第百九話
場面は変わり、浮遊感のある、あの深層意識の世界に戻った。そして気付けばいつの間にか、頭には二本の長い角と蝙蝠の羽のような翼を持った黄金の鱗を持つ巨大な竜がアレクの目の前にいた。
『どうだった?お前の始祖は。』
「クソとしかいいようがないな」
『くくっ気が合うな。我も同感だ』
アレクの回答に金の竜は満足そうだった。
「で、代償というのは、どういうことなんだ?」
『簡単なことだ。身体を返してもらう。それだけのことよ』
「身体を、返す?」
アレクは、言われた言葉の意味を考えていた。
「身体って・・・いや先ほどの映像でいうなら、自分の子供に憑依したんじゃないのか?」
『・・・・実際は少し違うな。我は完全には乗っ取ってはいないからな。・・・正確にはできなかったが、正しいが』
「できなかった?」
『・・・・』
金の竜はその問いには答えなかった。アレクも答えを返す気がないのだろうと察し、確信を突くことにした。
「つまり、身体を返せって言うのは、俺の身体ってことなのか」
当たって欲しくはないが、ここまできたらアレクはそれしか思いつかなかった。
『その通りだ。今までの我の血脈を受け継ぐ者では役不足だった。だが、アレク!やっと我を受け入れられる器ができたのだ!!』
「・・・俺は全然承諾していないけどな」
アレクがぶっきらぼうに言うが、金の竜はふんと笑い、
『お前の意思などどうでもいい。器ができたこと、それが最重要なのだから!』
「金の竜、リリアナであったお前の過去には同情するが、だからといって俺は易々とお前に身体を明け渡す気はないぞ」
そう言いつつも、実際のところ状況は自分に分が悪いことはアレクは自覚していた。既に意識がないことが何度もあったのだから。今覚えば、それは乗っ取られていたのだろうと、アレクは信じたくないながらも認めざるを得なかった。
『虚勢を張っても無駄だ。アレク、お前もわかっているだろう?』
「・・・・・」
金の竜の言葉にアレクは無言で睨みつけた。そして金の竜は自身の翼を広げた。すると、アレクに強烈に睡魔が襲い掛かってきた。
『もうすぐ、我の成就は叶う!アレクよ!せいぜい足掻くがいい!!』
金の竜の声が笑い声と共に遠くに聞こえてきた。だが、アレクにはまだ聞きたいことがあった。
「待て!まだ質問したことが!・・・」
『その時はもうすぐだ!!』
金の竜の言葉の「もうすぐ」という言葉を最後に、アレクはそのまま睡魔に襲われ、そして意識を失った。
「・・・レク、アレク、アレク!!」
「!」
ファーレンハイトの掛け声で、アレクは目を覚ました。
「あ・・にうえ?」
「アレク・・なのだな?」
確認するようなファーレンハイトの問いに、アレクは頷いた。
「?もちろんです。兄上。」
「・・・みたいだな。よかった。」
ファーレンハイトの安堵したような声にアレクは気が付いた。
「兄上・・・もしかして、アレと話したのですか?」
「え?あぁ・・・」
アレクの言葉にアレクが何を言いたいのか、ファーレンハイトも気が付いた。そしてそれは、アレクももう知っていることに、ファーレンハイトは気まずそうな顔になっていた。
「知っていたのか?」
「いえ、知ったのはついさっきです。本人から聞きました・・・不本意でしたがね」
アレクは自嘲気味に言った。
「そうか・・・そうだな。私もアレと話したのは先ほどのが初めてだ」
「俺が意識がなくなってから、どれくらい経ちましたか?」
「数分くらいしか経っていなかったと思うぞ。これ以上呼びかけに応じなければ、さすがに医師に診てもらおうかと思っていたがな。目を覚ましてくれてよかった」
「そうでしたか、数分くらいのことだったんですね・・・」
先ほどまでの金の竜との会合がわずか数分の出来事であったことに、アレクは少し驚いていた。
そして、アレクはゆっくりと立ち上がり、
「兄上、申し訳ありませんが、気分がすぐれないので、少し休ませてください。後ほどわかったことは報告します・・・」
「そう・・だな。ゆっくり休んでくれ」
「失礼します」
アレクはヨロヨロと、ファーレンハイトの部屋を退出した。
その頃____
イ・ベルディ獣王国の王宮にて。
「!!」
深緑の髪の金色の目を持つ男は何かに気が付き、思わず振り返った。振り返った方向にはリンデルベルク帝国がある。
「そうか、もうそろそろか・・・」
その言葉を聞いたミルナスは不思議そうに首をかしげ、
「リョク殿どうしたのじゃ?」
リョクと呼ばれたその男は、リョクが小さい男の子の姿だった時の成長した姿だった。
「ミルナスよ、すまないが・・・・・」
そしてリョクはミルナスに、あるお願いをしていた。