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第69話 獣人の王国

 

 温泉を見つけてから、のんびり移動すること3日。


「あっ! 見えてきたニャ!」


 石造りの武骨な城壁が見えてきた。

 

「あれが獣人の王国?」


「そうニャ! ウチら猫獣人や犬獣人、それから熊獣人が一緒に暮らす、この世界で唯一の獣人国、グラディムだニャ!!」


 獣人というのは基本的に種族ごとで世界各地に里を作って暮らしているらしい。


 このグラディムが例外だということ。


「えっと、人族の俺も中に入れるかな?」


「問題ないニャ。里によっては他種族の受け入れに消極的なところもあるけど、グラディムは指名手配されてるような犯罪者じゃなければ入国できるニャ」


「そうなんだ。ちなみにこれから王都に入るけど、何か注意しておくことは?」


 ラノベや漫画だと、獣人の王国では魔法が禁止されているって設定の物語もあるから一応聞いておく。


「特にないニャ。数は少ないけど、魔法を使える獣人もいるからトールみたいな魔法使いが問題視されることもないニャ」


「良かった。それじゃ行こう」



 ──***──


 問題ないって聞いていたのだが……。


「な、なんで俺、拘束されてんの?」


 俺は今、牢屋に入れられていた。


 王都に入る検問所で獣人のミーナと人族の俺は別々の場所で審査されることになったのだが、身分証としてゴールド級の冒険者証を見せながら水魔法使いであることを説明したところ、屈強な獣人の兵士に拘束されて牢まで連れて来られた。


 抵抗はしなかった。


 俺は何も悪いことをしていないのだから、何かの間違いなんだ。


 ていうか、なんで理由も教えられず拘束されなきゃいけないんだ?


 落ち着いて考えると、少しイライラしてきた。

 牢屋に入れるなら、せめて罪状は教えて欲しい。


 もしこの後、拷問されるようなことがあれば……。


 俺はそれを全力で拒否する。

 この国を敵とみなす。


 俺の杖、ハザクは取り上げられている。杖がなくても、この場から逃げることくらいはできる。呼べばハザクが飛んできてくれるし、獣人に囲まれても初動をミスらなければ何とかなるという自信があった。


 俺はこんな状況だが、ミーナは無事だろうか?


 彼女が俺を騙したとは考えない。きっとミーナも知らない何かがこの国で起きてるんだ。俺たちは偶然それに巻き込まれた。そうに違いない。



「人族、立て。獣人王様がお見えになられた」


「じゅ、じゅうじんおう?」


「さっさと立て」


 俺の牢屋を見張っていた兵士に言われた通りに立ち上がる。この見張りは犬獣人だったが、先ほどまで俺がいくら話しかけても一切反応してくれなかった。


 ぬっ、と俺のいる牢屋に影がさす。


 で、でかい……。


 見上げるほどの巨躯。金色の立派な髪の大男が、俺を鋭い眼光で見降ろしていた。


「貴様が水魔法を使えるというのは本当か?」


「……はい、使えます」


 威圧感がヤバい。


 喰われる直前って、こんな感じか。


「ほう。俺を前にして目を逸らさぬとは、只者ではないな」


 水魔法で何とかなるという自信がなければ、心が折れていただろう。そうなったら獣王を直視することなんてできなかった。


「あ、あの。俺はなんで投獄されたんですか? 俺はこの国に来たのは初めてで、ここに来る途中も悪いことなんて何もしていません!」


 コロッセオで観客を脅したけど、あの時は俺の命がかかっていたから仕方ない。奴隷商人から財産を貰ったこともあるが、それは彼の合意があった。


「予言があったのだ」


「予言?」


「この国は水に乏しい。貴重な水源を確保してくれているのは水の大精霊だ。その大精霊様が国に災いをもたらす水魔法使いがやってくると予言した翌日、貴様がやって来たというわけだ」


 な、なにそれ?


 予言なんかのせいで俺は投獄されたの!?


 水の大精霊め……。


 どんな奴か知らんけど、会ったら一言文句言わせてもらおう。


「俺はこの国に何かしようなんて思っていません!」


「貴様がどう思っているかなど関係ない。ただ貴様が何を成すかが問題なのだ。俺はそれを見極めるため、ここまでやってき──たふげっ!」


 言葉の途中で獣王が吹き飛んで行った。

 彼を吹っ飛ばしたのは。



「こぉの、バカ王!! トールを牢屋に入れるなんて、なに考えてるニャ!!」


 ミーナだった。

 

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