第百話
「僕は、皇帝になったのも最年少だったが、病気を発症したのも最年少記録という皮肉なことになってしまったがな」
「兄上・・・」
自嘲気味にそうファーレンハイトはそう言った。
「しばらくは持ちこたえられる、そう思ってたんだ。だから・・・」
ベッドに上半身だけ起こしていたファーレンハイトは、拳をギュッと握りしめた。
「本当は呼び戻すなんてしたくはなかった。だけどアレク、お前も『竜紋』が、それも一段と強い『竜紋』が現われてしまった。私がこんなことにならなければ、たとえ『竜紋』が発現したとしても、戻ってもらうつもりなどなかったのだがな」
「兄上・・・・・」
アレクは、リンデルベルク帝国に戻った時のことを思い出していた。
アレクがリンデルベルク帝国に帰還後、着いた早々にラムレスによってそれは伝えられた。
ステファンの手引きで、アレクは久しぶりに叔父であるラムレスと対面した。会ってそうそうに熱い抱擁を交わし、ラムレスはアレクの成長を喜んでいた。
そしてしばし雑談をしたあと、ラムレスは笑顔から真面目な顔つきになった。アレクの目をじっと見つめながら、
「アレク、実はお前にはまだ言っていない『竜紋』の秘密がある」
「秘密?」
「あぁ、だからお前を連れ戻すことになってしまったんだ。今から言うことは心して聞いて欲しい」
ラムレスの並々ならぬ物言いにただごとではないのだと、アレクも真摯に向き合った。
「『竜紋』の、それも強い力を発現した者だけという特有のものだ」
「それは一体・・・?」
「『金鱗病』というんだ。」
「『金鱗病?』・・・つまり病気ってこと?」
アレクの言葉に、ラムレスは頷き、
「これは、我々リンデルベルク家の血を受け継ぐ者にしかならない病で、特に『竜紋』の強い力が発現してしまった者には、ほぼ避けられない」
アレクはそれを聞いてごくりと喉を鳴らし、心臓の動機がドクンドクンと激しくなるような感覚に襲われた。
「叔父上・・・それで、その病気は一体どんな症状なのですか?」
「金の鱗になっているところから、動かなくなる。そして・・・やがて心臓が止まり、死に至る病だ」
「なっ?!」
アレクは驚きのあまり、言葉が出なかった。予想だにしていなかったからだ。
「先ほども言ったが、特に『竜紋』の力が強い場合だ。全員がなるわけではない。だからアレク、幼い時のお前にはなかったから、安心していたんだがな・・・」
そういったラムレスは残念そうな表情をしていた。
その後、アレクは部屋を与えられた。
そしてアレクはベッドの上に寝転んで、リンデルベルク帝国に帰還してからのラムレスとの会話を思い返していた。
『・・・リョクに力を増幅してもらったことで、兄上と父上が、俺に『竜紋』の力が増幅されたことがわかったって言ってたよな・・・だが、俺にはそこまではわからなかったけど。叔父上の話では、『竜紋』を持つ者同士、特に力に強いものは、共鳴っていうのかな?お互い認識できるらしいし、ただこれは多少訓練の必要があると言っていたな』
そして『金鱗病』まさかいずれ死を迎えるなど、誰が知りたいだろうか。
ラムレスの『やがて心臓が止まり、死に至る病だ』その言葉は、聞いた直後よりも、じわじわとアレクの心に効いてきた。
『そうか・・・そういうことなら、俺はこっちに帰ってきて正解だったのかもしれない』
アレクは考えた。いずれ自分もその病を発症してしまうのなら、レイリアの元にいない方がいいのではないかと。もし自分が病を発症してしまったらレイリアに迷惑をかけてしまうと思ったのだ。
『だけど本当は・・・会いたい。リアねぇさん・・・ずっと、ずっと側にいたかった・・・』
アレクは明かりのついていない部屋のベッドで、ひっそりと声をださすに涙を流していた。