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2章 破壊神、家出する。011



 再び大地に埋まった頭蓋。

 そこに響く硬い残響の乱反射が、脳みそを掻き回す。

 オレの頭はまだ、形を保てているだろうか。


「待てって、ヴィジュー。ちょっと冗談、冗談っ」、と言ったつもりが、崩れた土を口に含んだままでは上手く喋れず。「ふぉふぃっふぃ、ふぉふぃ〜。ふぉっふぉふぉ〜はん、ふぉ〜はんっ」、となんとも情けない声が漏れるのみ。


「ちょっとアンタ。これはどうゆう事なの? これっ!」

 ヴィジューはもう一度オレの胸ぐらを掴んで、持ち上げ。後方の巨大な流砂を指差した。

「ぺっぺっぺ。うへぇぇ……い、いや。オレにも何がなんだか」、実際には心当たりはある。がしかし、それは状況的な推測でしかない。


 いや、まぁ、十中八九オレ自身が何かしら関わっているのは間違いないだろう。

 ワニの時も、今日のこの場合も、()()()()()()()()

 関係が無いと言い切るには、その他の材料が少なすぎる。

 オレの考えを伝えるべきか、否か。うーん、判断が難しい。亜人達(コイツら)、人の話あんまり聞かないからな。


「まぁ、なんつーか。ははっ、オレの熱いダンスで土が溶けちゃったかな……なんて、な」

「はぁ!? ダンス……?」

 ヴィジューはオレのジョークを真に受けて、真剣な面持ちで流砂へと視線を投げ。「ダンス……付与効果? いや、常時発動型(パッシブ)? それとも条件発動型(アクティブ)スキル? えぇぇ、まさか……」、などとブツブツ独りごちる。

 その内容はさっぱりだったが、まぁいいかと思った。


 ヴィジューは何かしらに思いを馳せ、むっつりと黙りこくる。

 オレは家出なのか脱走なのかが、取り敢えず失敗に終わったという落胆を噛み締め。ヴィジューに胸ぐらを掴まれたまま「はへぇ……」と、嘆息をつく。

 そんな頃合いだ。

 空気が、大気が、微振動。それから少し大きめの振動に変わったと思った瞬間。

 稲光に似た閃光が眼前の地表へと落ちる。


 何事かと目を見開いていると、もうもうと上がる土煙に混じって人影が三つ。現れた。

 そのうちの二人は褐色の双子。ドゥールーにカーリーで。

 その二人に挟まれる形で姿を現したのは、亜人達を束ねる翠の髪色ロングヘアー。魔王(?)ヴァティ・パールである。


「マジかぁ……」、ヴィジューにだけではなく、とうとうコイツらにも追いつかれてしまった。

 もしかして、オレはこのまま殺されてしまうのだろうか。

 うーん。

 少し、自分が殺されることについて考えてみる。

 まぁまぁ悲しくはあるが、この世界には来たばかりで、未練は一ミリもない。

 前の世界には不要と弾かれたわけだし、それはこっちでも同じだと考えると。まぁ、別にいいかという気になってくる。

 自暴自棄、と言っていいのだろうか。それとも壊れたかな。いや、麻痺してきたのかもしれない。

 自嘲気味に笑う。


「はは……」

 なんであれ笑えた事実に、オレはまだ何かを楽しめる余裕はありそうだ。


「貴様……」

 魔王ヴァティ・パールは開口一番、ツカツカと近づき、そして腕を伸ばす。ヴィジューが掴んでいるオレの胸ぐらを、横合いからひったくる形だ。

「貴様の勝手な行動で、ヴィジューがどれほどの面目を(しっ)したか、お前に分かるか?」

「ヴァティ様……」、ヴィジューは後方へと素早く飛び退き、膝をついて(こうべ)を垂れる。


 凜と澄んだ声色にも関わらず、それは低く下腹部に響いた。

 魔王ヴァティ・パールは(おこ)なのだろう。部下に恥をかかせた新参の下っぱに、かなりご立腹であるのだ。

 随分と仲間思いな上司である。

「あぁ、そうだよな。すまん……」、取り敢えずで謝ってみた。


「貴様……どうして、脱走を図った?」

 図ってなどいない。あ、そうだ! どっか行こう。ぐらいのノリで出てきたからね。それを聞かれても困るなぁ。

 ヴァティは努めて無表情を装うが、こめかみの辺りがピクピクと痙攣している。

 正直、何にそんなに怒る事があるのかと、甚だ疑問ではあるが。仕方がない……


「あ、あぁ……いや、なんとなく。外出たいなぁ、なんて……ははっ」

「ちっ……」

 明確に、聞こえる様に、魔王ヴァティ・パールは舌打ちをする。

 意外や意外、殴られると思ったが。なんというか、その舌打ちはどういう感情のアレなんだろうか。オレには計りかねた。

 と、思った瞬間に。

 魔王は、拳を高々と振り上げる。


「あ、結局殴るんだ……」、ついつい思った事が口から出てしまう。

「ヴァティ様っ!」

「ヴァティ様ぁ〜!」

 両隣のドゥールーとカーリーが、慌ててヴァティに制止をかける。


「くっ、止めるな二人とも! 私は、私はっ、亜人を統べる王として、この失敗作の出来損ないを涅槃に戻し、再び計画を練り直すっ」

 失敗作の出来損ないって、失敗作にもなり得なかったのだろうかオレは……

「エヘー、ヴァティ様。待って待って、後ろを見てください〜」

 カーリーの発言に、ドゥールーも首を高速で縦に振る。


 その様を見てヴァティはようやく後ろを振り向いた。オレが辿った道なりに、地面が陥没し流砂の如く荒れに荒れた大地を、だ。

 そして言葉に詰まる。

「これ、は……どういう事だ……?」

 亜人を統べる王は、今。事態を()の当たりにする。


「ヴァティ様〜。シーヴァが言うには、ダンスなるスキルを使ったという事みたいですぅ」

 ヴィジューは頭を上げて、己が主へと、自身が知り得た情報を話す。

「ダン、ス……?」


 ヴァティは、ドゥールーとカーリーに視線を送るが。双方とも無言で、今度は首を横に振る。

 しばらくの沈黙。

 それからすぐに魔王ヴァティ・パールは、手招く所作を三人の女に送った。

 サッと、ヴァティを中心に、四人の女が輪になって集まり。何やらヒソヒソと話し出す。

 これが井戸端会議というヤツだろうか。まぁ、なんにせよ、しばらくは殺される事はなさそうだ。

 ……

 …



 ◾️◾️



 ブンブンと羽音を立てて飛ぶ者が一人。

 背丈はゆうに二メートルを越すだろう。

 がしかし、その容姿にはおよそ人らしい部分は皆無で。手足が六本ついた節足動物の、どこからどう見ても(はえ)、である。

 臆面もなく言い表すならば、巨大な蠅、以外の何者でもない。

 人であれば、その羽音は耳障りを超えて、鼓膜が損傷してしまうし。その姿形は、根源的な恐怖を呼び起こし、心胆を寒からしめる事は間違い無いだろう。

 

「う〜ん。ルシ様が異常だって言ってるってなぁ〜。そんな事、ボクちゃんに言われてもなぁ〜

 ――う〜ん、仕方ないけどさ〜。どうせボクちゃんは、しがないルシ様の(しもべ)だもんな〜、ブンブン〜」

 パッと行ってパッと済ましちゃおう〜。などど軽く言って、蠅は飛行の速度を早めた。

 その姿形と対照的な口調の巨大な蠅だが。表情からは、どんな感情も読み取れない。


 彼の名は、ベルゼビィ。

 北部を陣取る悪魔属の長である堕天ルシフエル、その配下の一人である。


 ベルゼビィは飛ぶ。

 ブンブンと。

 (あるじ)から下された、調査せよとの(めい)を守る為。

 そう、シーヴァや魔王ヴァティ・パール達、五人の亜人属がいる場所へと。その飛行速度を早めて駆けつける。


「う〜ん、なんだか風が湿ってるなぁ。なんだろう〜? ブンブン〜」


 


 ◾️◾️

 


「つまり、結局どうゆう事になる?」

「エヘヘ、もしシーヴァの仕業であれば、すぐに廃棄とかはぁ……う〜ん、って感じですぅ。エヘヘー」

「……そうねぇ。はい、カーリーのいう通り……かと、ヴァティ様」

「ヴィジューちゃん的にも、カーリーに賛成しまぁすヴァティ様。廃棄よりかは、もっともっと厳しい教育をして……

 ――で、壊れたら壊れたで……みたいな?」

「うむ。なるほど……まだ、兵器としての可能性は残っていると、みんなは思うわけだな……そうか、しかし……」


 所々漏れ聞こえる、四人の女の不穏な井戸端会議。

 どんより曇った空を仰ぎ見て、半笑いになるしかない。


 と、そこで視界を何かの黒い点が捉えた。

 同時に、耳障りなブンブンという羽音も聞こえてきた様な気がする。

「ん、なんだ……?」


 その点はみるみるうちに大きくなって、その詳細が見えてきた。

 巨大な(はえ)。だよな……多分。

 近づいてくる羽音に気付いて、四人の井戸端会議女子も中断を余儀なくされた様で、そちらの方向へと顔を向ける。

 瞬間。


 四人は素早く身構え、魔王ヴァティ・パールを中心に、守るように広がった。

 何かを察し、戦闘態勢に入ったのだろうか。そういう所は、中々に連携が取れていて、亜人達(コイツら)の絆みたいな何かを感じざるを得ない。

 オレに対してのみ、どうでもいいのだろう。

「仲間……か」、と自然と口からこぼれ出ていた。


「う〜ん、ブンブン〜。なんだなんだ〜? なんで、魔属の落ちこぼれ姫と、その取り巻きがいるんだ〜? ブンブン〜

 ――ルシ様の言ってた異常がこれなのかな〜?」


 巨大な蠅は、流暢に言葉を喋る。

 虫とかは別段、苦手というほどはないのだが。流石に、蝿がこの大きさで喋るのを見ると。流石に……


「キモっ……」、とまたまた口から自然と溢れてたよね。

 悪気はないんだけど。

  

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