第百二十二話
レイリアの『祝福』は『竜紋』が発現している全ての者を解呪した。
つまり、金の鱗がなくなり「金鱗病」だったものは、治ったのだ。
「動く・・・」
ファーレンハイトは今まで動かなった身体を、何度も動かしていた。
「ファーレンハイト、良かった!良かったぁあ!!」
ヨゼフィーネはベッドの脇で泣いていた。自分の息子であるファーレンハイトが病を発症した時から気が気でなかったからだ。
ファーレンハイトは母ヨゼフィーネのことは、自分が皇帝であること以外興味はないのだろうと、そう思っていた。
だけど違った。
金の竜に襲われた時、彼女は身を挺して自分を守ってくれたのだから。
「母上・・・」
「貴方が、無事で本当に・・・よかった」
ファーレンハイトは、ヨゼフィーネの手当てされている肩に視線を一瞬移し、
「母上も無事でよかった・・・」
「ファーレンハイト・・・」
ファーレンハイトは母と気持ちが通じ合えたと、はじめてそう思えたのだ。
当然、バルダザールもラムレスからも金の鱗はなくなっていた。病に伏していたバルダザールも、身体が動くようになっていた。
「まさかこんなことが・・・」
「アレクを匿ってくれていたあの女性の力がそこまでとは、驚きました」
ラムレスの言葉にバルダザールは頷いた。
「まさか呪いだったとはな・・・」
「ですね・・・でも納得しませんでしたか?」
「・・・そうだな」
ラムレスの言うとおり、『竜紋』は力を与えてはくれたが、それが大きな力になればなるほど、死は避けられなかったのことを考えれば納得できるものだった。
「どうして今まで気付かなかったものなのか・・・」
「それは、致し方ないのでは?実際人間の叡智を超えた竜の力が相手では、どのみち現時点ではそれを知るすべはなかったのですから・・・ブローム嬢の説明にあった通りでしょう」
ラムレス達はレイリアとヴァンから呪いのことを聞いていた。それが通常では呪いだと見抜けなかったことも。
「そして、これからは今までのやり方では通用しなくなります」
「・・・その通りだ」
ラムレスの言う、今までのやり方とは、今までは金の竜の力の象徴である『竜紋』で得た力を利用して、政を行っていた。それがなくなった今、これからはそれがない状態でどうやって国を民を率いていくのか、また他国とどうやって関わっていくのか、それが今後の課題となるからだ。
「・・そしてアレクの処遇についてはどうなさいますか?」
「アレクか・・・」
今回の騒動は、アレクの意思とは関係のなく、金の竜に乗っ取られていたとはいえ、アレクの身体が行ったことだからだ。
「我は決まっている。だが・・・」
「だが?」
「今の皇帝はファーレンハイトだ。決めるのはあやつだ」
「そうですね・・・」
アレクの処遇についてはファーレンハイトに委ねられた。
そして、あの騒ぎの中、あれだけ塔の倒壊や王宮の崩壊があったにも関わらず、怪我人は数人いたものの、死者は誰一人いなかったのだ。
「うーん・・・」
「リアねぇさん、気になることでもあるのか?」
アレクはまだ体調が戻っていないため、まだベッドから出られなかった。
「多分だけどね、金の竜はわざと引っ掛かってくれたんだと思う」
「え?わざとって?」
「こちらの見え見えの手に乗ってくれたんだと思うわ」
「どうして・・・?」
「リョクに聞いたんだけどね・・・・・」
レイリアはリョクが話していたことをアレクに伝えた。