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勇者召喚に巻き込まれた水の研究者、水魔法を極めて異世界を無双する  作者: 木塚 麻弥
第1章 水の研究者、異世界へ

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第20話 水蒸気爆発魔法


「な、なにかニャ? これ、めっちゃ冷たいニャ!」


 翌朝、俺が魔法で凍らせた氷の塊を手にもってミーナが驚いていた。奴隷になる前、彼女が暮らしていた場所は一年を通して温暖な気候で、氷や雪などは見たことがないようだ。


「水を冷やすとできる氷って物体だよ。俺の魔法で作った」


「氷? これが氷かニャ。ひんやりしてて気持ちいいニャ」


 ミーナは氷をかなり気に入ったようで、光に透かして見たり嘗めたりしている。


「本で読んだり、話で聞いたりしたことはあるけど実物を見るのは初めてニャ。これも水魔法の応用で作ったのかニャ?」


「そう。水分子の動きを止めてやることで強制的に氷にしたんだ」


「みずぶんし?」


 俺のイメージ通りに水分子が動きを緩やかにしたことで水が凍りになったのだから、この世界の物体も原子や分子で出来ているのは間違いないだろう。


 ミーナは獣人だが、魔法の基礎を知っていた。人族の技術に関する知識もそれなりにあるようだ。そんな彼女が知らないのだから、この世界では物体が原子や分子というものすごく小さな粒子で構成されていることは一般的には知られていないと考えてよいだろう。これは俺にとって大きなアドバンテージになる。


 水魔法を使う上で大事なのは、水操作するための詠唱に使う動詞や形容詞を知っているかどうか。そして水を操作する際のイメージだ。


 水を塊として動かす場合は見た目通りのイメージをすれば良い。しかし魔力を混ぜた水の性質を変えようとした時、水が酸素と水素の分子で構成されていると認識し、その動きをイメージする必要がある。これができれば水を凍りにすることも、逆に高温の蒸気にしてしまうことも可能。


「マイン レィーツ」


「えっ、トールの手から煙が出てるニャ」


「触るなよ。かなり熱いから」


 ミーナが蒸気に触ろうとしたので止めておく。


 氷にした時とは逆で、水分子の動きを強引に加速させて温度をあげたんだ。俺の手のひらから数センチ離した場所に少量の水を集めて蒸気にしたのだが、普通に熱い。これは工夫すれば強力な攻撃魔法として使えそうだ。


 水は蒸気になる時、その体積が約1700倍に膨張する。水が高温の物体に触れて急速に加熱されると水蒸気爆発を起こすんだ。水蒸気爆発には界面接触型と全体反応型があるが、俺が水を蒸気にして起こるのは全体反応型。


 高温物体など用意しなくても良い。準備した水の全体を直接過熱し、一気に蒸発させることで強制的に水蒸気爆発を起こさせることが可能だと思う。


 例えば、500㎖のペットボトルに入った水を一瞬で水蒸気爆発させたとしよう。俺は容器を必要とせず空中に水を保持できるから、ボトルの強度は考えない。水500㎖の物質量は27.7molで、水蒸気爆発の威力は10kJ/mol程度。そこから水蒸気爆発させた時の威力は27万Jだと計算できる。


「TNT火薬換算だと……だいたい64gか。結構しょぼいな」


 改めて計算してみると、水蒸気爆発の威力は思いのほか弱いってことが分かった。まあ、爆発させる水の量にも依存するし、こんなもんだろう。時には原子炉の分厚いコンクリートを破裂させるほどの威力になるんだ。いつか使える時が来るかも。


 あと頭の中で頑張って計算してるだけだから、誤差はあるかもしれない。電卓とかあるわけないのだからどうしようもない。あぁ、パソコンが欲しい。



「なんかトールって、たまによくわかんないことをひとりで呟くようになるニャ」


「ごめん。色々と計算してたんだ。俺が使う魔法の威力をミスって、ミーナをケガさせたくないからな」


 魔法で自滅するとか笑えない。先ほど水を加熱して蒸気を発生させた時に俺の手も熱かったことからして、この世界では自分の魔法で自分がダメージを負うことがあるんだ。


 事前に威力を計算しておかなければ、試しに使った魔法一発で死んでしまうことだって考えられる。


 特に俺はこの世界でほとんど知見のない水魔法を使っていこうとしているので、過去の文献などを頼ることは今後もできないだろう。


「トールは賢いニャ。それにウチのことも考えてくれてて偉いニャ」


 ミーナが俺の頭を撫でてくれる。こうして俺の頑張りを認めてくれる仲間がそばにいることが嬉しい。


「俺、これからも頑張るよ」


「うん。でもそれより、こっちの冷たいのもっと出してニャ。冷たくておいしーニャ!」


 俺が初めにつくった氷は全て舐めきってしまったようだ。


 鉄欠乏性貧血だと氷をかじりたくなるって言うから、もしかしてミーナも? 氷食症は若い女性がなりやすいらしいから貧血って決めつけるのは良くないが……。


 今後は彼女の食生活にも気を配ろう。


 とりあえず今はお望みの物を出してやるか。


「はいはい。この辺りの空気は澄んでて集めた水が綺麗だから、それから作った氷も美味しいのかもな」


「わーい! トール、ありがとニャ!!」


 おいしそうに氷を舐めるミーナを見て、もしかしたら獣人相手に氷で一儲けできるのではないかと考え始めた。


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