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1章 陽気に始めよう。何事も…… 004



 ヴィジュー、アナハタと呼ばれた女に男は、鋭い目つきでオレを睨む。

 それと同時に、何も無い空間に手をかざしたと思った瞬間。


 オレは、後ろの牢屋の壁に激突していた。吹き飛ばされたのか、はたまた殴り飛ばさられたのか。それすらも判別がつかない。

 さっきのドゥールーと、似た様なワザなのだろう。離れた相手に何かしら作用する様な、そんな超能力。

 そして、激突して終わりではなく。オレはそのまま、壁に縫い付けられた状態にされてしまっている。


「おいおいおい、まいったねどうも……こんなんばっかだな」

 目に見えない圧に押し込まれ、壁に埋まるオレだが、言葉は微妙に発する事ができた。なので、嘆息気味に呟いてみる。


「なるほど。確かに、ヴァティ様がこいつの無礼を不問にし。様子を見るとおっしゃった真意は……なるほど、なるほど」

 黒髪のアナハタは、モスグリーンの目を細めて、暗い調子で喋った。

「ふぅん、そうね確かに。こいつ、ケッコー硬いのねぇ……ねぇ、ドゥールー?」

 ツノの生えたヴィジューは、隣の褐色の女へと視線を向ける。


「そうねー、ヴァティ様の一撃に、粉々にならない位のタフネスさと。砕かれた頭蓋も再生するスピード。色々と、やっぱりそうねー」

 ドゥールーはここで一拍の間を置く。

「私とカーリーで設計した方向性は、今のところ再現できている。そこを見てくれたのねー、ヴァティ様は。

 ――だから、二人ともそいつを下ろしてあげて。一応の適正を、これから試していかないとねー」


 ヴィジューにアナハタは、ドゥールーの言葉に無言で頷き。上げていた手を下げる。

 するとオレの体にかかっていた圧は消えて、今度はドォーンという音を奏でて、牢屋の床へと突っ伏した。

 はぁ、まったく。

「……どうだい? オレは合格、かな?」、何が合格なのか。とりあえず今のオレには決定権はなく、ヴァティとかいう、あの胸を揉んでしまった女の匙加減という事は、なんとなくで察せられた。


『――っ、合格には程遠いっ』

 三人のコスプレ男女は、同時に言葉を重ねる。

 はっはっは、仲が良いのは良い事だ。

 オレは自嘲気味に両手を上げて、降参のポーズをとった。

 

 まずは着替えを。そんなドゥールーの言葉で、ようやく牢屋を出れる。

 この世界でも、あっちの世界でも、オレは微妙にノケモノなのかもしれなかったが。あっちの世界で、大量に人を殺すよりかは今の方が遥かにマシに見えた。

 そうだな、そう考えると少し楽しい気分が戻ってくる。

「サイコーにゴキゲンだぜ……」、と虚しく独りごちた。

 ……

 …


「こっちだ」と、ヴィジューに案内された部屋に入る。

 そこには衣服や、鎧みたいな、武具防具が所狭しと並べられた部屋だった。どれもそれなりに汚く、使い込まれた様子を見るに、下っ端や手下の装備を管理する部屋なのかも知れない。

 壁にはドクロや、謎の骨が飾ってあり、幾分悪趣味と言えるだろう。こういう趣味の団体なのだろうか。

 呪術的な? まぁ、なんでもいいか。


「なぁ、あんた。ヴィジューだっけ? あんたは何をしてるヒトなんだ?」

 指示された服や、胸当てなどを、指で物色しつつ。扉付近で、その様子を見ている金髪女に尋ねてみる。

「ええ〜、生意気〜。ほんと、ヴァティ様が様子を見ろなんて命令してなかったら、もう殺してるからね〜、あんた……

 ――何をしてるヒトって……えっ、何も聞いてないのっ!? ヴァティ様や、亜人連合、七曜闇武(セブン)の事もっ?」


「あぁ〜、いや、なんとなくはドゥールーから。オレが造られた? 目的とか、なんか戦争してるとか。まぁ……気が付いたら頭カチ割られてて、さっき目が覚めたばっかしだしなー。で、あんた達って一体なんなんだ?」

 衣服に関しては問題はないのだが、胸当てやらなんやら、戦う為の装備など触ったのはこれが初めてだ。さっぱり、着け方が分からん。

 とりあえずで、触診するようにあちらこちらを探る。


「なんなんだぁー? えぇぇ、まいったな〜、そんな質問を受ける日が、この七曜闇武(セブン)水曜姫(すいようき)、ヴィジューちゃんにくるなんて思っても見なかった。ねぇ? アナハタ?」

 ヴィジューの言葉に、オレは怪訝な表情を作って、扉付近の金髪の女に視線を向けた。

 そこには、ヴィジューひとりしか居ない。また、ここに連れて来られる前に、アナハタと呼ばれた黒ずくめは、どこかへ行ってしまったはずだが……

 

「ああ、ああ……まったくだなヴィジュー。七曜闇武(セブン)木曜鬼(もくようき)たるこの僕も、今の質問は初めてだ。本当に、本当に」

 どこからともなく声がして、黒い(チリ)が集まったかと思ったら。瞬く間に人の形を成して、痩身痩躯の根暗そうなアナハタが出現する。


「おお、なんだそれ!? 急に出てきた!? なんか楽しそうだな、アナハタ! ただの暗いヤツかと思ってたけど、良いじゃん良いじゃん。なんだよ、おいー!」

 思いの外、テンションが上がってしまった。

 着け方のよく分からない胸当てをほっぽって、ヴィジューとアナハタへ近づいていく。


「おい、なんだ貴様っ。やめろっ! 僕に触るな、触るなっ!」

「えー、どうなってんのコレ。人の感じだな……いや、なんか冷たいっ?」

 指でツンツンと、アナハタの肌を突いてみる。体温が人間のものでないという以外は、いたって普通に人間のそれに近い柔らかさだ。


「おい貴様……やめろ、やめろ」

「さっきもそうだけど、今のはどうなってるんだ? なんか不思議なイリュージョンだな、おい。お前ら、みんななんかそんな手品みたいなのできんだなぁ、すげぇな……」

 オレは変わらずツンツンを繰り返す。

 アナハタの表情が少し曇っている様な気はしたが、まぁ大丈夫だろう。


「き、貴様貴様っ!」

 ギリっと音が聞こえたが、オレにはなんの音かは分からない。

 その分、ヴィジューがすぐさま青ざめた表情を作り出す。

「わ、わっ、アナハタ!? ちょっと! ここではやめっ〜」、そんな叫びは無視され、アナハタはオレの胸へと腕を上げる。

 瞬間。


 腕くらいの大きさの、かなり鋭利に尖った氷(霜みたいな霧が発生していて冷たそうだから、多分氷)が出現。それも、一つや二つではない。

 何十本も、アナハタを中心として現れたのだ。

 そして、その鋭利な先端は、一律でオレの方へと向いている。


「お、おお……あれ、怒った?」

 へへ、と一応笑ってみせて、オレはアナハタの表情を窺う。

「――僕に、触れるな触れるなっ!」

 怒ったらしい。

 なるほど、アナハタ(こいつ)の地雷を踏んでしまったみたいだ。


「まってアナハタ〜っ!」

 ヴィジューが止めに入ろうと、腕を伸ばした時にはもう遅い。尖った氷は、オレへと発射されていた。


 一つ一つは、やはりとんでもなく鋭利で、いとも簡単にオレの体を貫いていく。

 突然のことだったし、別に痛みは感じなかったが。その衝撃は、オレを後方へと吹っ飛ばしていく。

 そして、数も多いことから、オレだけに留まらず、防具が置いてあるこの部屋自体も、氷の刃は傷つけ貫き破壊していった。


 吹っ飛ばされれば当然、部屋の壁に激突。氷が、体を貫く痛みを感じる前に、打ち付けられた後頭部の衝撃の方が早い。

 後ろ頭から鼻先に抜けるような、ツンとした感覚だけが、オレを通り抜け。破砕音が部屋中に響く。


 しかし、勢いはそこで止まらなかった。

 オレごと壁は破壊され、突き抜けるのだ。

 

「おぉ、またか……」、なんて感想を小さく呟き。尖った氷に貫かれながら外へと投げ出されてしまう。

 ここが何階かは知らないが、感覚的には三階以上は高い場所だと思う。投げ出され、落ちていくその途中。

 オレの目に映った光景は印象的で。

 何かにぶつかる度に、欠けた氷の粒が、空気中を舞ってキラキラと光を反射させる。

 内臓が浮遊する感覚と、その光景が合わさって、一種の神々しい体験をしている錯覚を引き起こす。

 いいじゃん……


 と、そんな最中。

 落ちていくオレの眼前に、黒いモヤが集まったかと思った刹那には。黒ずくめで、根暗そうなアナハタへと姿を変えていく。

 そして、落ちているオレに、とどめの追撃とばかりに。

 蹴りを放った。


「はは、容赦ないね」、その執拗さは、すげぇいいんじゃない? たまに大事だよなぁ。

 と、アナハタの良い部分を見つけ出して、内心で褒めてみた。


 オレはもちろん。

 盛大な音を立てて、地面に衝突し、めり込んだ。


 

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