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第76話 グラディム疏水


 水の大精霊ウンディーネから加護を受け取った2週間後。


「いやー。突貫工事だったけど、何とか形になったな」


「国のど真ん中に川を流しちゃうとか……。ヤバすぎニャ」



 乾燥した砂と岩の大地で、自然の年間降水量は500㎜以下。砂漠気候ほどではないが、外部から流れ込む河川もなく、ヒトが暮らすのはかなり厳しい場所にある獣人の王国(グラディム)は、古くから渇水に悩まされ続けてきたらしい。


 もともと獣人族は、彼らを回復薬の代わりにしていた人族から逃げて、この不毛な大地に行きついた。


 数人の優れた水魔法を使う獣人がこの国に水を供給し、それでも不足する分は遠くの山脈まで水を汲みに行っていた。それで何とかやっていたのだが、人族が水魔法で凶悪なことをしすぎたことが女神の目に留まり、水魔法が弱体化されてしまった。


 渇きに苦しむ獣人を見て、不憫に思ったウンディーネがこの国に加護を与えることにしたという。ただし大精霊の力を以てしても、水が蒸発しにくい地下水路に必要最低限の水を流すのが限界だったようだ。


 そんな国の中央を今は水量豊富な川が流れている。


 獣人たちの協力を得て、俺が疏水事業を取り仕切った。


 ウンディーネの加護の力でこの国周辺の水の流れを把握し、潤沢な水源がある南の山脈から水を引くことにしたんだ。


 水量を安定できるように貯水池をつくったし、排水の問題にも取り組んだ。


 あとは水源自体の改善も行っている。かなり大規模な魔法を何度か行使したけど、水の大精霊から貰った加護は素晴らしい効果を発揮してくれた。



「最近のトールって、ほんとに神様みたいなことするようになったニャ」


「実際獣人たちの中には、トール殿を神の使いだと崇める者もいます」


「神様なら獣人の力を借りなくてもできちゃうでしょ。俺の計画通りにこうして河川を引けたのは、みんなの協力があったからだよ」


「私も頑張ったんだからね! 褒めなさいよ」


 俺の目の前に水の大精霊が飛んできた。


 手を前に出すと、その上にちょこんと座る。


「もちろんウンディーネ様のおかげです! お疲れ様でした」


 頭を撫でてあげると喜ぶ。

 子猫みたいで可愛い。

 

 長時間飛び続けるのは疲れるらしく、疏水工事をしている期間、ウンディーネは俺かミーナの肩の上で休むことが多かった。

 

「この国の王を任される身として俺からも御礼を。ご助力いただき、誠にありがとうございました。これからは、ゆるりとお休みください」


「そうね。これでしばらくは私がこの国を離れても大丈夫かな。でも、私を崇めてくれる獣人は好き。だからどうしてもって言うなら、今後もこの国に加護を与えてあげても良いよ」


 ウンディーネがそう言って、チラッとレオルを見る。


 居場所がなくなるのではないかと不安になっているんじゃないだろうか。


 たぶん、それは問題ないだろう。


「ウンディーネ様。今後も何卒、我が国への加護をお願い致します」


「……いいの? 川ができたし、もう私がここにいる意味がないけど。本当に私、この国にいていいの?」


「もちろんですとも! ずっと地下におられたウンディーネ様が地上でトール殿と共に作業をして下さったことで、獣人たちは目に見えて作業意欲が向上しました。みな、大精霊様の加護に感謝して暮らしてきたのです。ですので、これからもどうか我ら獣人族の守り手となって頂きたい」


「そ、そこまで言うなら仕方ないわね。この私に任せなさい! でもずっと地下にいるのは飽きちゃうな。できれば地上にいたい」


「王城にウンディーネ様のお部屋をご準備します。それ以外にもご希望の場所があれば、何なりとお申し付けください」


 獣人族としてはウンディーネを地下に閉じ込めたかったわけではないらしい。


 過去に彼女がほんの少しここを離れた時、水循環が全く考慮されていなかったために僅かな時間でこの国は深刻な水不足に陥った。それを反省し、ウンディーネは地下に閉じこもって常に水源管理に勤しむようになったと聞いた。


 すごく真面目で優しい精霊なんだ。


 レオル含む獣人族は、そんな彼女に恩を返したいと思っている。



「トールは?」


「俺?」


「私、少し精霊界に戻ったら、この国に帰ってくる。貴方たちは、またここに遊びに来てくれる?」


「来ますよ。ミーナの知り合いもたくさんいるみたいですし」


「うん。絶対くるニャ!」


「約束よ! 私と、水の大精霊である私と約束しなさい!!」


「約束するニャ」


 ミーナが小指を出すと、ウンディーネがそれに自分の小指を当てた。この世界でも約束の仕草は同じなんだ。


「ほら、トールも」

「はーい」


「も、もしいつまで待っても来なかったら、私が貴方にあげた加護を目掛けて飛んでいくから。そのつもりでいて」


「それって、俺がピンチになった時とかも助けに来てくれます?」


「山ひとつ水魔法で崩壊させちゃうトールがピンチになる場面なんて想像できないけど……。でも呼んでくれたら、いつでも駆けつけてあげる」


「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」


 ヤバい状況になったら水の大精霊を呼び出す約束を取り付けることができた。


 いきなり拘束されるというアクシデントがあった。そしてグラディム疏水を完成させるまでにかなり時間を消費してしまった。それでも今は、この国に立ち寄って良かったと思っている。

 

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