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家庭のカレーと器用な魔王

夕飯はカレーだった。

人参、玉ねぎ、じゃがいもにお肉。具材がゴロゴロ入ったタイプ。

スパイシーな香りが鼻腔をくすぐる。

付け合わせには生野菜のサラダ。ドレッシングは市販のゴマダレのものだ。


「いただきます」


そういって手を合わせ、魔王さんのほうへ視線を遣る。

魔王さんの前には何も置かれていない。


基本的に魔王さんは食事をしない。

というか、人間の食べるものは別に食べても食べなくてもどちらでも良いらしい。初めて会った日に目玉焼きを食べてくれたのは、レアケースだったのだと今になってわかる。

どこでエネルギー補給をしてるのかは謎だ。

自分が食べないにも関わらず、私が仕事をしている間、買い物をしてご飯を作ってくれる。

あまり気にしてなかったが、さきほどの様子を見るに、買い物してる間いつも人に囲まれているんだろうか。不便そうだ。


魔王さんはキッチンで洗い物をしている。

世の男性には料理をするときに、皿洗いや後始末は奥さんにお任せ、という人もいるようだが、魔王さんはきっちり洗い物もこなす。家庭的が過ぎる……。


何度も何度も思うが、やはりこんな人が世界を滅ぼすのだろうか?

その疑問は日に日に大きくなっている気がする。

それか二重人格……とかだろうか。

普通の魔王さんと、残酷な魔王がいるとか。


「おい」

「はっ、はい」

「ぼーっとしてるようだが……何かあったか?」

いつの間にか魔王さんが目の前に来ていた。

ついつい考え込んでしまったようだ。スプーンを持つ手が止まってしまっていた。

「いえ、何も。魔王さん、料理上手いなって」

魔王さんは私の目の前に置かれたカレーを一瞥した。

「まだ口をつけてないのになぜわかる」

「毎日、手料理頂いてますから……ハズレがないなって。魔王っていう職業は、料理できないといけないルールとかあるんですか?」

「……ない」

「え、じゃあ料理するのははじめてですか?」

「ああ。こちらの世界ではやることがないから暇つぶしだ」

「へ、へぇ……」

魔王たるもの、めっちゃ器用である必要があるんだろうか。

「前の世界では普段、どういうことをしてたんですか?」

「……魔族を管理していた」

「魔族……」

「魔族という種族がいるんだ。あちらの世界の人間と対立していた」

「それは大変そうですね……」

「各地で小競り合いが頻発していた。争いは絶えず……。何度も勇者とやらが魔王討伐にやってきたよ」

「ゆ、勇者……?」

「あぁ。貴様もだ。貴様も勇者と共に何度も我が居城に来たぞ。聖女として」

頭がズキズキしてきた。

「せ、聖女……勇者……?……サイアス……」

その名前を呼んだ途端、魔王さんの瞳孔が開く。


「……思い出したのか……?勇者のことを」

「……サイアス……サイアスやめて……」


次の瞬間、景色が変わった。

古城だ。あちこち崩れている。

隣には……牧内さん?

鎧を身に纏った牧内さんが剣を握っている。

剣には青い血がへばりついて……誰の血なんだろう……。なんだかひどく胸が苦しくて……あの人を探してしまう。

あの人はどこ……?

私の大切な……

「魔王!今度こそ死ね!!!」

サイアスが切り掛かる。


「やめて!!!!!」



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