第百二十一話
レイリアの祝福の光がリンデルベルク帝国の王宮を満たした。
「うぅうううっ!!!」
金の竜はうめき声を上げた。そして同時に身体にまとわりついていた黒いモヤは霧散していき、異形の姿をしていたその姿は、人間の姿に戻っていった。その時、
『迷惑をかけたな・・・ありがとう・・・』
落ち着いた凛とした声が聞こえた。その声が金の竜だったとわかったのは、後になってからだった。そしてアレクから金色に光る小さな球が身体から出ていったのだが、それには誰も気が付かなかった。
やがて、完全に人の形に戻ったもののアレクの意識は朦朧としていた。アレクの目にはレイリアがアレクを覗き込む様が見えた。
「リア・・ねぇさん・・・」
「アレク!アレクなのね?!!」
『あぁ、リアねぇさんだ・・・だけどねむく・・て・・・』
レイリアのアレクの名を呼ぶ声が聞こえるも、アレクはどうしても瞼を開けていられず、意識を失った。レイリアは倒れていくアレクを慌てて支えた。
「あ・・・・」
「アレク!!!」
アレクは目を開けた。そしてその声で完全に目が覚めた。
「リアねぇさん!!」
「アレク、良かった良かったぁあああ!!!」
アレクが目を覚ますなり、レイリアは寝ているアレクに抱き着いた。
「リアねぇさん??!!」
いきなり抱き着かれたので、アレクは一瞬で顔が真っ赤になっていた。だけどレイリアから発せられた言葉はアレクにとって想定外だった。
「バカバカバカバカバカ!!どうして、あんなになるまで、連絡の一つ寄こさなかったの?!」
「あ・・・そうか、そうだよな。ごめんリアねぇさん。心配かけて。それに、助けてくれてありがとう。リアねぇさんは絶対俺がピンチな時に駆けつけてくれるね」
「当たり前じゃない!でもこんなギリギリの状態じゃなくて、もっと早く言ってほしかったわ!」
「うん、ごめん。ほんとうに」
アレクはレイリアがわざわざリンデルベルク帝国の王宮まで助けに来てくれたことに、嬉しさがこみあげていた。そしてアレクは同時に気が付いた。
「あれ?そういえばなんでリアねぇさんはここにいるの?事情も知ってそうだけど?」
「リョクよ」
「リョク?」
「リョクが教えてくれたの。アレクが危ないって。だからリョクにここまで乗せてもらったの。」
「そうか、リョクが・・・」
「アレクに貸しを返したいからだって。本当にリョクは律儀よね」
「そうだったんだ・・・」
「うん・・・・」
「「・・・・・」」
アレクは少し困っていた。いや正確には嬉しいのだが、レイリアはずっとアレクに抱き着いたままだったからだ。
「あの、リアねぇさんそろそろどいてもらっていいかな?」
「やだ」
「え?」
まさか拒否されるとは思わず、アレクは驚いていた。
「この体制じゃ、リアねぇさんの顔が見えないんだよ。だからどいてほしいんだけど・・・」
「見なくていい」
「ええ!」
また拒否されてしまい、アレクはとまどった。
「ど、どうして?」
「・・・私今顔がぶさいくだから」
「え?ぶさいく?」
「泣き顔はぶさいくだから、見せたくないの!!」
「!!」
『リアねぇさん可愛い!!』
アレクは、レイリアに抱き着かれたままの体制で突然起き上り、ベリッとレイリアを引きはがした。
「ちょ、やだ!見ないで!!」
レイリアは必至で顔をかくそうとしたが、アレクは両手をがっちりとおさえ、それを許さなかった。
「いやだ。五年振りのリアねぇさんなんだ。泣いていても顔がみたい」
「!」
その言葉に今度はレイリアが真っ赤になっていた。ただしまだ乾いていない涙の痕があったが。それでもアレクはジッとレイリアの顔を見つめた。そしてうっとりと、
「リアねぇさん久しぶり・・・その大人っぽくなったね」
「あ、当たり前じゃない!五年も経ったんだから!」
レイリアはアレクを直視できなくて、目線を合わせないようにしていた。
「アレクも・・・その昔より身体が大きくなったわね。背も伸びてるんじゃない?そ、それに、アレクも大人っぽくなったわよ・・・」
レイリアの言葉は最後の方は少し声が小さくなっていた。アレクはレイリアを見つめながら、意を決したように次の言葉を赤面しながら言った。
「・・・リアねぇさん、綺麗になった」
「!!!」
アレクの言葉にレイリアは驚いた。
『え?え?アレクだよね?なんで?こんなセリフ言うような子じゃなかったのに!』なんか前と違うっていうか、こう大人の男になってきてるというか・・・』
「な、な、なななな何言ってるのよ!!」
レイリアは真っ赤になって、しどろもどろに言った。
レイリアは、以前よりも体格も容姿も大人びて変わってしまったアレクにドギマギしていた。戦いの最中は竜化した姿だったので、本来の成長したアレクの姿を改めて見たのはこれが初めてだからである。懐かしくもあり、アレクの今まで知らなかった男の一面を垣間見たようでレイリアは少しパニくっていた。
「あーゴホンゴホン」
「「!!!」」
「わりぃな。野暮なことしちまって。ただお客が来ているからよ」
ヴァンはニヤニヤしながら、真っ赤になっている二人に言った。
アレクが寝ていた場所はリンデルベルク帝国の離宮にある、客間だった。
ヴァンもしばらくは、二人だけの世界に入ってる様子を静観していたものの、部屋に客人が来たので、声をかけざるを得なかったのだ。