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死ぬ前にしたい1つのこと

「したいこととは? 世界を救うなどと、言うんじゃないだろうな」

大丈夫だ。そんな大それたことは元々したくない。


「……恋がしてみたい」


魔王は呆気に取られている。

「恋とはなんだ」


「異性のことを好きになって、お付き合いする……みたいな感じ?」

実は、私は男の人と付き合ったことがない。

だから、死ぬ前に一度恋人を作ってみたい。

憧れてるのだ。いわゆるキャッキャウフフに!


「……」

魔王はなんだか複雑そうな顔をしている。


「貴様、聖女のくせに俗っぽいな」

「今の私は聖女じゃありませんし……」

「つまり異性間交遊をしたいということだな」

「まぁ端的に言ってしまえば、そうなりますね……」

「一つだけ言っておくが、貞操だけは守れよ」

「えっ」

なぜ魔王が私の貞操の心配をしているのだろう。

「魂は穢れなき体の方が、美味だ」

「……」


魔王、処女厨じゃん!

処女厨で時空ストーカーとかいいとこないじゃん!

私は心の中でドン引きした。


「まぁ、よい。最期の願いくらい叶えてやろう。それで恋とはいつ終わるのだ?」

「わ、わかりません」

「相手は誰でもいいのか?」

「え、えーと。できればカッコよくて、仕事できて、オシャレで、あとはえーとえーと……。

私と運命の赤い糸とかで繋がれてたらいいなーとか……」


欲張って色々条件を出してみた。

魔王は少し考えていたが、パチンと指を鳴らした。


「貴様の運命の相手を引き寄せておいた」

「えっ……それってどういう……」


質問した途端、携帯が鳴り始めた。

知らない番号だ。

魔王が顎をくいっと動かして、暗に「出ろ」と言っている。

私はおそるおそる、通話ボタンを押した。



***


「いやー、来てもらえてほんと助かります」

「こちらこそ採用してもらえてよかったです……」

紺色のスーツを着た、人の良さそうなおばさんがニコニコしている。

「それにしてもあなたみたいなすごいスキル持った人が、たまたまフリーだったなんて、ラッキーねぇ」

このおばさん、実は社長である。

自分でも登録したのを忘れていた転職サイトの担当から電話がかかってきて、採用したいと言ってくれてる企業があるから面接を受けてくれと言われたのが1週間前。

それからとんとん拍子に採用が決まり、明日が初出勤。

私がたまたま昔触ったことのある希少ツールを使用できる人を探していたらしく、大変喜んでもらえた。

残業もほぼなし、とのことだった。


とにかく早く仕事が決まって本当に良かった。失業手当をもらう前だったし、貯金に手を出さずに済んだ。


しかし、ひとつだけ問題がある。


「ただいま…」

扉を開けると、黒髪の青年が寝そべってゲームをしていた。

「早かったな。飯できてるぞ」

「…あ、ありがと…」

なぜか魔王が家に居候しているのだ。

しかも家事をしてくれる。本を読んですぐやり方をマスターしたらしい。やたらと飲み込みが早い。

やはり魔王ではなく、ただのコスプレ野郎ではないのだろうか…。しかし羽生えてるしなぁ…。


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