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3/8

ある日、コーデリア様の部屋でアミュレット作りに励んでいると、神官が部屋に飛び込んで来た。

「聖女様!王宮から至急の呼び出しです。直ぐにお出かけ下さい!」

聖女様と言うのでコーデリア様のことかと思って動かずにいると、神官が気まずそうに「あ、聖女ユリア様をお呼びです。お早くお願い致します」と私を急かした。

コーデリア様はニッコリして「早くお行きなさい」と言う。

なんだか薄気味悪いけど、巫女服の上から聖女のローブを引っ掛けて馬車に乗り、王宮に着いた。

「聖女様!こちらです!」案内の人が走るので私も走って追いかけた。

王族の居住区域まで連れてこられると、以前お茶会で「ヒール」をかけたメイドさんが青ざめた顔で待ち受けていて、

「どうぞお助け下さい」と私を部屋に入れた。

部屋の中では、王后陛下と王太子御一家が倒れていて、皆ぴくりとも動かない。

駆け寄ってみたけれど、全員既に事切れている。

いくら私の神聖力が強くても、亡くなった人を甦らせることはできない。

メイドさんが震える声で「王妃殿下から贈られたお茶を召し上がった途端お倒れになって・・・毒見役はなんともなかったのに・・・」と言う。

生き返らせることはできないけど、せめて身体に取り込んだ悪意を払って綺麗にしてあげたいと思い、一人一人丁寧に浄化した。

罪も無い子供にまで毒を盛るなんて……。

苦しんだ跡が残るお身体に「ヒール」をかけて綺麗にしている所に、王妃殿下とその護衛達がズカズカ入ってきた。

「王族殺しの重罪人よ!捕らえなさい!」

王妃殿下が私を指さす。

は???

思考が停止している間に私とメイドさんは騎士たちに引き摺られて地下牢に入れられてしまった。

騎士たちが牢に魔法封じの鍵を掛けて去った後、メイドさんが号泣し始めたから、背中を撫でて落ち着かせた。

殺人現場など見たのは初めてだし、しかも被害者が知り合いの幸せそうな御一家だったから、私自身もパニックだった。牢に入れられたのが1人じゃなくて良かった。

落ち着きを取り戻したメイドさんが言うには、王后陛下と王太子御一家は2種類の毒を盛られた可能性があるとのことだ。

お茶とお菓子に別々の薬剤が入っていて、一度に両方摂取すると致死性の毒になると。

毒見を別々の人間がしたせいでこんなことになってしまったが、それも恐らく王妃の仕向けたことだと。

「私は王后陛下付きのメイドとして本国から派遣されましたが、本業は間諜で、王妃と宰相の不貞を監視するのが任務でした。

私がもっと広範囲に注意を払っていれば……」

メイドさんがまた号泣するので、別の仕事をしていたなら仕方がないですよと慰める。

しかし、聞き捨てならないことを言ってるぞ?

「あの、こんな時になんですが、王妃と宰相の不貞ってどういうことですか?」

「聖女様はお若いですし、神殿にいらっしゃったのでご存知ないかと思いますが、

王妃は学生時代、高位貴族の子弟と見るや片っ端から色目を使って、女子生徒から嫌われていたのです。

特に婚約者のいる女生徒の中には実害を被った人もいて、報復もあったようです。

優しい国王陛下と女性に免疫の無かった宰相がそれを哀れんで庇うようになりまして。

国王陛下は当時侯爵令嬢と婚約してらしたんですが、そのご令嬢が王妃に嫌がらせをしていると聞くと『そんな女怖い』とおっしゃって……結局破談になりました。

婚約者だったご令嬢が実際嫌がらせをしたかどうか不明ですし、家格が全く違いますから、多少の嫌がらせくらいしていたとしても婚約を取りやめるほどの問題ではありません。

それを国王陛下のご意向で破談にしたので、侯爵家は抗議のため、国内での事業をやめて他国に移住してしまいました。

結局、国王陛下は王妃と結婚しました。

宰相も婚約者の伯爵令嬢に不貞を疑われて婚約破棄され、3年後、年下の男爵令嬢と結婚しました。

国王陛下は侯爵令嬢と結婚して公爵家を創設するはずだったのですが、相手が子爵の娘では貴族院の了承が得られず、王宮に残ることになりました。

王族の求心力が弱まる中、当時の王太子殿下御一家が事故で亡くなって、当時の国王陛下は心労からお倒れになり崩御、第二王子だった今の国王陛下が即位なさいました。

配偶者だった王妃もそのまま国母となりましたが、公爵夫人としてすら認められなかった女です。

貴族の反発が強かったため、「王后」という王妃より一段上の位を作って、8歳年下の友好国の王女を迎え入れました。それが王后陛下ジル様です。

ジル様は優しく聡明な方で、かなり年下でもあったので、優しすぎて優柔不断な国王陛下との相性が良かったようです。

仲睦まじく過ごされ、すぐに男子を授かりました。

一方、王妃の方は、貴族から認められないことで苛立って本性が露呈したようで、国王陛下のお渡りは無くなりました。

荒れ狂う王妃を宥めたのが当時はまだ父親の補佐をしていた、今の宰相です。

王妃は学生時代、宰相との方が相性が良かったようですが、王族という地位に惹かれたのか国王陛下に執着して

破談に追い込んだんです。」

「・・・第二王子が生まれた頃はどうだったんでしょう?」

「お渡りは全くありませんでした。貴族の間では公然の秘密と言いますか、敢えて口にする者が居ないだけと言いますか……。」

――派手な断罪劇などは無かったみたいだけど、やっぱりこの国は、「真実の愛」のその後の段階で、当時の第二王子が自滅ざまあを食らっていたところのようだ。

ピンクブロンドに掻き回されて、高位の令嬢と破談、貴族からそっぽを向かれ、ピンクブロンドと取り巻きの男の托卵。

更に今はピンクブロンドに愛する妻と息子一家まで殺されてしまった。

このざまあ、厳しすぎない?

高校生くらいの年齢でパートナー選びを失敗しただけでこんなことになるなんて。。。

国王陛下に同情していると、メイドさんに呼ばれて現実に戻る。

「聖女様。私はここを出て仲間と合流しますが、聖女様も一緒にいらっしゃいますか?」

間諜だというから、牢を抜けるくらい軽くできるんだろう。

ここに居たらろくな事にならないのは確かだけど、私が逃げてしまったら、この世界のお父さんとお母さんに危害を加えられるかもしれない。

私がお誘いを断ると、メイドさんは、「では、私は本国への報告がありますので、参ります。事実確認が取れ次第宣戦布告となるはずですので、早めにこの国を出ることをおすすめします。どうぞご無事で。」

と去っていった。

あー……王后陛下のご実家から報復があるのね。。。

そりゃそうか。

平民に被害が出ないと良いけど。

しばらく1人で膝を抱えて座っていたら、国王陛下と王妃が地下牢までやってきた。

国王陛下が格子の前に立ち、見るともなく私に視線を向けて、王妃に話しかける。

「お前にとっては只々憎いだけの者たちだったかもしれないが、俺にとってはかけがえの無い家族だった。

国母にはしてやれなかったが、どうせ公務は嫌いだろう?何がそこまで不満だったんだ?」

表情の抜け落ちた陛下に向かって、王妃が喚く。

「こんな平民とハンスを婚約させるからです!それに他国の血を引くものを王にしたら、後々国を乗っ取られます!」

「出自で散々苦労したお前が、平民を馬鹿にするとはな・・・。

我が国唯一の聖女で、あの美しさだ。元の身分など関係無いだろう?クロードの二妃にしてはハンスの立つ瀬が無かろうと縁談を進めればこれだ……。」

陛下はため息を着くと、更に王妃に問う。

「で、聖女がなぜジルとクロードを殺したというのだ?」

「あの女は聖女ではありません。聖女はコーデリアです。

王太子に色目を使って、相手にされないのを恨んで、魔法で殺したんです。

あの女の浄化とやらはとても痛くて、神聖さなど欠片も感じませんでした。呪いに違いありません!」

王妃が金切り声を上げる。

これが恋愛脳というヤツなのか?何を言っているのかさっぱりわからん。

国王陛下は「そうか…………。お前ももう部屋に戻れ」と言い、

見張りの騎士に「審問は終わりだ。聖女殿は丁重に神殿にお送りしろ」と命じて行ってしまった。

王妃は「この女は重罪人よ!出さないで!」と言い捨てて去っていく。

王族2人から正反対の命令を出された騎士さんは困っていたが、国王陛下に従うことに決めたらしい。

私を牢から出して、馬車で神殿まで送ってくれた。

しかし、神殿に帰りついた途端、私は聖騎士達に押さえつけられて魔力封じの手枷を付けられ、真っ暗な部屋に閉じ込められた。


しばらくすると、オリバーさんが様子を見に来て、水を飲ませてくれたり、抑えられた時の擦り傷に薬を付けてくれたりした。

「この枷が外せればいいんですが、これは神殿騎士と大神官様しか扱えないんです。大神官様はユリア様のすぐ後に宰相閣下に呼ばれて王宮に行ったきり戻って来ていません。今、神殿の指揮権はコーデリア様と第二王子殿下が握っています。」

オリバーさんが不安そうに言う。

あの2人が好き放題しているんじゃ、私の命の保証はないわよね。

「オリバーさん、王宮では、王后陛下と王太子御一家が王妃に毒殺されました。私はその罪を着せられています。これからどうなるかわかりませんから、オリバーさんは神殿を離れて落ち着くまで様子を見て下さい。」

「聖女様!情けないことを仰らないで下さい。俺は命ある限り聖女様をお守りします!」

わぁ!若いイケメンにこんなこと言って貰えるなんて夢みたい!嬉しい!

ちょっと舞い上がってしまったが、浮かれてる場合じゃない。

オリバーさんを巻き込んではいけない。

普通に「逃げて」と言ってもダメだろう。


「ありがとうございます。甘えさせてもらえるなら、私の両親を安全な所に連れて行ってもらえませんか?

実は、一度王宮から逃げるチャンスがあったのですが、両親が心配で逃げられなかったんです。

もしオリバーさんが両親を連れて行ってくれれば、私は隙を見て逃げ出せます。」

魔力封じの枷を付けられた私を連れて聖騎士達から逃げ切るのは難しい。

もし逃げきれても両親が人質になったり、処刑されたりするかもしれない。

オリバーさんは苦しげな表情をしていたが、両親のことを引き受けてくれた。

私は枷を付けられた両手でオリバーさんの手を握り、

「いつも優しくしてくれてありがとうございました。両親のこと、よろしくお願いします。」

と言った。

オリバーさんは大きく頷いて

「ご両親の安全を確保して、必ず助けに来ます」と言い、部屋を出て行った。

私は彼の後ろ姿に手のひらを向け、心を込めて祝福の聖句を唱えた。


たくさんの作品の中から見つけてお読み下さってありがとうございます。

物語も佳境に入って参りました。

気に入って頂けましたら、★をポチッとして評価して下さると嬉しいです

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