表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/8

再びの覚醒

痛そうな描写があります。

ご注意下さい

一人になると、とても不安で涙が出た。

オリバーさんは聖騎士に追いかけられることは無いよね?無事でいて欲しい。

お父さんお母さん、まだ何も知らないかな?どうぞ両親が巻き込まれませんように。。。

膝を抱えて考えていたが、色んなことがありすぎて疲れ切っていたから、時々意識が飛んで眠っていたようだ。

切れ切れに日本の夢を見た。

娘が「お母さん、そちらの世界で安らかに暮らしてね」と手を合わせて願ってくれている。

息子が「あっちでは元気な身体だろうから、また人の世話焼いてんじゃねーの?前、バスが揺れて危ないからって、おばあちゃんに席を譲ろうとして、『私よりあなたの方が危なそうよ?』って断られて落ち込んでたよな?」

と言って、娘と笑っている。


なんだろう?お墓参りでもしてくれてるのかな?

娘が小学生くらいの女の子に「ほら、りんもおばあちゃんに手を合わせて。」と顔を向ける。

女の子はしゃがんで「おばあちゃん」と呟いて手を合わせた――


孫おおおお!

「おばあちゃん」って言った!

ああ、子供達!死んじゃってもう会えないかも知れないけど永遠に愛してる!

孫!まだ会ったことないけどもう愛してる!

「盆には帰るどぉぉぉぉ!!!」

完全に目が覚めて、最後のは声に出てた。


てか、考えないようにしていたけど、いいかげんトイレに行きたい。

魔力封じを付けられていては魔法が使えない。

この世界で魔法が使えないということはウォシュ〇ットが使えないということだ。

両手を重い枷で拘束されていて、紙で拭くのさえままならない。

日本の夢を見て怒る元気が出てきたのか、

「なにしてくれちゃってんのぉぉぉ?」と感情が爆発した。

その勢いのまま魔力封じの手枷に全力の浄化魔法をかけたら、魔力封じが無効化されて枷だけ残った。

試しに「光あれ」と指先を光らせたら、明るくなって、閉じ込められていた部屋の全容が見え、バスルームに行くことができた。

ちなみに、コーデリア様が「治癒の奇跡」でキラキラさせているのは、この初級魔法だ。

魔法が使えるようになったから聖騎士から逃げ切れる可能性も出てきたけれど、今逃げるかどうかは難しいところ。オリバーさんと両親が逃げる前に私の不在がバレてはまずい。

私はこの部屋で夜明けを待つことにして、バスルームの浴槽に魔法でお湯を貯め、久しぶりにのんびり日本式の入浴をした。

翌日、私は王妃の私兵に連行されて、王宮前広場の地面へと突き飛ばされた。

広場には多くの民衆が集まっていて、これから何が起こるのか見守っている。


魔力封じの手枷が無効になっていることは気付かれていない。

清炎で浄化したり「ヒール」で病気を治したことがある人達も、心配そうに私を見ていた。

はなたれ小僧のケイ君の姿も見える。


「偽聖女ユリア!」

第二王子が王宮から張り出した舞台に現れ、私を指差す。

「貴様は浄化魔法などと偽って不特定多数の者に呪いを掛けたばかりか、その呪いで王后陛下と王太子殿下・王孫殿下を弑した。その罪は万死に値する!

よって、貴様との婚約を破棄し、即時極刑を申し付ける!

なお、ただ今より第二王子であるこのわたし、ハンス・ハファムが王太子となり、コーデリア・ロレーヌを婚約者とすることを宣言する!

非常時につき正規の手続きを踏んでいないが、薨去した王族の葬儀が済み次第、貴族院に諮ることとする。」

――婚約って、あんた達兄弟じゃないの?本人達知らないの?

第二王子の宣言の情報量が多すぎて、一番自分に関係ないところに引っかかってしまったが、

私を即時処刑するって言ってたぞ!

必死に情報を処理していると

コーデリア様がこちらにやってきて、グイと私の髪を引っ張り、背中を踏みつける。

そして、大きなハサミでザリっと髪を根元から切った。

この人はどうして私の髪の毛にやたらと触るんだろう?

「髪にはね、魔力が貯まるのよ。

お前の魔力は私のものよ!」

そうなの?切られてもなんともないけど?

コーデリア様は更にニッパーのような物を取り出して、私の爪を剥がした。

「ぎゃー!何すんですか!」

痛たた……手の指全部やりやがった。

「これであんたが死ねばあんたの魔力は全部私のものよ」

そうなの?ケラチンになんかあるの?

でも、じゃあ、一刻も早く殺したいわよね?

原理も真偽もわからないけど、命の危機の前には瑣末なこと。

お父さん、お母さん、ごめんね、もう逃げる!


自分に「ヒール」をかけながら警備が手薄な所を探して周りを見ると、はなたれ小僧のケイ君と目が合った。

ケイ君、また鼻が垂れてる。

逃げたらもう治してあげられない。

「ケイ君!私、逃げなきゃ!一緒に行こう!」

何故か置いて行けなくて、誘ってしまった。

「東から結界の外に出よう。」

ケイ君が文章を喋った!しかもめっちゃ落ち着いてる。

私はケイ君に背中を向けてしゃがみ、「乗って!」と促した。

ケイ君は比喩じゃなく羽のように軽い。むしろ背負った方が身体が軽く感じる。

私は一度特大の清炎を放って目眩しすると、身体強化して東に走った。

東から結界を出たら魔獣の森だけど、清炎で倒せるから大丈夫。

むしろ追っ手が入って来られないから好都合だ。

ケイ君、咄嗟にここを思いつくなんて天才!

魔獣の森の東には瘴気の谷があって、さらに東は手付かずの原野、そのもっと先は海になっているはず。

魔獣の森の奥深くで、私はケイ君を背中から降ろした。

「懐紙かハンカチ持ってるか?」

降りたケイ君の第一声である。

見た目によらず綺麗好き?

前世日本のおばちゃんの私は、外出時常に両方持っているので、ケイ君に懐紙を差し出した。

ケイ君は懐紙で盛大に鼻をかむと、それを後ろ向きにぽいっと投げた。

身体強化しているから見えたけど、ケイ君が軽く投げた懐紙は魔獣の森を越え、結界を通り抜けて、国の中に入っていった。

紙くずがあんな勢いで飛ぶってどういうこと?

「我を浄化せよ」ケイ君が言う。

雰囲気変わったなと思いながら、浄化魔法を掛ける。

するとケイ君は、眩い白い光を放ちながらどんどん大きくなっていく。

ギリギリ人間サイズの2メートルちょっとオーバーくらいで光が弱まり、その姿が見えるようになった。

月光のように輝く髪と真っ白な肌、透き通る氷のような瞳。

真っ白な貫頭衣を纏っている。

これは・・・神様だ。

鼻たれ小僧様だったんだ!

ここ、ファンタジーだし、土下座でいいのか分からないけど、とにかく無礼にならないように地面に額が着くくらい平伏した。

「我が名はケイオス。

新たな天地あめつちを開くものなり。

聖女よ、楽にするが良い」

お言葉なので、座ったまま頭を上げさせてもらった。

ケイオス様は手のひらを瘴気の谷の方に向け、少し気合い込めた。

ケイオス様が立っている場所から先の魔獣の森と瘴気の谷、見える範囲の原野がぐにゃりと歪んで銀色のマグマのように泡立ったかと思うと、平らに固まって黒土の大地が現れた。

「あちらにそなたの住処を作るとするか。」

「想像できる物は何でも作れる。住みたい家を想像してみよ。ゆっくりでいい。」

欲望のままなんでもアリなら、京都や鎌倉のお寺の庭みたいなところに現代日本の豪邸を建てて住みたいかな。

大きな木、橋の架かった池、水琴窟も欲しい。家の中は床でゴロゴロすることもできるけど、椅子を使うテーブルもあり、眠る場所はベッド。

お風呂は広い温泉で、トイレはもちろんウォシュ〇ット付き。

台所には魔力で加熱するコンロを置くか。

ケイオス様が気合いを込めると、世界観の統一もへったくれもない私の欲望そのままの住居が使用可能な状態で現れた。

さっそくケイオス様と中に入って、

ハンドソープで手を洗い、魔力ケトルでお湯を沸かし、急須で黄金桂を蒸らしマグカップに入れた。

お茶セットがチグハグである。

次に飲む時は優美な茶器が欲しい。

召し上がるか分からないけどケイオス様の分もお茶を用意して、2人でテーブルに座った。日本人サイズの椅子が窮屈そうだ。

ケイオス様はスクリーンのようなものを出して、動画を映す。

そこには私が逃げ出して来た王宮前広場が映っていた。

「現在の様子だ。儂が引き受けていた穢れを突き返したから、じきに瘴気に塗れ、魔獣が生まれるだろう。そなたが清炎を放っていなければ、奴らは既に死んでいただろう。」

「そんな!あそこにいる人達はどうなるんですか?」

ケイオス様は静かに顔を横に振る。

「みすぼらしい姿の儂に手を差し伸べる者が、そなた以外に一人でも居たなら、こうはならなかったのだがな。

あの国を隈無く歩いたが、神殿や孤児院でさえ追い払われたぞ?

あの国はそなたが居たことで、実りは豊かで穢れも常に祓われていた。その恩恵を少しでも、恵まれない者に分けなくてはならなかったのだ。

そなたが取り成して慈悲を乞おうなどと思うなよ?

儂が気分を害したとか、そういうことではないのだ。

神を恐れ敬う心と慈悲の心が無ければ、如何なる加護も受けることができない。あの国にはそれが無かった。その上加護の中継役であるそなたを殺そうとまでした。

あのような所にこれ以上関わっては、儂の力が落ちてしまう。」

ケイオス様の言葉は・・・神様からすればそうなんだろう。

でも、本当は信心深くて慈悲深くても、環境が悪ければ表に出せない。根っから悪い人とケイオス様の目に止まらなかっただけの人が同じ裁きを受けるのは酷いと思う。

「でも!自分の暮らしさえままならず、他のことに構っていられなかった人も居るかも知れません。

自分の子供が飢えているのに、知らない子供に施しができるでしょうか?」

ケイオス様はふっと表情を緩めた。

「そなたはそう言うのだな。

ひとまず、そなたが祝福を授けた者は傷つかないから安心しろ。

そなたは魔獣の森を全て浄化して清らかな森に戻せ。

そうしたら儂が腹を空かせた者だけが通れる結界を張る。

あの状況で腹を満たしている者など、悪徳貴族しかおらんだろう?

もし悪者が結界を通ってきたら、見張りの者が追い返す。

すぐにそなたの信奉者が追いかけて来るだろうから、その者に見張りを任せよう。」

「瘴気も魔獣も今すぐという訳では無い。

心配せず今日はもう休め。」

家族を思う気持ちは来世にも届くはず!


ここまでお読み下さりありがとうございます。

気に入って頂けましたら、★をポチッとして下さると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ