第百二十三話 金の竜の独白
人間たちは勘違いをしている。
我々竜は、巨大な身体と人間とは全く異なる見た目から畏怖の対象と見られるので、勘違いをされているのだ。
本来私達は争いは好まない。
もちろん生きるために生物を捕食するがそれは腹が空いた時だ。
それ以外に他の命を侵害はすることなどしない。
だが人間はどうだろう?
領土を広げようと、他者の権利を奪うべく争いを好み、怨恨で殺傷するのだ。正直辟易と その様は見てきた。関わりたくもなかったから。
だけど、私のそんな思いも空しく、奴らは同族では飽き足らず、竜の力を利用したいがために何度も私を捕獲しようとしてきた。そういった輩はずっと返り討ちにし排除してき た。他の命をどうこうしたくはないが、自分の身を護る場合はもちろん話は別だ。
だが、私はとうとう捕まってしまった。姑息な手によって。
当然私の強大な力は人間に利用されることになった。
・・・地獄だった。こんな無意味な殺りくなどしたくなかった。怯えながら私に向かってくる兵士たち、そして赤子をかかえる平民の女にまで・・・泣き叫ぶさまが耳ついて離れない。本当に本当に可哀想なことをしてしまった・・・
私の心は抉られる思いだった。
そして、私の中に今までなかった感情が生まれた。人間を憎悪する気持ちだ。それによって人間に復讐したい気持ちとそれをしたくないという心。二つの相反する心が私の中で分かれてしまった。そして結局私の力を受け継ぐ者は、人間に復讐したという気持ちから、やがて呪いにかかって死ぬことになってしまった。それを止めることはできなかった・・・
確かに、憎いフィンの血を引く者は私としても全てを受け入れられなかった。だが、同時に私の大事な子供でもあるのだ。それは子孫であっても同じで・・・
だから金の鱗がある子には気を付けていた。私の強い力を受け継ぐ子は、それは病と言う名の呪いに蝕まれる確率が高くなるから。だけど、全てを治めることはできなかった。病と思われている呪いが発動してしめば、止めることはできず、死に至らしめてしまうのだ。
あぁ嫌だ。我が子達が死ぬ様など見たくない・・・
だけど、やっとある時光明が見えたのだ。
アレクと出会った少女が、女神の加護を持っていた。私は出会ってすぐにわかった。
きっと彼女ならこの負の連鎖を断ち切ってくれる、と。
そうして同胞に会った。だけどその緑の同胞は困っていた。番に会いたいと。私は力を貸すことにやぶさかではなかった。そして同時に私の願いも伝えた。同胞は快くそれを快諾してくれた。
やっと、やっと歯車が動き出した。これできっと事態は変わる。私には確信があった。
そして私はアレクの身体を乗っ取り、それを知らしめるために、わざと暴れた。
だが、細心の注意は払っていた。
・・・もう誰も殺したくなかったから。
だが、アレクを傷つけたあの女だけは、アレクの身体を借りた借りに始末しようかと思っていた。
ところが・・・驚かされた。
あの女の素行から、実子と言えど見捨てるのかと思っていたが、そうではなかった。
とっさに我が子をかばったのだ。
私は揺さぶられた。あぁこの女も母親であったのだと。以前女子供を殺した時に泣き叫んで助けを請う様がフラッシュバックした。私が驚いた隙にアレクの意識が私と交代した。
殺そうと思っていたが、怪我だけですんだようだった。
・・・もういいだろう。深追いはしなかった。
そして光明の少女、いやもう人間の大人の女性であったが、私の目論見通り、来てくれた。緑の同胞が必ず知らせてくれると私には確信があった。
・・・そしてその目論みは成功した。
あぁ私はやっと、やっと解放されたのだ・・・・・