しずかな朝
そうだ。
「……でも、魔王さんは、私を食べるって言ってたじゃないですか。それって、私があなたを封印するから?」
「……厳密には封印されるからではない。……お前を……運命から解放せねばと思ったのだ」
「運命……?」
運命とはなんだろう。
あぁなんだか、わからないことだらけだ。
でも、魔王さんは私にとても優しい気がした。今もだが、おそらく、昔も……。
そして、優しい誰かは、私を殺そうとして……。
やはり、魔王さんが私を殺したのでは?
なんとなく、嫌な想像が膨らんでしまう。
優しいあの人が、私を殺そうとして。
魔王さんも言っていた。
「俺のことを優しいと言って」死んでいったと。
魔王さんが……私を。
しっくり来る。
だって。
あの人は魔王で……私は聖女。
相反する者。
「……しばらく、1人にしてください」
わたしは、そう言うのが精一杯だった。
翌朝目を覚ますと、魔王さんはいなかった。
魔界に帰ったのか、どこかに身を隠してるのか、わからない。
とてもしずかな朝だった。
机の上には、朝ごはんがラップに包んで置いてあった。
奥さんに置いて行かれた夫とはこんな気持ちなんだろうか、
なんてことを思う。
頭の中は、まだごちゃごちゃだ。
前世の私を殺そうとしたのは誰なのか。
誰を信じれば良いのか。
考えても答えはでない。
ひとまず、いつも通り会社に行くしかない。
日常は続くのだ。
牧内さんと顔を合わせるのも憂鬱だった。
勇者の記憶。
それはどこまで信用できるものなんだろう。




