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もう逃げない

6月にランキングに入っていたようで、ありがとうございます。

(全く気付いておりませんでした)

重たい足を引きずって電車に乗り、会社に向かう。

平日の街をせわしなく行き交う人の波にもまれていると、魔王さんとの一件なんて嘘みたいだ。

そもそも、生まれ変わりだとか、異世界だとか、勇者だとか……。非現実的すぎる。

私は、変な人を拾ってしまっただけなのかもしれない。家に居座られて、おかしいと思わなかったのか。

自分の能天気さに呆れてしまう。


そんなことをつらつらと考えていると、いつの間にか会社にたどり着いていた。


エントランスの前には、今日もやはり、というべきか牧内さんが待っていた。


「おはよう!」

見る人が見れば、とてもまぶしいさわやかな笑顔。

正直、今は胸やけがしそうだ。


「……すみません」

挨拶を素直に返すことができず、顔を伏せて早足で通り過ぎる。

「えっ」

すれ違いざまに気の抜けた声がしたが、構ってはいられなかった。



仕事をしている間は、なんとか気を紛らわすことができた。

やはり持つべきものは仕事だ。

地に足をつけて働くことのなんと尊いことか……。

非現実なことなんてもう考えたくない。


そう思ってキーボードをたたいていたら、正午のチャイムが鳴った。

……と、ほぼ同時にPCのディスプレイに影が落ちる。

顔を上げると、牧内さんがこちらを見下ろしていた。



「ミユさん。話がある」

「無理です」

顔を伏せたままそう言うと、大きなため息が落ちてくる。

「ぼく、何かした?」

「……そういうことじゃなくて。今はあまり……お話したくないんです」

そんな問答を繰り返していると、あたりがざわざわと騒がしくなった。

なんだか視線を感じる。周りからは、私と牧内さんがもめているように見えているのかもしれない。

その視線に少し緊張したせいか、心臓がバクバクと波打ち、あまり考えがまとまらない。


「失礼します!」

慌てて立ち上がり、女性用お手洗いに逃げ込んだ。ここならば牧内さんは入ってこれないだろう。

鏡の中の自分を見てみる。なんだか顔色が悪い。頭もぼうっとしてきた。


こんなんじゃだめなのに…。

入社したばかりだし、早退もできない。

お昼休みが終わるまでトイレに避難しているしかないのかもしれない。

…それとも、牧内さんに思い切って言ってしまおうか。


もう、関わらないでほしいと。

私は今を生きているんだから、過去の話はもう聞きたくないと。

いつまでも逃げ続けていても、キリがない。

私は、そう決心していた。


帰りに、牧内さんときちんと向き合おう。

私は、もうマナじゃない。

彼にも、今を生きてほしい。



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