会社に行かなくても良くなる方法
……なぜだろう。
なにか、とても安心するものに包まれている気がする。
あたたかい何か。
ずっと忘れていたけど、私を守ってくれる。
これは……この暖かい感触は……。
「お布団!!!!!」
飛び起きた。
わー。なんか外が明るいー。
やらかした気がするー。
おそるおそる時計を見ると、時計の針はAM10時を指していた。
「ぎゃー! 遅刻だよー!」
ずてっ。
あわてて布団から出たが、何か大きなものにぶつかってこけてしまった。
「そんなに急いでどこへ行く」
「ひわっ」
変な声が出てしまった。
よくよく見ると、布団の横に、黒髪の青年が寝そべっていた。
間違いない、夢で見た青年だ。
たしか、通り魔に襲われて、この黒髪の青年が助けてくれた。
あれは夢じゃなかったの……?
しかし、なぜその人が私の家にいるんだろう。
「あ、あの。あなたは……?」
「魔王だ」
「魔王」
魔王とやらは至って真顔で答えた。
まじまじと魔王を見ると、濡れたカラスの羽のようなつやつやの黒い髪、背中にはコウモリの羽を大きくしたものが2つ、なんというかボンテージ風味なベルトがたくさんついた服を着ている。
私はこういう服装の人を総称する言葉を知っている……。
そう、『厨二病』である。
魔王とか名乗りたい年頃なのかな……。
でもその割には歳いってるな。
心のなかでそんなことを思いながら、遅刻のことを思い出す。
「いや、すいません! それどころじゃなくて! 私、会社行かなくちゃ」
「カイシャとはなんだ」
「働いてるんです、えーっと、もしかして帰国子女の方? 会社イズカンパニー! あいむわーきんぐ!」
まさか会社について聞かれるとは思ってなかったので、日本語通じない人かと思ってしまった。
青年は怪訝そうな顔でこちらを見ている。
「……つまり貴様はその『カイシャ』とやらに行く用事があるんだな?」
「そう!」
「じゃあ、その『カイシャ』に行かなくていいようにしてやる」
パチン!
青年……魔王とやらが指を鳴らした。
その途端、電話がかかってきた。
やばい。おそらく、会社から無断遅刻を責める電話だろう。
早く取らなくては。
「あ、あれ。私のスマホ……」
見回すとハンドバッグが部屋の隅に無造作に置かれていた。
慌ててスマホを取り出して、画面を見る。
レイナからだった。
「……もしもし」
おそるおそる電話口に出ると、レイナの耳をつんざくような声がした。
「ちょっと! 大変よ! いまオフィスの入り口なんだけど…潰れちゃったの! うちの会社!」
「はっ?」
思わず魔王のほうを見る。
魔王は、何故かうっすらと笑っていた。
「それってどういう…」
「何社ものクライアントから、一方的に取引停止されたとかで、社長夜逃げだってよ! それでね、張り紙が貼ってあって、本日付で全員解雇だって」
「……」
ゆっくりと血の気が引いていくのが自分でも分かる。
「ちょっと! 聞いてる?」
レイナの声すら、今は遠い。
「……ごめん、混乱してて。……また、かけ直すね」
電話を切って、魔王の方を向く。
「カイシャとやらはなくなったか?」
ニヤニヤしてる魔王を、思いっきり引っぱたいた。
「あんた! なんてことしてくれるのよ! 今日から無一文よ!!!!」




