疲れた夜には餃子
「おかえり」
相変わらずゲームをしながら魔王さんが迎えてくれた。
「……ただいま……」
仕事は大してしてないはずなのに、なぜかどっと疲れた。
はじめての場所で気疲れしたのもあるが、何よりサイラス牧内の件で疲れた。(カタカナの名前を忘れそうなので、繋げて覚えることにした。サイラス牧内!完璧!)
魔王だけかと思ってたよ。トンチンカンなこと言うの。
さすがに疲れてソファーに倒れ込む。
「夕食は?」
「たべる……けど……少し横になりたい……」
私の意識はそのまま闇へ呑まれた。
キィン、キィンと金属の重なる音が聞こえる。
何の音だろう。
薄目を開けると、2人の男が剣を交えている。
1人は明るい茶色の髪の男、もう1人は黒髪の……。
あぁ、魔王様だ。
魔王様……。
今も昔も変わらない姿。
何故か胸が締め付けられて涙が出てくる。
私は無我夢中で叫んだ。
お願い、戦いはもうやめて。
私の命なら、何度でもあなたにあげるから……!
その瞬間、私の頭上に、剣が振り下ろされた。
「……ユ! ミユ!」
私はそこで覚醒した。目の前には魔王さんの顔がある。
眉根を寄せて、心配そうに私を覗き込んでいる。
「ま、魔王さ……」
その顔を見ると、涙が溢れた。
すごくほっとして、胸が苦しくて、何故だか私は魔王さんに縋りついてわんわん泣いていた。
「……落ち着いたか?」
魔王さんがティッシュを差し出してくれる。
涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃだ。かなり汚い感じになっているはずだ。
でも魔王さんは嫌な顔せずに見守ってくれた。結構いいヤツだな。
「夢を見たんだろ?」
勘もいいヤツだ。
ごまかしても仕方ないので、こくりとうなずく。
「昔の夢……お前がミユになる前の夢か?」
「……それはわからないけど……剣を持ってた。魔王さんと、もう1人、男の人……」
明るい茶色の髪。私はその人を知っている。でも、なぜか、思い出したくない気がした。その人を思い出すと、なんだか……魔王さんと、離れなきゃいけない気がした。
魔王さんがぽんぽんと頭を叩く。
「落ち着いたなら飯を食え。そして風呂に入ってさっぱりしろ。少しは気が晴れるかもしれない」
なんだかんだ、魔王さんはやっぱりいいヤツだ。
今日のおかずは餃子のようだ。いつのまに餃子の包みかたまでマスターしたのだろう……。
「肉屋のマダムが教えてくれた」
またか。マダムキラーなのか。魔王さんは。
「いただきます」
冷めているが、パリパリしていて美味しい。なんだか元気出そうだ。
我ながら単純である。
心なしか少し嬉しそうな魔王さんが、自分も餃子をつまむ。
「……それで、初日はどうだったんだ?」
「……とくに、なにも」
本当は牧内さんのことを言った方が良い気はした。が、なんとなく言ってはいけない気もして、黙ってしまった。
「運命の相手は?」
「はっ!!!!
そうだった!!!!」
サイラス牧内のせいですっかり忘れていた!
運命の相手と出会わなきゃいけなかったのに!!!!!
頭の中をフル回転させ、サイラス牧内以外で、今日会った男性を思い出す。
「えーとえーと、営業担当の草壁さんでしょ、総務の岡本さん、部長の本間さん、あと企画の……」
「運命と思える相手はいたのか?」
「……」
正直、運命と言われると、考えてしまう。そういう意味では、サイラス牧内が1番運命っぽい。
「……その様子だと、いたんだな?運命を感じる相手が」
「……ええ、まぁ……」
「良かったじゃないか」
魔王さんがふっと優しく笑う。
なんだろう、今日は魔王さんが優しい。
「はやく、運命の相手と恋とやらをして、貴様の魂を食べさせてくれよ」
「……」
前言撤回だ。




