邂逅
「みなさん、本日入社の笠原ミユさんです。今日からこの部署に配属だから色々教えてあげてね」
人の良さそうな女性が、フロアの人員を集めて声をかけた。
皆の前に立つと、なんだか緊張する。私は深々と頭を下げた。
「笠原です。よろしくおねがいします」
「それと、今日付けで配属の人がもう1人いるわ。もう辞令を見て知ってる人もいるでしょうけど……。
牧内くん」
「はい」
牧内と呼ばれた青年が、前に出る。
すらっとした背の高い男だ。
明るい茶色の髪。
子犬のような優しげな顔。
「サンフランシスコ支社から戻ってきました、牧内です。日本は久しぶりなので、色々と教えてください」
爽やかに微笑むと、女子社員が浮き足立つのが手に取るようにわかった。
人気なんだろうな……こういう人。
海外帰りってことはエリートなんだろうし。
私みたいな底辺SEとは絶対に相容れないタイプだわ!
長年のブラック企業勤めのせいで、卑下根性が身についてしまった。悲しい。
「11時からオリエンテーションがあるから、2人で人事部に行って頂戴。笠原さんは社員証もそこで受け取ってね」
「はい」
「牧内くん、人事部の場所わかるわよね? 笠原さんを連れてってあげて」
「わかりました」
2人で廊下を歩いてると、牧内さんが気を遣って色々と話しかけてくれた。
「笠原さんは前職もSEなの?」
「あ、はい……。牧内さんはサンフランシスコに行かれてたんですよね。すごいですね」
「いや、そんなことないよ。他に行く人がいなくて……」
「何年くらい行かれてたんですか?」
「三年かな」
「そーなんですねー」
……
……
話が続かない!
そもそも接点がない初対面の人相手に何を話せば……。
もごもごしていると、牧内さんが急に立ち止まった。
「あのさ」
「はい?」
「……変なこと聞くんだけど……」
「は、はぁ」
「マナ、だよね?」
「……」
マナ。どこかで聞いたことがある。
その名前は確か……
私は目を見開いた。
夢の中で、魔王が私のことを「マナ」と呼んだのだ。
えっと……えっと……その名前をこの人が知ってるってことは……つまり……
「も、もしかして!」
「思い出してくれた?!」
「あなたも魔王なのっ!?」
「……」
「……」
牧内さんが固まっている。
どうやら違ったようだ。
……じゃあ何故、マナという名前を呼んだのだろう。
「……覚えてない、よね。やっぱり」
「え、いや、あの、覚えていないというかなんというか……あなたは誰なんですか?」
我ながら変な質問だ。
牧内さんという名前は知っている。
でも、知りたいのは、それじゃなく。
「……サイアス。聞き覚えは?」
悪いが全然ない。
でも、聞き覚えないと言うのはなんだか悪い気がする。
「あー、えっと、サ……イラスさんね! はい! はい! なんとなく! 覚えてるような覚えてないような……?」
牧内さんは寂しげに微笑んだ。
「相変わらず、嘘をつくのが下手だね、マナは……」
ああ、この寂しげな表情。
昨夜の魔王さんと同じだ。
そう思った瞬間、時計の針は無常にも11時をさしてしまい、話はそれっきりになった。
昼休みにも詳細を聞いてみようかと思ったが、牧内さんは女の子に囲まれて話しかけるチャンスを失った。
まぁ仕方ない。モテモテなのだな。私とは住む世界が違うんだろう。
そうこうしてるうちに慌ただしく時間は過ぎ、あっという間に終業時間となった。




