなる!!ムシャムシャてかならないと!!」

 「そ、それはわかったけど、食べながら喋るのは行儀が悪いからやめようね・・・」

 「!!!」


 レイリアに注意されたアレクは喉につまった。


 「げほっげほっ!」

 「あーもう何やってるの。」


 レイリアは水筒を差し出した。


 ゴクゴクゴク

 アレクはすごい勢いで飲み、そして落ち着いてから、真剣な顔で話しだした。


 「あの・・・」

 「ん?」

 「今回のリアねぇさんのことが解決したら、俺話したいんだ。」

 「話?」


 レイリアはピンっとこなかったが、ヴァンには何のことかわかっていた。


 「・・・・お前さんがなんで逃げてきたってことをか?」

 「・・・アレクいいの?それ聞いちゃっても」

 「うん。というか、黙ってるのしんどくってさ。」


 レイリアもヴァンも今はそれ以上深くは聞かなかった。


 「わかった。アレクが話したいときに話してね。」

 「うん。もし聞いてその時は、また決めてくれたらいいから。」

 「決める?」

 「うん!」


 アレクはなぜか意味深なことをいい、そしてなぜか吹っ切ったような、それでいて少し寂し気な笑顔だったのが、レイリアは気になっていた。


 その様子をヴァンは口を放むことなく、静観していた。



 そうしてテントでの一夜は空け、クライブ王国への道のりを再開した。


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