第十九話
あれから、アレクがレイリアの元に身を寄せてから、半年が経った。
「アレク!そっちに行ったわ!」
「リアねぇさん任せて!!」
アレクは狙いを定め、魔獣の眉間を目指して短剣を投げた。
ザッシュ!!!
『グォォ・・・』バタン・・・
森の中、追い込まれた魔獣ボアファングは、アレクが投げた短剣の一刺しで絶命した。
ボアファングの見た目は一見大きなイノシシに酷似しているが、違いは一目でわかるほどの口の端から飛び出ている牙の大きさだった。身体も通常のイノシシの三倍はあり、その大きな牙で突進して敵を薙ぎ払ので、見た目も習性もイノシシに酷似している。
「よし!依頼完了!!」
今では、アレクも魔獣を狩れるようになっていた。半年前は魔獣に殺されそうになっていたのが嘘のようであった。
アレクは、ヴァンとレイリアの指導の元、めきめきと強くなっていた。ギルドランクも実際に異例のスピードでランクが上がり、今や青のFランクである。
「リアねぇさんの最年少記録を塗り替えたー!」
と、両手を広げて喜んでいた。そんなアレクの姿を見て、レイリアもヴァンも嬉しそうに、
「ま、師匠がいいからだな。」
「ホントそれよねー」
などと、憎まれ口を叩きつつ、二人共アレクの成長と成果を我が事のように喜んでいたのだ。
絶命した、ボアファングを前にアレクの目はキラキラしていた。
「これ、前に食べた美味しいやつだよね?」
「そうよ。ボアファングは魔獣ではあるけど、割と動物に近いからね。明日はステーキにできそうだわ。」
「やったぁ!」
当初こそは魔獣を食べることに抵抗があったアレクも今や「食わず嫌いはダメ」という、レイリアの食育の賜物で、なんでも食べられるようになっていた。
『ふふ、変われば変わるものねーって私もか。うん、変わらないとね、やっていけなかったし・・・それにこの変化は嫌いじゃない。』
レイリアはアレクの逞しい成長ぶりに、感心したものの自身を重ね、納得していた。
「あ、そういやじじいは、今日ギルドに行ってるんだっけ?」
「うん、おじさま(ギルドマスタ―)から急に呼び出しがあったみたいね。また何かじっちゃんに依頼をしたいことがあるのかもね。」
ヴァンは以前不在にしていた時も、『指名依頼』の仕事を受けて、遠征に出ていたのだ。 冒険者ギルドは、ギルドにある掲示板に張ってある依頼書を誰かが仕事を請け負うというのが通常の流れだが、『指名依頼』はその名のごとく、特定の人物に仕事をこなして貰いたいという、依頼者からの指名制度のことなのだ。
ヴァンは元々ギルドマスターであったことからも、その筋では有名人なので、そういった『指名依頼』を受けることは少なくなかった。ただ、レイリアを引き取ってからは、その頻度は減っていた。
「今日はついでにお酒飲んでくるから、そのまま泊まって来るっていてったわね。」 「ちっ、じじいめ。酒ばっか飲んで身体壊してもしらねーぞ」
「・・・ふーん」
レイリアはアレクの物言いにニヤニヤしはじめた。
「な、なに?リアねぇさん?」
「ふふ、優しいのね。じっちゃんの身体のこと心配してるんでしょ?」
「そ、そんなんじゃなくて!だ、だってさ身体壊されたら、まだ教えてもらいたいことあるのに、困るし・・・」
アレクは初めこそ焦っていたが、顔は真っ赤になって最後の方はごにょごにょと尻すぼみな声になっていた。
『ふふ、なんだかんだいって、アレクもじっちゃんが好きなのね』
「アレク、いい子ね」
「え?」
そういうとレイリアはアレクの頭をわしわしと撫でていた。アレクは真っ赤になったままなすがままになっていた。
冒険者ギルドゼルタギルドマスターの部屋にて___
「___というわけだ。」
ギ―ドが話し終えると、ヴァンは面白くさなそうな顔をしてぼりぼりと後頭部を掻いていた。
「ふん、とうとう嗅ぎ付けったってわけか。ま、あの事を考えたら来るんじゃねぇかとは思ってたけどよ。」
「このままほっといてくれたらとか、淡い期待をしてたんだがな。やっぱり甘かったか。」
ギードも不満げな態度を露骨に出していた。
「で、どうするんだ?」
「・・・どうしたも何も、」
ギードはじっとヴァンを見つめ次の言葉を待っていた。
「リアに任せる。つーか俺が決めることじゃねぇからな。」
「だが、殺されそうになったところだぞ!!」
ギードはヴァンの言葉に大きな声で反論した。
「そうだ。それでも肉親の情は当人にしかわからねぇからな。」
「だーーーっ!なんだよ!それ!!」
ギードはヴァンの言い分に納得できなかった。ギードはあの日レイリアが殺されそうになった現場に居合わせた一人だ。そしてそれはヴァンも同じだったことから余計にだ。
「明日リアが依頼のボアファングを持ってギルドに来るだろう。その時に話す。」
「ヴァン・・・」
『リア・・・アレクのことだけでなく、お前もいろいろと大変だな。だが、それでも俺はお前が何を選択しようとも、全力でお前の剣となり盾となろう。』
ヴァンは、持っていたグラスを一気に煽った。




