第十四話
あれから、二週間ほどが経った。
「リアねぇさん、これどうかな?」
アレクは摘んできた薬草をレイリアにチェックしてもらっていた。
アレクの今の格好は、庶民らしい服装で、冒険者ギルドらしく脇には短剣と剣を装備している。心なしか表情もレイリアと出会った頃とは違い、晴れ晴れとしていた。
今二人はギルドから少し離れた川原の近くで、薬草摘みに勤しんでいた。アレクの経験値稼ぎのためにギルドからの依頼である、駆け出し用のミッションをこなしていたのだ。依頼内容はポーション用の薬草摘みである。
「お、わかってきてるわね。それで大丈夫よ!」
「良かった、じゃこれあっちで群生してたからもっと摘んでくる!」
「うん、頑張って!」
街に行ってから一週間ほどで、アレクは結局先延ばしにしていた返事を、彼なりに切り上げて一緒に暮らしたいと、改めてお願いした。そんなアレクにレイリアは微笑んで、
「ふふ、もちろんよ。これからよろしくね。」
「リアねぇさんありがとう」
アレクは照れ臭そうに笑った。
それからはアレクの冒険者ランクを少しでも早く上げようと地道に、レイリアはアレクに合わせた駆け出し用の依頼を精力的にこなすようにしていたのだ。
「えっとリアねぇさん聞いてもいい?」
「ん?何を?」
二人は群生にある薬草を摘んだままで会話をしていた。
「聞いたら失礼かなって思って遠慮してたんだけど、リアねぇさんのギルドランクって今どのあたりなの?」
「あれ?私言ってなかったっけ?」
「聞いてないよ(汗)」
レイリアは初めの頃に伝えていると思い込んでいた。慌ててレイリアはネックレスにしていたプレートを見て、
「えーと銅だからCランクね。」
「え!そんなに?!」
ギルドのランクは11段階あり上から
黒SSランク
白金Sランク
金Aランク
銀Bランク
銅Cランク
赤Dランク
紫Eランク
青Fランク
緑Gランク
黄色Hランク
白初級ランク
となっている。しかし一番上の黒は伝説級であるので、過去合わせても一桁台しか成り手はいない。
ちなみにアレクは白から黄色のHランクに変わったばかりである。
「ギルマスのおじさまが言ってたと思うけど、私ギルドで働くのかなり早かったしね。それなり場数はこなしているもの。」
と、レイリアは笑っていた。そして少し考えて、
「あーでも働くのが早かっただけって訳でもないわね・・・」
「というと?」
「ほら、私じっちゃんと一緒だったじゃない?だからじっちゃんと一緒に依頼をこなすから、自然と自分のランクより高い依頼(仕事)を請け負う事もあったのよね。それで余計に経験値を稼ぎやすくはなっていたと思うわ。本来の自分のギルドランクより難易度の高い依頼を経験していた自覚はあるもの。」
「あぁそうだよね。やっぱり上級者と一緒に少しでも高いランクの依頼方が、経験値は稼ぎやすいよな・・・」
アレクはしばし考え込み、真剣な顔をレイリアに向けた。
「リアねぇさん、僕じゃなくって、俺もそろそろ魔獣を狩ってみたい!」
「!」
「もちろんこういった、薬草摘み大事な仕事だってわかってる。でも俺は早く強くなりたいんだ!」
「アレク・・・気持ちはわかるけど、時期尚早だと思うわ。」
「でも!」
「まだまだ剣技も全然じゃない。」
「うっ・・・」
そうレイリアの指摘通り、ギルド登録してから鍛錬しているものの、アレクはまだまだ初心者である。無理もない、まだ鍛錬は出だしだし、なによりアレクはまだ幼いのだ。
「せめて短剣を的に当てられるようにならないとね。今のままでは前衛なんか当然話にならないし、かといって後衛だったとしても、まだまだ役不足だわ。せめて守られるのではなく。自分の身を守れるぐらいにならないと、話にならないの」
レイリアの言葉は矢のようにグサグサと刺さり、アレクはぐぅの音も出なかった。
「リアねぇさん容赦ない・・・」
「当たり前でしょ!危険なことをするんだもの。それに過信した冒険者がどうなったのか、私は見てきたもの・・・それにね、私はこの年では確かにギルドランクは高い自負はある。だけど今の貴方を完璧にサポートできるかといったら、私には自信がない。だからアレクにはまずはちゃんと自分を鍛えて欲しいの。さっきも言ったけどせめて自分の身が守れるぐらいはなって。」
「リアねぇさん・・・」
アレクは反省した。レイリアの言うことは最もだと思ったからだ。自分の考えが浅はかだと気が付いたのだ。
「ごめん・・なさい。リアねぇさん・・・」
「本当にわかった?」
「うん。まずはちゃんと鍛錬して強くなる!合格もらうまで、危ないことはしない!」
レイリアは屈んでアレクをジーっと見つめ、頭をわしわしと撫でた。
「うん、言い子ね!なら早くこれを終わらせて、鍛錬にとりかかるわよー!」
「うん!」
アレクとレイリアは薬草摘みに戻った。
そこから、少し離れた場所にて___
二人に近づいている足音があることを、この時の二人はまだ気が付いていなかった。