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第41話 水の研究者 vs 雷の魔族

 トールとミーナがグレイグやアレンにお別れを言い、ガレアスを出て3週間。魔導都市に向かっている途中で──


『トー...、トールさん! 聞こえますか!? 助けてください!!』


 世界樹から連絡が入った。トールの手に刻まれた紋章がぼんやり光っている。世界樹の声からは、かなり切迫した状況であることが伝わってきた。


「どうしたの?」


『魔族が、魔族がミスティナスに攻めてきました! エルフたちが応戦していますが、敵が強すぎます。既に多くのエルフが傷付いています。お、お願いです。私が頼れるのは、トールさんだけなんです』


「わかった。今すぐ俺だけ召喚して」


『トールさんだけ? ミーナさんはよろしいのですか?』


「ミーナは今ぐっすり寝てるんだ。彼女が起きる前に片付けるよ」


『で、ですが敵は魔族なのですよ!? しかもその魔族は──』


「いいからいいから。早く召喚して。ミーナが起きちゃう」


『……承知しました』


 トールの身体が輝きだした。



 ──***──


「おぉ。ほんとに召喚できるんだ」


 世界樹に召喚されたトールは、薄暗い森の中にいた。頭上には巨大な世界樹の枝が空を覆っているのが見える。間違いなくここは、エルフの王国ミスティナスだった。


『トールさん! 魔族から少し離れた場所に召喚しましたが、注意してください。敵は強いエルフを優先して狙っています。きっと魔力量の多寡を知る術があるのです。トールさんが来たと分かれば』


「……うん。そうみたいだね」


 トールの前に黒い(もや)が集まったかと思うと、側頭部に大きな角を生やした男が現れた。


『そ、そんな、もう!?』


 真っ黒な目、瞳は燃えるような赤色。トールはその魔族と対峙しているだけで精神がゴリゴリ削られるような感覚に陥っていた。


 それでトールは、この男が間違いなくヒトの敵であることを知る。


「いきなり魔力量が多い奴が現れたから来てみたが……。貴様、人族か? 人族がどうやってこれほどの魔力を」


 聞くだけで気分が悪くなる声だった。


「教えるつもりはないよ」


 トールは魔族に魔法が有効であることを把握していた。


 魔法とは、もともと魔族が使っていた力。魔族は圧倒的な力でこちらの世界の人々を脅かした。そんな魔族の力を取り込み、ヒトは魔族に抗う力を得た。長い年月を経て、ヒトは魔法を手に入れたのだという。


 自身の魔法は魔族にも通用する。

 そう信じて魔法を発動する。


水よ(マイン)舞え(リクォード)


 トールは持参した魔力含有の水を周囲に展開して、どんな状況にも対応できるようにした。女神が魔族を倒すために、わざわざ異世界から勇者を呼ぶのだ。それくらい魔族が強いということ。彼は油断などしない。


「貴様、水魔法を使うのか。しかもそれだけの水量を……。面白いな。エルフで遊ぶより、こちらに来て正解だった」


 魔族が気持ち悪い笑みを浮かべた。


「貴様は強い魔法使いなのだろう。これまで敗北というものを知らぬほどの。己の魔法を、過信しているのではないか?」


 魔族が何を言いたいのか良く分からず、トールが疑問を抱く。


「それだけの水量を自在に操れるほどの魔法使い。俺でなければ苦戦しただろう。しかし、相性が悪かったな!」


 魔族のオーラが膨れ上がった。

 膨大な魔力が放出される。


『魔法を使わせてはダメです! トール、そいつは──』


 世界樹が警告するが、遅かった。


雷よ(ラーム)貫け(クフィツァ)


 魔族がトールに向けて掲げた手から電撃が放たれる。


 眩い閃光が辺りを包んだ。



『そ、そんな。トールさん!!』

 

「くくっ、くふははははっ! 俺が雷魔法を使うと知らなかったか? どうせ世界樹がエルフを救うために呼び寄せたののだろうが……。無駄に有能な魔法使いをひとり死なせただけだったな」





「敵が雷魔法を使うって分かってるなら、真っ先に伝えるべき情報じゃない?」


 トールは無事だった。


 しかし彼は世界樹に対して少し怒っていた。


 雷魔法は水魔法使いにとって天敵。そんなこと分かり切っている。トールでなければ今の一撃で勝敗が決していただろう。



「貴様、世界樹と会話しているのか? ……いや。そんなことより、どうやって俺の魔法を?」


 トールが魔法を躱したようには思えない。そもそも雷魔法は最速の攻撃魔法だ。普通の人族に避けられるはずがない。魔法で防ぐ以外に方法はないのだ。


「そんなの、水魔法で防いだに決まってるでしょ」


「は? み、水魔法で、俺の魔法を? 俺の雷魔法を防いだというのか!?」


「そう。水が雷を通さないって、知らないの?」


 そんなの当然だと言うようにトールが話す。しかしこの世界の常識はそうではなかった。川や海などの水辺で雷魔法を使えば、その水に触れている者全てが命を落とす。水は雷魔法を通すというのが常識だった。


「馬鹿な! そんなことありえない!!」


「超純水の電気抵抗は18.24メガオーム。対して雷の電圧は1億ボルトって言われてる。もし水に触れていれば、感電死しないようにするには1メートルくらいの水の壁が必要なんだけど……。そんな頭の悪い防御しないよ」


 トールは自身の最大の敵になるのが雷魔法使いであることを想定していた。だから常にその対策を施した水魔法を真っ先に展開するようにしている。


 雷魔法が本物の雷同様の1億ボルトを発生させられるのかは分からないが、それを実現できているものとして対策を考えていたのだ。


 純度を高めた水で雷撃の貫通を防ぐと同時に、水の中に一部不純物を混ぜ込んで電気が通りやすい道を作ってやる。そうすることでトールに身体に電流が通るのを確実に防いでいる。



「ふ、ふざけるな! 俺の雷魔法は最強だ!! 人族の、それも水魔法使いなんぞに防げるわけがない!! 雷よ(ラーム)、──」


 魔族が再び魔法を放とうとする。

 しかしそれは発動しなかった。


 詠唱しようと開けた口に、トールの水が飛び込んだのだ。小さな水の塊が気道を塞ぎ、声を発せられない。呼吸もできていない様子で、魔族は苦しそうに地面をのたうち回る。


「魔族も魔法の発動には詠唱が必要なんだ。あと呼吸も。これは良い情報だな」


 トールがこの場に来て使用したのは “水よ(マイン)舞え(リクォード)” のひとつのみ。魔力を混ぜ込んだ水を自分の意志通りに動かすだけの魔法で、彼は魔族を圧倒してしまった。


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