第百二話
リンデルベルク帝国、上皇の寝室にて_____
「アレク、陛下だ」
「・・・・・」
アレクがリンデルベルク帝国に帰還後、父であるバルダザールと面会した。会ったとたんアレクは面食らっていた。
「アレク、アレク!!本当に、本当にすまなかった!」
「・・・・」
会うなりいきなり、バルダザールはベッドで上半身を起こした姿勢で、横にいたアレクをいきなり抱きしめたのだ。突然の抱擁にアレクは固まっていた。以前の対応と180度違う様に驚きを隠せなかった。
「兄上、お気持ちはわかりますが、アレクも困っていますよ」
ラムレスがやんわりと注意すると、バルダザールは慌ててアレクを解放した。
「そ、そうだったな。すまないアレク・・・」
「・・・いえ」
当然のことながらアレクは戸惑っていた。
『本当に、あの父上なのか?まさか別人では・・・?』
そんなアレクの心情がモロに表情に出ていたので、ラムレスは少し困ったような顔して、
「アレク、気持ちはわかるが本当に兄上だ。お前の父親であり、上皇であるバルダザール・フォン・リンデルベルクだ」
「・・・疑ってすみません」
「いや、そう思うのも仕方ない変貌ぶりだからな。戸惑うのも無理はない」
「アレク・・・」
バルダザールはアレクの目をジッと見つめて名を呼んだ。そして頭を下げた。
「許して欲しいとは言える立場でないのは、わかっている。本当に・・・今まですまなかった!」
「!!」
あの父が、頭を下げるなどとアレクは一瞬理解することはできなかった。
「お前が去っていったあと、我も病を発症してな。そして・・・夢の中でベアに怒られた。父親のくせに何をやっているんだと・・・」
「・・・・・」
「情けないが、ベアに言われるまでわかっていなかった。自分は皇族で甘えは許されなかった。だが、そんな中で我の唯一はベアだった。ベアだけが私の癒しだった。そしてベアがいなくなり、私は自棄になって周りを見ていなかった。実子である、アレクやファーレンハイトでさえも・・・」
「・・・」
「特にアレク、お前にはひどい事をたくさん言ってしまった。ベアのことはお前は何も関係ない。むしろ・・・どうしてベアの忘れ形見であるお前を大事にできなかったのか・・・本当に、本当に我はバカだった・・・」
バルダザールの悔やんだ声に後悔しているのは伝わってきたが、アレクはそれにどう返答すればいいのかわからなかった。だからこそ、思ったことを伝えようとした。
「その、ち、父上の心境の変化はよくわかりました。でも、思い出と違いすぎて、それに思ってもいないことだったので、今はどう答えていいのかわからない・・・」
「そ、そうだな。性急すぎたようだ。帰還して早々だったからな・・・」
「はい・・・」
「「・・・・・」」
二人の間に微妙な空気になったところへ、バルダザールが咳き込んだ。
「ゴホッゴホッ!」
「兄上!」
慌ててラムレスが傍にかけより、背中をさすっていた。そしてメイドを呼んだ。
「兄上、きっと興奮していらっしゃるからだ」
「そう・・だな」
メイドが来たのでラムレスは指示をして、アレクと共に部屋をでた。
部屋を出た後、すぐにラムレスが口を開いた。
「アレク、兄上が反省したというのは伝わっただろう?」
「はい、それは・・まぁ伝わりました」
「兄上自身も言っていたが、だから許せと言っている訳ではない。ただ謝罪がしたかった。それだけなんだ」
「はい・・・」
「今すぐに仲直りしろと言っている訳ではないからな。それに強要するつもりもない。許すも許さないもそれはお前自身が決めることだ」
「わかりました・・・」
アレクは困惑した顔を浮かべたまま、部屋を後にした。
そんなやり取りがアレクが帰国早々にあったのだが、結局あれからもバルダザールとアレクの父子関係は蟠りがすっかり溶けた訳ではなく、微妙な空気感のままだったのだ。