第百十二話
王宮の一角にあった塔が崩壊したことで、王宮では大騒ぎになっていた。
勿論、王宮だけでなく、王都も大騒ぎになっていた。
「なんだ?!いきなり塔が崩れたよ?!」
「俺見たんだ!金色の光ったあとに、雷が落ちて来たんだ!」
「なら雷の仕業??」
「うわ、こっちにまで、雷が落ちてきたらやべーよ!!」
雷魔法のせいで、天候と誤解する者がいたのが、不幸中の幸いであった。
しかし王宮では、異形のモノの仕業であると、報告がされていた。そして王宮に向かっている異形のモノが目視されていたので、すぐさま臨戦態勢を取らねばならなかった。
「塔を破壊し、現われたるは異形のモノかと!全身金色の鱗に包まれ、蝙蝠のような羽とトカゲような尻尾があり、頭には角が二本ずつ生えていたのを目撃されております!!!」
塔にアレクがいることは極秘となっていたので、魔物の襲来ではないかと、推測されていた。だが、バルダザールやファーレンハイトはそれがアレクの慣れの果てだということは、瞬時に理解していた。
「陛下お逃げください!我々が食い止めます!」
バルダザールやファーレンハイトは臣下から脱出するよう促されていた。だが二人共首を縦に振らなかった。
「だめだ。だめだ!!私は逃げない!!」
ファーレンハイトは激しく抵抗していた。
「何を仰っているのです?!魔物はもうすぐそこまで来ているのですよ!!早くお逃げください!!」
臣下は、必死でファーレンハイトを説得しようとしたが、頑としてファーレンハイトは応じなかった。
そこへ、ドアをノックもせずにいきなり部屋に入ってきた人物がいた。
「ファーレンハイト、何をしているの?!早く逃げるのよ!!」
その人物はファーレンハイトの実母であるヨゼフィーネだった。
「母上・・・では、母上だけでもお逃げください」
「何を言ってるのよ!私よりも肝心の貴方が逃げないと、意味ないでしょ!貴方は皇帝なのよ!」
「私はいいのです。逃げるわけにはいかないんだ!」
ファーレンハイトが珍しく声を荒げていったので、ヨゼフィーネは驚いた。ファーレンハイトは普段から温厚な性格ゆえ、声を荒げるなど今までなかったからだ。
「な、なぜそんなに、頑ななの?」
「・・・・・」
ファーレンハイトは後悔していた。アレクを呼び戻さなければ、アレクがこんなことに巻き込まれなくてすんだのではないか、と。
アレクはサザの街で幸せに暮らしていた。アレクが本当は帰りたくないことも知っていた。なのに、皇族であるがゆえに連れ戻すことになってしまった。そしてこのような顛末に、ファーレンハイトはただただ後悔していたのだ。
「・・・なにが・・・」
「ファーレンハイト?」
「なにが皇帝だ!!私は無力じゃないか!弟一人幸せにしてやうこともできないなんて、私は・・・!!」
「弟・・ってアレクのこと?一体なんのことを、」
ドゴォオオオンン!!
「「「???!!!」」」
ヨゼフィーネが聞き返そうとした時、いきなり外側の壁が轟音と共にぽっかり穴が空いた。ファーレンハイトの寝室の壁を外からぶち破ったものがいた。そしてその衝撃で臣下の者が倒れた。
「な、なに奴?!!!無礼な!!陛下の御前ですよ?!」
ヨゼフィーネは、穴の開いた方向に恐ろしさに震えながらも虚勢を張っていた。ベッドにいるファーレンハイトの前に両手を広げ庇うように立っていた。
「母上・・・・」
自分を庇おうとして立ちふさがっているヨゼフィーネの姿に、ファーレンハイトは目を見開いて驚いていた。なぜなら、母であるヨゼフィーネはきっと自分を見捨ててさっさと逃げるだろう思っていたからだ。
「ほぅ、アレだけアレクを痛めつけていた割には、自分の子は守るとは・・・ふふ人間は面白いな」
「ひぃっ」
外側のぶちぬかれた壁から出て来たのは、姿の変わったアレクだった。その異形の姿を見て、ヨゼフィーネは卒倒しそうになるも必死で耐えていた。