魔王作の夕餉
机の上にはごはん、大根の味噌汁、浅漬け、卵焼き、焼き魚、大根の葉をちりめんと炒めたものがあった。
シンプルだが、品数も多くありがたい。葉っぱもあますことなく利用して大変にエコな気がする。家事上手な魔王である。
「いただきます」
手を洗って、早速いただくことにする。魔王は基本的にお腹が空かないらしい。好みのものだけ、食べるスタンスだ。
魔王らしく?ローストビーフとか、刺身とか、半熟卵とか、ちょっと生の質感が、残ったものがいいらしい。
「それで?運命の相手とやらには出会ったのか?」
「いやー、それが聞いてくださいよー。今日も女社長さんと、コンビニの店員さんとしか会ってないんですよー」
「そのテンインとやらは男か? そやつが相手ではないのか?」
「店員さん、左薬指に、指輪してるんです…」
「指輪がどうしたのだ」
「この世界だと、結婚する時に左薬指に指輪を送り合う風習があるんです。つまり、左薬指に指輪してるってことは既婚者なんですよ」
「ほう、そんな見分け方法があるのか」
「私は不倫なんてゴメンですから」
言いながら浅漬けを頂く。いい浸かり具合だ。
魔王は料理の才能がありそうだ。
「この浅漬け美味しいです」
「そうか。野菜屋のご婦人が作り方を教えてくれた」
なんだかこの世界に馴染んでいる…。見た目はめっちゃ怪しいのに何故だろう…。
私はまじまじと魔王の顔を見てみる。うーん。確かにイケメンっちゃ、イケメンなのだ。切れ長の目、通った鼻筋、目は怪しく光る紫色。黒髪は、艶々してる。
おばさんとかに好かれやすいタイプなのかな。よく知らんけど。
でも服装はなんかぬめぬめつやつやしたボンテージ風なのに!
中二病みたいな服!
「それにしても運命の相手と出会うように術をかけたのだがな…。1週間経っても何も起こらぬとは」
「え、そんな術だったんですか」
「引き寄せたのは仕事だけとはな。貴様の運命の相手は仕事だったということか」
くっくっと魔王が喉で笑う。
冗談でもやめてほしい。
たしかに男運ないんだけども!
20うん年間、仕事しかしてないけども!
「うーん、でもこのまま運命の相手と出会わなければ、魔王さんに食べられずに済みますね」
「…」
魔王がゲームのコントローラーを置いて、顔をこちらに向ける。
「それは困る」
パチン、と指を鳴らす。
「…次は何の術ですか?」
「運命の相手との出会いを加速させておいた」
「そ、そんなことできるんですか!」
魔王、万能だなおい。
「これで、明日も仕事しかしなかったら、諦めて私に食われるといい」
魔王は意地悪そうに笑った。
むー!そ、そんなことはない!
仕事が恋人では、けして!ない!はず…。
「…そういう魔王さんは、恋人とかいないんですか」
「いない」
即答。
「もしかして興味ないんですか?」
ゲームに視線を戻した魔王さんが、こちらを見ずに答える。
「恋人なんていても面倒だろう」
なんかこじらせてるのかな、この人。
ちらっと魔王さんの横顔を伺ってみる。
魔王は、この世のものとは思えないほど、美しい顔で、とても寂しそうな表情をしていた。




