第百五話
ファーレンハイトの寝室にて、いつものように寝室を仕事部屋にしていたファーレンハイトは、ベッドで上半身だけを起こし、書類を見ながら傍で待機しているアレクに呼びかけた。
「アレク、あの件はどうなったかな?ハーモア橋の件だが、その後の進捗は聞いているか?」
「あぁ、それでしたら・・・・・」
「?」
その後のセリフが続くかと思い待っていたが、一行にその続きの言葉が聞こえないことに不審に思い、ファーレンハイトは、アレクに呼びかけた。
「アレク?続きは?」
「くっくくくくっ」
「アレク一体どうし・・・?!」
アレクの笑い方に違和感を感じたファーレンハイトは怪訝な顔をしたが、アレクを見て一瞬で理解した。それはアレクではないことに。なぜなら、アレクの目が本来の青色ではなく金色に変っており、そして瞳孔が縦長になっていたからだ。
「お前は・・・何者だ?!」
ファーレンハイトは、ベッドにいながらもすぐ傍に常備してある剣をすぐさま帯剣し、構えていた。ファーレンハイトは、警戒しながらも考え、そしてその考えは直ぐに辿り着くも、当たって欲しくないと思っていた。
「愚問だな。とっくに見当はついているだろう?」
アレクの姿をしたそれは、アレクの声でファーレンハイトはをあざ笑うかのように挑発していた。そしてファーレンハイトは先ほどの当たってほしくなかった考えが間違いでなかったことに、落胆していた。
「・・・金の竜だな」
「くくっ、伊達に皇帝ではないということか。その通りだ。光栄に思うがいい。この国の始祖たる我と言葉を交わせたことにな」
アレクの姿を借りた金の竜は尊大な態度だった。
「アレクの身体に取りついているのか?」
「取りつくだと?失礼なやつだな。そもそもお前の身体にも我の血脈が流れているだろう?我が子孫よ」
「・・・ではなぜ、急に出て来たのだ?何か意図があるからであろう?」
ファーレンハイトは、金の竜の圧に怯みそうになるも、皇帝たる自分が弱みを見せてはいけないと精一杯の虚勢をはった。
「その通りだ。実はそろそろ清算してもらおうと思ってな」
「清算?それは一体なんのことだ」
ファーレンハイトは、金の竜の言葉の意味がわからなかった。
「もう、そろそろ頃合いだと思ったからだよ。我もこのように顕現できるようになってきたからな」
そういってアレクの姿をした金の竜は不気味に笑っていた。
「言っている意味がわからない。理由を言ってくれ!」
金の竜の言葉の意図がわからず、ファーレンハイトは声を荒げた。すると、その声に反応して部屋の外にいた近衛騎士が声をかけてきた。
「陛下!何事ですか?!」
「なんでもない。少し議論が過熱しただけだ。引き続きそこで待機しておけ」
「御意!」
ファーレンハイトの命に、近衛騎士は忠実だった。
「くくくく、お優しいことで。」
「・・・・・」
ファーレンハイトはキッと金の竜を睨みつけていた。今のところ、金の竜は自分に危害を加えるつもりがないことに、ファーレンハイトは気付いていた。だが、それはあくまで自分にであって、入ってきた近衛騎士もそうである保証がないことから、ファーレンハイトは近衛騎士の入室を止めたのだ。そしてそのことを金の竜は見透かしていた。
「ふむ、そろそろ限界だな。引っ込むとしよう」
「待て!まだ理由を聞いていないぞ!」
ファーレンハイトも、金の竜が消えようとしていることに気が付き、慌てて問い詰めたが、
「清算の意味は・・・この小さき者・・・あぁアレクと言うのだったな、こやつは。アレクに伝えてあるから聞くがいい。」
「アレクが知っているのか?」
ファーレンハイトが聞き返すと、金の竜は返答ではない言葉をボソッと呟いた。
「・・・・・お前のように優しい君主であればよかったのにな・・・」
「え?」
そういうと、アレクの姿を借りた金の竜はニヤッと笑い、そのまま意識を失い、アレクはそのまま倒れてしまった。
「アレク、アレク、アレク!!」
ファーレンハイトが何度か呼びかけるも、アレクの意識はすぐさま戻らなかった。