第百一話
嘆いているわけにはいかない。
これが、アレクの出した結論だった。
『いつ発症するかはわからない。だけど、やっていくしかない。その為に俺は戻ってきたのだから・・・』
金鱗病について知ったばかりのアレクは当然のごとく、ショックを隠しきれないでいた。だが、それも時が経つにつれ、冷静に考えられるようになってきた。
『冷静に考えれば、俺は知ったばかりだけど、父上も兄上もそれに叔父上もいずれはそうなることを知っていたんだ。それでも、自棄にならず皇族としての責任を果たそうとしているんだ。ならば俺は?俺は・・・』
リンデルベルク帝国に戻って、『竜紋』のデメリットを聞いた時は、アレクはしばらく落ち込んでいたが、兄であるファーレンハイトやラムレスの皇族としての責務を全うしようとしている姿勢に、アレクの考えは少しずつ変化していったのだ。
アレクはファーレンハイトのサポートするべく、まずは教育を叩き込まれた。ラムレスの指示のもと、アレクには帝王学や経営学など外国語など、遅ればせながら皇族としての教育が施されたのだ。
「叔父上、アレクの調子はどうですか?」
「思っていた以上に飲み込みが早い。この調子ならもうすぐ公務を行えると思うぞ」
「それは頼もしい」
二人は、アレクの急成長を喜んでいたと同時にアレクに対して罪悪感は拭えなかった。
『恐らく、一心不乱に勉強をすることで、考えないようにしているのだろう・・・』
ラムレスはアレクがサザの街で冒険者として活躍していたこと、ヴァンやレイリア達と生活を共にしていたことは知っていたので、余計にそう思っていた。
それから数年後、アレクが十九の年になった頃には、ファーレンハイトの片腕として公務に勤しんでいた。
そしてその頃、アレクは自身の身体に少し違和感を感じていた。
「・・・気のせい・・・じゃないよな?」
自室にて、アレクは上だけ服を脱ぎ、上半身を鏡で見ていた。
「金の鱗の範囲が広がってる?」
冒険者だった頃にアレクは竜の力を増幅したが、それは同時に皮膚に浮かぶ金の鱗の範囲が広がった。しかしそれからは特に変化はなかったのだが、ここ最近になって鱗の範囲が広がってきていることに気が付いた。
「・・・まさか発症した・・のか?いや・・・でもこんな症例ではなかったはずだ・・・」
『竜紋』を持つ、力の強いものが避けられない金鱗の病。だが聞いていたのは範囲が広がると言った症例ではなく、動かなくなると聞いているからだ。
「明日にでも叔父上に相談するか・・・」
もしかしたら過去にそういった症例があるかもしれないと、アレクは得体のしれない不安を淡い期待でごまかそうとして、ベッドにはいった。
そして翌朝、ラムレスに確認したところ、
「そんな症例は聞いたことはないな・・・」
「え・・・?」
淡い期待は、本当に淡いままで消えてしまい、アレクの中で得体のしれない不安が大きくなってしまった。
「期待はできないが、兄上にも聞いてみるか?」
「ち、父上ですか・・・」
アレクは、正直なところ戸惑いがあった。
父であるバルダザールとはまだ蟠りがあるからだ。
アレクがリンデルベルク帝国に帰還後、バルダザールと面会した。その時もかなりぎこちないものになっており、そしてそれは今もなお引き摺っていたからだ。