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夜食には沁みるおかゆ

魔王さんがお盆を両手にもって戻ってきた。

お盆の上には、茶碗一膳のおかゆ。小皿には梅干し。

梅干しなんて、うちにあったっけ…。

怪訝そうな視線を感じ取ったのか、魔王さんはこほん、と咳をした。

「八百屋のマダムがおまけにくれた」

……やはりマダムキラーなのだろうか。

「……いただきます」

お茶碗を持ち上げる。ほんのり温かい。わざわざ温めてくれたんだろうか。

スプーンを入れると、さらっとした透明の汁の中に少し崩れた米粒が浮かぶ。

粘りは少なめのようだ。

スプーンを口に含むと、温かさとほんのりと甘さが口の中に広がる。

その温度と甘さにほっとする。

次に、梅干しをスプーンで少し崩して、おかゆの海に浮かべる。

白と赤のコントラストが美しい。

日本人は、やっぱりこれだよね。

……作ったのは、日本人じゃない魔王さんだけど。


おかゆごと梅干しを食べると、甘みの中の酸っぱさがいいアクセントになって、たまらない。

思わず目をつぶってしまう、が心地よい酸っぱさだ。

個人的には甘めの梅干しよりも、酸っぱさの効いた方が好きなので、ちょうどよかった。


おかゆをあっと言う間に平らげ、やっと人心地ついた。

「ごちそうさまです」

手を合わせる。


それにしても。

「私、お米がどろどろになったおかゆが苦手で……さらさらしているもので助かりました」

「そうか」

魔王さんはそっけなく茶碗を片付け始めた。

その態度に、いやな考えが頭を巡る。

「もしかして、魔力で私の好きなものとかわかっちゃったりするんですか……?」

心とか読まれていたらどうしよう。

ものすごく恥ずかしいではないか!!!!!


「……そんな力あるわけないだろう」

「……ホントに?」

まだ疑っている私に向かって、魔王様は呆れたように言う。


「さらっとしたものが……前世のお前も好きだったのだ」

「……ええと。マナさんが?」

「ああ」

「昔、麦粥というものがあってな。やたらドロドロした代物で、お前はそれをいつも嫌がっていた」

麦粥。今世でいうなら、オートミールのようなものだろうか。

……なぜ、聖女である私の好みを、この人は知っているのだろう。

それに、この人は。魔王のくせにひどく優しい。


「……魔王さん……」

「なんだ」

「つかぬことをお伺いしますが……本当に魔王なんですか?」

「本当に、とはなんだ」

「いえ……その……魔王って、こう、世界を滅ぼす悪の化身ってイメージがあるんですが……魔王さんって、全然そんなふうに見えないし、優しいなと……」


魔王さんは呆気にとられた顔をしていたが、ふっと妖艶な笑みを浮かべた。


「お前のいた世界を滅ぼした魔王は、この俺に違いない。人間は全て滅ぼした」

「……」


本当だろうか。どうしても目の前の魔王さんは人を滅ぼすように見えない。

それとも、何か理由があったんだろうか。


「それにしても」

魔王さんは顔から笑みを消した。


「貴様は前世でもそう言っていた。私のことを、優しいなどど宣って……そして死んでいった」

その一言に心が冷える。


さっきの夢を思い出す。

さっきの夢。優しい誰か。射られた弓矢……。

私を殺そうとしたのは、この人……?


「うぁ……」

ひどく頭が痛くなる。

「大丈夫か」

倒れ込んだ私を魔王さんが支えてくれた。……やっぱり、優しい人。優しい人が私を殺そうとして……。

「ああっ」

だめだ。痛すぎて考えがまとまらない。


「……もう何も考えるな。休め」

魔王さんの瞳から、何かぼんやりとした光が放たれて、私はそのまま気を失った。


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