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はじめての朝は目玉焼き

「それで? あなたは2000年前から魔王で? 私は聖女で? 666年毎に転生してるって?」

フライパンに油を敷きながら、魔王に問いかける。


魔王の話はこうだ。

2000年前、この世界ではないどこかの世界で、暴虐のかぎりを尽くした魔王がいた。

その魔王を封印するために、人間の中から聖女が選ばれたらしい。

聖女とは、魔王に対抗できる聖なる力の強い女性。

聖女は自分の命と引き換えに魔王を封印した。

しかし、その封印は666年しか持たない。そのため、666年毎に聖女は生まれ変わってくる定めなんだという。


「でも、この世界に魔王はいないわ。私も聖女じゃない普通の人間だし。

だから、生まれ変わりなら、あなたの世界とやらで探せば?」

冷蔵庫に残っていたのは卵くらいしかない。

卵をカツカツとフライパンの角で割り、二個投入する。


「私の世界の人間は滅びたのだ。だから私の世界に聖女は生まれなかった。

そして、行き場を失った魂は、別世界ーーこの世界に転生し、お前が生まれた」

他人事のように話す魔王の話を聞きながら、フライパンに水を入れ、蓋を閉める。

ジュウウウと水の蒸発する音がした。


「壮大な設定ねぇ……」

「設定ではない、事実だ」

「黄身は堅いのがいい? 半熟?」

「半熟だ」

「はいはい」

とりあえず、昨夜、暴漢をやっつけてくれたのは夢ではなかったようなので、お礼に朝食をご馳走することにした。

残念ながら卵くらいしかないが。


自称・魔王の話は信じ難いが、確かにこの人の背中には羽が生えているし、頭にはツノがあるし、耳もなんか尖ってる。

コスプレにしてはちょっとリアルすぎる。

あと夢の中で宙に浮いたり風を起こしているのを見た気もするし。


いやいや、重要なのはこの人が人間なのかどうなのかじゃなく

何故、この人が家にやってきたか、だ。


「それで、一体なぜ家に?」

フライパンから目玉焼きを取り出し、お皿に盛った。

ことり、と魔王の前に置く。

その拍子に半熟の目玉が、ぷるんと震えた。


「お前の魂を喰らいにきた」

「魂って食べられるんですね」

素朴な疑問だ。

自分の分の目玉焼きも取り出し、もう一枚のお皿に載せる。

魂とは目の前の目玉焼きのように形はないはず。

それを、食べるなんて可能なんだろうか?


「魂を喰らい、我が血肉にする。そうすれば、私の力は完璧になるはずだ」

……なるはずだ。って、そんな推測で食べられるなんて、たまったもんじゃない。

私は自分の皿もテーブルに置き、魔王と向かい合わせに座った。

「それ、確証あるんですか? 卵になにかつけます? 醤油と塩とソースとかありますけど」

「いらん」

「あ、はい。じゃあいただきます……」

目玉焼きを前に、手を合わせる私を、魔王は不思議な目で見ていた。

きっと、そちらの世界にはない風習なんだろう。


「……私は無数の魂を喰らってきた。その度に力を得た」

魔王は目玉焼きの黄身を、ナイフでぷつっと割りながら語る。

魔王は箸が使えないようなのでフォークとナイフを渡しておいた。

黄身がとろっとあふれて白身を染めていく。



無数の魂を喰らうって、なんかカニバリズムっぽくて、食事中に聞きたくなかったなぁ。

白身に醤油をかけながら、私は魔王から目を逸らした。


「ところで、私の魂を喰らうなら、なんで寝てる時にえいやっと喰らわなかったんですか?」

「覚醒中でないと意味がない」

「それはまた……なぜ?」

「お前の恐怖が最高のスパイスだからだ。喰らわれる恐怖を感じながら味わいたい」

うわぁ変態くさい!

私の食欲は、どんどん減退していく。

「お前を喰らうため、お前の魂の匂いを嗅ぎ分け、わざわざ時空をこえて、この世界にやってきたんだからな」

それ時空を超えたストーカーじゃん。こわい。

てか匂いて。やだ。わたしそんなに匂ってる?

つい袖をくんかくんかしてしまった。が、魔王とやらは気にする素振りもなく、つづける。


「このために665年待ったのだ。次は封印される前に喰ってやるとな……」

まさかの年季入ったストーカーだよ……。


「あの。それって。食べる以外に方法ないんですか。喰べるってあんまり、その、建設的じゃないというか……」

「ない」

「そうですか」

即答されてしまった。

色々研究した結果、そういう結論に至ったのだろうか。

なんだか目玉焼きを食べる気が完全になくなってしまった。


「魔王さん、お代わりどうですか?」

「いただく」

醤油のかかった目玉焼きを魔王に渡す。

魔王は、黒々とした醤油に一瞬怪訝な顔をしたが、ナイフで少量を切り分けて口に入れた。

その表情がぱっと輝いた。

…もしかして、美味しかったのかも。


「この黒いソースは美味だな」

「醤油っていうんです。豆から作られてるんですよ」

「ほう……」

魔王はもう一切れ、切り分けて、口に運んだ。

目を閉じてじっくり味わっているようだ。

人に自分の作ったご飯を食べて貰うなんて、久々だな。

こんなにじっくり食べてくれるなんて、なんだかうれしい気持ちもする。


食べると言えば。

「そもそも、私が小さい時に食べたら良かったじゃないですか」

「貴様が665年前に張った結界を破るのに時間がかかったのだ」

GJ665年前の自分!

魔王はあっという間に目玉焼きを食べ終わったようなので、お皿をさげる。

食べ終わったなら帰ってくれないかな……。

それともほんとに私、これから食べられるんだろうか。頭からバリバリと。


「あっ」

魂を食べるって、もしかして、性的な意味じゃないよね?!

その可能性に気づいてハッとする。

見知らぬ男と自宅に二人きり。

完全に危ない。

思わず肩を抱いて魔王の方をちらちら見つつ警戒していると、魔王が不審そうにこちらを見返してきた。

「なぜくねくねしている」

「いや……なんか……いろんな意味で食べられるのは嫌だなって……」

「一瞬だ。安心しろ」

「ち、ちなみにどうやって食べるんです? 頭からかぶりつくんです? そ、それとも」

「そんなこと知ってどうする」

「せっかくだから死に方くらい知っておきたいかなーなんて……いや、死ぬ気はないんですけどね!」

何故、私はこんなに、変な言い訳をコスプレ魔王にしているのか。なんだか情けない。

魔王は怪訝な顔をしていたが、一つ、ため息をついて言った。

「魂を体から取り出して、そのまま、飲み込む」

「えっ。それ痛いんですか?」

「噛まずに飲み込むから安心しろ」

「ええ……。でも胃液とかで溶かされたらそれはそれで痛そうというか……」

「咀嚼するわけではない。体に入れて私の魂と貴様の魂を同一化するのだ」


さっぱりわからない。

とりあえず痛くないということか。

痛くないなら、それでもいいかも。

もう職場もないし。

やりたいことも、さしてないし。

親も、もう死んでるし。


「わかったわ」

「何がだ」

「私の魂食べてもいいわよ」

魔王の目がすぅと細くなる。

「ほう……物分かりがいいな」

「でも、一個だけ条件がある」

「なんだ」

言うか迷ったが、思い切って言ってみることにした。


「死ぬ前にしたいことがあるの」


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