第百十七話
リンデルベルク帝国の国境の山の麓にリョクは着地した。その姿は人のそれではなく、以前洞窟で見た大きな緑の竜の姿だった。
「すまないが、私が手を貸せるのはここまでだ。これ以上は不義理になってしまうからな」
リョクは申し訳なさそうに言うも、そのことにレイリアは納得していた。
リョクはアレクの力を借りたとはいえ、その元の力は金の竜だからだ。だからこれ以上は手を貸せないと、アレク奪還までの手伝いはできないと言ったのだ。リョクの立場もわかっていたレイリアはリョクに笑顔を向けた。
「大丈夫。わかってるわ。ここまで連れてきてくれたんですもの。大助かりだわ」
「アレクにも世話になったからな。これだけで貸しを返したとはいいがたいが・・・」
「ふふ、アレクはそんなこと気にしないわよ」
「そうか。」
リョクは、少し思い詰めた感じで、
「レイリアよ、相手は我と同じ竜だ。心してかかれよ」
「えぇ、ご忠告ありがとう。絶対にアレクは連れ帰るから!」
「うむ、そしてもう一つ助言だ。恐らく、金の竜は・・・・・」
現代に戻る___
『リョクがせっかく教えてくれたんだもの!無駄にはしない!!』
「アレク、あんたのことだから、どうせ帰らないと私に迷惑かけるとか思ったんじゃないの?」
「!!」
「見くびらないで貰える?私のランクは伊達じゃないの。もし私の命を狙おうとかする、身の程知らずの頓珍漢な輩には、思い知らせてあげるわよ!」
そういうと、レイリアはアレクに首にかかっていたプレートをチラリと見せニヤリと笑った。それを見たアレクは目を見開いた。
「・・・リアねぇさん、また強くなったんだね・・・」
「当たり前でしょ。じっちゃんっていう師匠が私にはついているんだもの。それに私はじっちゃんを超えるって目標にしてたんだから、当然よ!」
レイリアの顔は自信に満ち溢れたものだった。アレクにはその顔がまぶしく思えた。
『あぁ、リアねぇさんは相変わらずで、そして・・・そうだ。俺は何を見誤っていたんだ。・・・あの時、戻らなければレイリアに迷惑をかける。と言われ、リアねぇさんまで狙われて命を脅かすことになるかもしれないから、なんて思ってたのに・・・そうだよ。一緒に側にいて守れる選択も一緒に戦う選択だってできたのに・・・』
アレクの目から涙がこぼれていた。
「ごめ・・ごめんリアねぇさん!」
「わかったのなら帰ろう。サザの森へ」
「うん、俺帰りたい!!」
アレクが泣きながら笑顔で言ったその瞬間、
「ぐっあぁあああああ!!」
アレクの顔は苦痛に歪んだ。全身に激しい痛みが走ったのだ。そして、胸を掻きむしるように蹲った。
「アレク?!」
「うるさい!!この小娘が!!」
その口調は、アレクのものではなくなっていた。
「小娘って・・・アレクより年上なんだけどね?・・・ってあぁ、中にいるあんたからしたら、確かに私は小娘だわね」
腹の立つ言い回しではあったが、言われている内容はもっともだと納得したレイリアだった。
「さっさと出ていってくれない?アレクは私と一緒に帰るんだから」
「ふん!竜の血脈がそう簡単に切れると思うな!小娘が!!言っただろう?我を起こしてただですまないと!!人間如きが我に勝てるとでも思っているのかぁあ!!」
アレクの顔は狂暴になっていた。ある意味入れ替わりがわかり易いと、レイリアは思っていた。
「ふーんだ。当たり前じゃない。私がなんの算段もなしにここに来たとでも思っているの?」
そういうと、レイリアは不敵な笑みを浮かべた。
「我と同じ竜の助力があるのなら、我を何とかできるとでも思っているのか?」
「まーそうしたいのは山々なんだけどね。だけど竜の世界も律儀なようね。リョクはここまで連れてきただけで、他は手は借りていないわ。不義理になるからって」
「・・・ほう。で、あれば人間の身で我と対抗しようと?愚かなことだ」
金の竜は鼻で笑った。しかしレイリアは気にすることもなく、
「やってみなくちゃわからないでしょ?だってこう見えて私・・・」
レイリアは自身の首にネックレスとして付けていた白金色のプレートを掲げた。
「冒険者ランク白金のS級なのよね!」
レイリアは、さらに実力を上げていた。アレクと別れてから一心にギルドの依頼をこなしていたのだ。まるで心の隙間を埋めるかのように。そうしたら、メキメキと実力を上げ、冒険者の最高峰SS級から二番目の位置、S級の冒険者にまで登り詰めたのだ。
「自分で言うのもなんだけど、そこらの騎士よりは強いわよ?だから舐めないでもらいたいわね」
「言うな・・・人間風情が・・・・」
レイリアは目の前にいる金の竜を見据え剣を構えた。




