第百十九話
カキンカキンと、硬質な音が連続で鳴り響いていた。
二人はまた激しく打ち合っていたのだ。
「私はあんたの正体を知っているからね。だから私には勝機がある」
「正体だと?」
レイリアはそれに返事をすることなく、金の竜に仕掛けた。真正面から剣を掲げジャンプし、上から切りつける形になった。
「バカの一つ覚えか!!」
金の竜は言うなり、レイリアに向かって、手をかざした。魔法を行使するためだ。
「『雷槍』(らいそう)!!」
今度の魔法は広範囲ではなく、一点集中狙い。レイリアだけに焦点を定めた魔法だった。それは雷でできた槍のように発動した。
「死ね!!!」
「きゃぁあああああ!!!」
そしてそれは、レイリアに直撃した。金の竜は、してやったりと思った瞬間、するとどこからか、数本の鎖が金の竜目掛けて放たれた。それは、首や手足、銅や尻尾にと絡まり、あっという間に金の竜の身体の自由を奪った。
「なんだと?!!」
「真打登場ってな!」
その声はヴァンだった。そして手には、今しがた金の竜を拘束した鎖が握られていた。
「老いぼれまでいたのか?!」
「奇襲も戦略のうちだ!それに・・・久しぶりの対面はじじいより、若者同士が先の方がいいだろ?」
そう言うと、ヴァンはニヤリと笑った。金の竜はすぐさま倒れているレイリアを見た。
魔法は直撃したが、レイリアはまた起き上ってきた。
「ばかな!直撃だったはず?!」
ユラユラと立ち上がったレイリアは衣服がさらにボロボロにはなっていたものの、身体は大丈夫そうだった。そして先ほどとは違う腕をまくり、
「これなーんだ?」
レイリアは腕を見せた。そこには先ほどと同じく、腕輪のアーティファクトが装備されていた。
「二つ付けていただと?!」
金の竜は驚きに目を見開いていた。
「だから言ったでしょ?備えあれば憂いなしって」
レイリアの表情はまるでいたずらが成功して喜んでいる子供のようだった。
「悪いけど、あんたを固定しないとだめなのよね。でも、言ってもじっとなんてしてくれないでしょ?だからこういう手段を取らせてもらったの」
レイリアの目的は、アレクの身体を乗っ取った金の竜を少しの時間でいいから動かなくすることだった。そのために、ヴァンとは別行動をして、油断させたところへ魔力の籠った鎖でアレクこと金の竜を捉えることだったのだ。
「無駄だ!こんな鎖など引きちぎってくれる!」
「おおっと。そいつは高名な魔法使いが魔法付与した代物でな。そう簡単には引きちぎれねぇぜ」
「なにぃ?!」
「ったりめぇだろ?竜を捉えるんだぜ?こっちだってそれなりの装備は整えてくるさ。力は勿論、魔法封じも付与されている。だから魔法が使えねぇだろ?」
「くっ!!」
金の竜は悪態をついていたが、ヴァンは気にせず、「まーそれなりに、かなりふっかけ(金がかかった)られたけどな」とヴァンは鎖を持ちながら笑っていた。金の竜はそれでも諦められず、鎖を引きちぎろうと奮闘していた。
「っとと。ったく大人しくしてくれよな!」
「うるさい!うるさい!うるさい!人間のくせに我を拘束するなど!!」
尚も暴れようとしていた時、金の竜は動きを止めた。
『俺は・・・帰りたい。帰りたい、リアねぇさんの元に!じっちゃんらとまた暮らしたいんだ!!』
「ぐっ!!身体が?!!おのれ!・・アレク!」
アレクの強い思いは、暴れていた金の竜の動きを止めた。
そしてレイリアだけでなく、ヴァンの参戦により金の竜は自分の不利を悟っていた。そこへ内側からアレクの思いにより身体の自由が利かなくなり、
「アレク!ナイスアシストよ!」
レイリアは内側からアレクが金の竜の動きに働きかけていることに気が付いた。そして金の竜の前に踊り出た。
「・・・・解放してあげる」
「なんだと・・?!」
レイリアにはリンデルベルク帝国に来た時からずっと見えていた。アレクを、金の竜を取り巻く黒いモヤが。そしてそれは今まで見た中でも群を抜いて大きく歪だったのだ。
『黒い霧よ、退け!・・・そしてアレクを返して!』
「解呪」
「それは・・・・!!」
レイリアは金の竜の額の辺りに手をかざし、『祝福』を使った。レイリアの身体から光が溢れだし、その光によってリンデルベルク帝国の王宮は暖かい光で包まれていった。