第十六話
レイリアとヴァンの抱擁が終わると、ヴァンは放心しているアレクの前を通り過ぎると的の近くまで歩き、しゃがんで草むらに手を伸ばすと短剣を持っていた。
「あ、それは!」
先程アレクが投げた短剣に当たったのはヴァンが投げた短剣だったのだ。
「よう坊主。お前がリアが拾ったっていう小僧だな。」
アレクはヴァンの言い方にムッとした。アレクはヴァンを見上げてキッと睨むと、
「じじい、俺は坊主でも小僧でもない。アレクって言うんだ。」
アレクは不貞腐れて反論するなり、そっぽを向いた。
「ちょっ!アレク、じじいなんて言い方しちゃダメじゃない!」
「・・・・・」
「ぶははははは!」
レイリアは慌てたが、アレクの反応を面白いと思ったヴァンは大笑いした。
「そうかそれはすまんかったな。アレク、俺はヴァンデル・ブローム。聞いたかもしれんが、リア、つまりレイリアの親みたいなもんだ。坊主よろしくな!」
ヴァンはニヤッとしながらわざと『坊主』を強調した。そして握手を求めた。だがアレクはその手をバシッと跳ねのけてしまい、
「坊主じゃない!俺はアレクだっていっただろ!」
「ふん、坊主。名前で呼んでほしけりゃせめてこいつ(短剣)を的のど真ん中に当ててからの話だな。」
「くっ!」
アレクは悔しそうにすると、的に刺さっていた短剣を抜いて、
「じじい!見てろよ!!」
そう言うなり、短剣を的に投げ始めた。
レイリアは戸惑っていた。あれだけ聞き分けの良かったアレクがヴァンに会って早々に悪態を付くとは思わなかったからだ。
『えぇ?!一体アレクどうしちゃったの??』
そしてアレクの短剣は的に刺さるも真ん中ではなかった。
「おいおい、さっきリアに言われてただろ。脇が甘いって」
「くっそう!!」
アレクは、繰り返し短剣を的に投げ続けた。その様子をレイリアとヴァンは注視していたが・・・
「なかなか元気な坊主じゃねぇか」
「げ、元気なのはいいんだけど、なんか急に人が変わったみたいに・・・・言葉f使いもあんな感じじゃなかったのよ。どうして急に??」
「ほーそうなのか・・・」
『アレク、言葉使いも全然違うし、ちょっと前までのアレクはどこ行っちゃったのーー?!』
レイリアはアレクの余りの変貌ぶりに動揺していたが、ヴァンはしばらくジッとアレクを見ていたが、あることに気が付いた。アレクがチラチラと見てくるからだ。
「・・・ふぅーんなるほどなぁ。」
「え?じっちゃん何かわかったの?」
「まぁーな」
「え?教えてよ!」
「まーそれはおいおいな。」
ヴァンはニヤニヤとするだけでそれについてはそれ以上語らなかった。レイリアもこれ以上聞いても教えてはもらえないことがわかって、ため息をついていた。
「もーいいわよ。ところで、あんまりアレクに驚いていなかったから、連絡言ったのよね?」
「あーギードから、ちゃんと事の経緯は聞いてるぞ。」
「そっか。ならそういうことで、アレクも一緒に住むからね。」
「何言ってやがる。もう住んでんなら今更だ。リア、匿ったからには最後まで責任持てよ。」
「もちろんよ。じっちゃんみたく、ね?」
ヴァンとレイリアは互いに顔を見合わせて笑っていた。
しかし、そんな二人の様子を見てアレクは面白くなかった。
『なんで?なんで俺はイライラしてるんだ?小僧って言われたから?坊主って言われたから?・・・いやそうじゃない。でもなんだろう?二人を見ていたら、自分が仲に入れないっていうか・・・いやそう言うのじゃ・・ない気がする。あーなんだよ、なんで俺はイライラしてるんだ??』
アレクはイライラしていることに自覚はしていたが、その原因については、わからないままだった。