好み
「おはよう! マナ……じゃなくて……えっと」
「笠原です」
「笠原さん。おはよう」
朝からサイラス牧内が笑顔で話しかけてくる。気まずい。女性人気のある人から話しかけて欲しくない……今後色々支障が……。
「よかったら、今日、帰りに話がしたいんだけど。いいかな。エントランスで待ってるから」
はいもいいえも言い終わらぬうちに、サイラス牧内は去っていった。
なんというか、アメリカ帰りのせいか、押しが強い。
サイラスは言葉通り、終業時間になるとエントランスで待っていた。
「夕飯でもどうかな?」
キラキラした笑顔で、サイラス牧内が話しかけてくる。
「えっと……夕食は自宅にあるので大丈夫です……」
「そうなんだ。ご実家?」
「そういうわけではないんですが……」
家政夫がいるなんて言えない。
「ふーん。じゃあ軽くお茶にしよう。ブルーベリーパイの美味しいお店があるから」
サイラス牧内の目がすうっと細くなる。優しい笑みだ。
そのまま手を取られ、駅まで歩き出した。
「あ、あの、サイ……牧内さん! 会社の人に見られたら……」
「見られてもいいじゃないか。何か問題が?」
「その、変な誤解を……」
「僕たちは、前世よりももっと前から知り合いなんだ。誰にも邪魔させやしない。」
サイラス牧内は不敵に笑った。
なんだかこの人も魔王みたいだ。
電車に乗り、15分ほどで目的のカフェについた。
ブルーベリーパイがおいしいというカフェだ。
サイラス牧内は慣れた手つきでドアを開け、店員と言葉を交わす。
奥の個室に通され、メニューを見ると、色々なフルーツのパイがあるようだった。
「マナはブルーベリーパイでしょ。マナのおばさんが作ったブルーベリーパイ、好物だったもんね」
牧内はニコニコしながら私の顔を覗き込む。すごくいい笑顔だ。なんだか、有無を言わせない圧力がある。
天真爛漫ゆえの残酷さのようなものがある。
「い、いえ……あの、私ベリー系が苦手で……。タルトシトロンがいいです」
途端に牧内の目が見開かれ、真顔になる。
「どういうこと?」
「どういうことと言われましても……昔からベリー系が苦手なんです。なんかブツブツしてて」
「なんで……? あんなに……あんなに好きだったのに……どうして……」
牧内が俯いてブツブツ言っている。なんか怖い。そんなにショック与えちゃっただろうか。
「ま、牧内さんごめんなさい……せっかく色々考えてくださったのに……」
サイラス牧内は、はっ、と気がついたようで、さわやかな笑顔を浮かべた。
「……いや! 僕の方こそごめんね。昔の……マナのイメージが強くて……」
注文を取りに来たウエイターに、タルトシトロンと紅茶を頼み、私はやっと一息ついた。
「その……牧内さんは、わたしのこと知ってるんですよね……?」
「知ってるも何も……」
牧内さんが、また哀しい目をした。
「……君は、僕とずっと一緒にいたんだ。いわゆる幼馴染ってヤツかな。僕が剣の練習をしてる横で、君はずっと魔導書を読んでた。『いつかサイアスと一緒に魔王を倒しにいくの!』なんて言って……懐かしいな」
魔王、その言葉に胸がどきりとする。
魔王……魔王さんは、やっぱり、倒すべき存在で、人間とは相容れないんだなぁ……と今更ながら思う。
そんな魔王さんが今うちにいると知ったら、牧内さんはどう思うかな……。
隠し事をしているようで、心が痛む。
そんな、私の胸の内に気づいてか、気づいてないのか、牧内さんは私の瞳を見つめ、言った。
「この世界で再会できるなんて……やっぱり、君と僕は、運命の相手だね」
運命。
その言葉が深く胸に突き刺さる。
ああ、やっぱり。
魔王さんは言っていた。
運命の出会いを加速させると。
あの術の次の日に、牧内さんと出会い……
やっぱり、運命、なんだろうか。




