あまり会いたくない人
翌朝、重い体を引きずって自宅を出た。
本当なら休みたいくらいだったが、就職したばかりだし、何より、魔王さんの近くにいたくなかった。
リビングの机の上には朝食が用意されていたが、魔王さんの姿は見えなかった。
そのことに、ひどく安堵している自分がいた。
怖いわけではない。何か、申し訳ないような気持ちがぐちゃぐちゃと胸の中で渦巻くからだ。
(優しい……と思うんだよね)
最初は食べるって言われてびっくりしたけど、具体的に嫌なことはされていないし、紳士だし、気遣ってくれているのを感じる。
そんな人が、本当に世界を滅ぼしたの?
本当にあなたは魔王なの?
本当に……私はマナなの?
……マナで思い出した。
あまり会いたくない人がもう1人いるんだった。
その人は、ビルのエントランス前でわざわざ私を待っていた。
「おはよう。マナ……えっと」
「笠原です」
「おはよう、カサハラさん」
「ビル、入らないんですか?」
「少しでもマナと一緒にいたくて、待ってた」
うわぁ。この人ももしかしてストーカー気質なんだろうか。
時空超越ストーカー2号だわ。
「あ、あの、困るので次回から待たなくて結構です……」
時空ストーカー2号こと、サイラスなんちゃらはあからさまにショックを受けた顔をした。
「……困る? 君が? ……まさかとは思うけど……僕のことを?」
「はい。困ります。エントランスで待たれるなんて、困ります」
「……そ、そう……。それはごめんね……」
なんだか動揺させてしまったらしい。
サイラスなんちゃらはとぼとぼとエレベーターに向かって去っていった。
申し訳ないことをした気もするが、こういうのははっきり言わないと。
言ったら、なんだかすっきりした気持ちになり、足取り軽くサイラスなんちゃらの乗ったものとは別のエレベーターへと歩き出せた。
午前の仕事を終わらせてから、コンビニでランチを調達しようとエレベーターに乗ろうとした時、
女子社員たちに呼び止められた。
「あの。笠原さん」
ひらひらふわふわとした綺麗な服を着た女子社員3人がつかつかと近寄ってくる。
この会社は私服である。皆、身だしなみを整えてて、顔も美しい。
私はといえば、地味オブ地味で、顔も10人並みである。一応、体型には気を付けてはいるが。
そんな、私とは対極の華やかな人たちが声をかけてくるなんて、正直面倒な予感しかない。
「は、はい。なんでしょう……」
「あなた、牧内さんとどういう関係?」
キター。来てしまった。
サイラスがしつこいので、いつかこうなってしまうのではないのかと危惧していたが
本当になってしまった……。
イケメンに近づくとろくな目に合わないのだ。前の職場でも教育係がイケメンだったために、あらぬ誤解を受けて女子社員からバッシングを食らったことがあるので、警戒していた。
「む、無関係です!」
とりあえず、頭を振りつつ全力で否定させていただく。無関係なのは本当である(少なくとも現世では)。
私の言葉に、ひとりの女子社員の片眉がはねる。
「……本当に?あなたと牧内さんが一緒に駅方面に歩いていくのを見たのよ」
ひえぇ。怖い。
「……た、たまたま一緒になっただけです!」
今度は別の女子社員が声を上げる。
「でもぉ、今朝も牧内さんがエントランスであなたのこと待ってましたよねぇ?」
真実だ。でも頼んだわけではない。シラを切るしかないか……。
「それもたまたまです!少なくとも私は頼んでません!」
「なによその言い方。牧内さんの方がわざわざ貴方を待ってたとでもいいたげね?」
だって本当である。本当なんだけど、本当のことを言うと角が立つ……。あああ本当になんてめんどくさいことをしてくれたんだサイラス牧内っ!!!
もう思考放棄して、壊れた人形のようにひたすらごめんなさいを繰り返してしまおうか……。
その時、背後からひどく冷えた声がした。
「君たち、なんだか楽しそうだね?」




