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第38話 弟子


「トールさん。こ、こうですか?」

「うん。良い感じ」


 俺は今、奴隷だった少年のアレンに水魔法の使い方を教えている。魔法を使う才能を持つのは人族の場合、100人にひとり。奴隷にされていた子どもたちは50人近くいたから、もしかしてと思って基礎魔法を試してもらったところ奇跡が起きた。


 アレンが水魔法の適性を持っていたんだ。


 大人たちは全員ダメだったけど、俺は同じ水魔法使いがそばにいてくれて嬉しくなった。ちなみに彼は魔法を使おうと考えたこともなかったらしい。


「さぁ、水を集める空間のイメージはできたね」


「はい。みんなのおかげで、大丈夫です」


 水を集める空間をイメージしやすいように、たくさんの子どもたちが木の枝を手にもって大きな四角い枠を作ってくれている。


 アレンは少年たちが入れられていた牢屋の中で、恐怖や不安で泣く子たちに声をかけ慰めていた。彼のおかげで不安に押しつぶされそうになっていた子どもたちは持ちこたえた。そんな勇敢で優しい彼に魔法の才能があったんだ。勇気を貰ったお返しに、子どもたちはみんなアレンに協力的だった。


「いきます! 水よ(マイン)!」


 アレンが突き出した手のひらに、コップ一杯分くらいの水が出現した。


「あっ! で、できた!! トールさん! できました!!!」


 すごく良い笑顔のアレン。


「やったね、アレン!」

「すっごーい!」

「「「アレンくん、おめでとう!!」」」


 彼に協力した子どもたちも飛び跳ねてはしゃいでいる。


「みんな、ありがと!」


「いいね。ちなみに体調はどう? 疲れてない?」


「はい! 全然だいじょ…う……あ、あれ?」


「アレン!」


 急にふらついて、アレンが倒れそうになった。慌てて支え、地面にゆっくり寝かせてあげる。


「すみ、ません。なんだか、急に、身体に力が…」


「無理して喋らなくていい。ミーナ! ちょっとこっちに来てくれ!!」


 少し離れた場所で周囲の警戒をしていたミーナを呼ぶ。


「はいニャ」


「魔法を使ったらアレンが倒れたんだ。なんでか分かる?」


「……ふむふむ。これは、魔力切れの症状っぽいニャ」


「魔力切れ?」


「魔力量は魔法をたくさん使ったり、大人になるにつれて増えるって言われてるニャ。だから多分、魔法を使ったことがなかったアレンの魔力が少なくて、一度の魔法行使で疲労が一気に来ちゃったんだと思うニャ」


「魔力切れで死んだりとかは?」


「それは無いから安心するニャ。あってもせいぜい気絶するくらいニャ。ただ、戦闘中に魔力切れを起こして気絶すれば普通に殺されるから、そう言う意味では魔力切れで死ぬこともあるニャ」


 ほっとして胸をなでおろす。しかし、そう言ったリスクを知らないままアレンに魔法を使わせてしまったことを少し後悔した。


「アレン、ごめんな。俺が無知だった」


「大丈夫ですよ。だ、だって俺、トールさんの弟子に、なるんですから」


 魔法が使えると分かった時にもアレンは喜んでいたが、彼は適性が俺と同じ水魔法だということを特に喜んでくれた。そして俺の弟子になると言い出した。


 実は俺も彼に水魔法を使えるようになって欲しい理由があった。それで少し焦って魔法を使う訓練を始めたんだ。



「ミーナ。俺は一晩寝れば魔力が全回復するんだけど、それってこの世界では普通かな? 異世界人の俺基準で考えるとダメな気がするんだけど」


「魔力の回復速度は種族によっても違うし、個体差もあるニャ。人族は比較的回復が早い種族ニャ。たぶんアレンも、半日くらいすれば歩けるまでにはなるニャ。ちなみに魔力回復が一番早いのはエルフで、最も遅いのはドワーフだニャ」


 人族であるアレンはそこそこ回復が早いらしい。


「魔力を使い切るのは気絶したりして結構キツイ修行ニャ。でもそれをすると、魔力量が増えたり、回復速度が上がるって言われてるニャ」


 おい、それは今のアレンに言っちゃダメだ。仲間想いの彼は、早く俺みたいな魔法使いになろうと無理をするだろう。まだまだ小さな彼にそこまで頑張ってもらいたくはない。


 俺の計画には、少しでも水魔法が扱えることを示せれば十分なんだ。


「アレン、無理しなくて良いからな」

「はい。わかりました」


 絶対分かってない。

 

 苦しそうな表情だが、彼の目はギラギラと輝いていた。自分ができることを見つけ、楽しくて夢中になっている時の子どもの目だ。


 こんな目をしてる子に何を言っても無駄だろうな。俺が禁止しても、アレンはこっそり魔法の訓練をするだろう。


「ひとつだけ約束してほしい。魔法の訓練はしても良いけど、絶対にひとりでやらないこと。これだけは守って」


「そうニャ。初日から何回も魔法を使いまくったトールが異常なだけで、魔法の訓練は普通、何人かサポートがいる中でゆっくり時間をかけてやって良くものニャ。少なくとも獣人の里では、貴重な魔法使いを死なせないようにそうしてきたニャ」


「わ、わかりました。師匠、約束します」


 アレンは本当に良い子だな。


 彼になら俺の魔法の全てを教えても良いと思う。だけどアレンが俺と同じような魔法を使える可能性は低い。なんでそう思うのかは上手く言葉にできないが、魔力の波長が少し違うから──って感じかな。


 水魔法に適性があっても、それを完璧に使いこなせるかどうかはまた別の要素がありそうだ。これまでに自分で色んな魔法を創ってみて、そして今日アレンの魔力に触れてそれを確信した。


 俺と同じ魔法を同じ威力で使えなくても、アレンにはアレンに適した魔法があるかもしれない。できれば自分でそれを見つけて欲しい。



「し、師匠。すみません…。おれ、もう……」


「疲れたよね。ゆっくり休んで」


 アレンは俺の腕の中で眠ってしまった。ちなみに師匠って呼ばれるのはちょっと嬉しい。もっと頼ってほしくなる。


 俺がアレンを静かに抱き上げると、元奴隷の少年少女たちはできるだけ音を立てないように動き、彼を寝せる場所を準備してくれた。これだけ仲間に慕われているんだ。こんな良い子たちが平和な生活を送れる最低限の環境くらいは、力を手に入れた大人が準備してあげなくちゃな。


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