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蛍火(けいか)<辺境伯の息子と異世界転移者>  作者: 柴崎りょう
1章:ルーク編(辺境伯の息子)
9/33

8-コロシアムの惨状そして、

異世界語録

「龍神」・・・唯一神

「龍神石」・・・龍神の与える幸福(天福)をもたらすための触媒

「龍石」・・・龍神石の略称

「神格者」・・・(現在では)龍神石に干渉できる者

「龍造人形」・・・神格者の手によって造られた人工物

「収録」・・・龍造人形に意図した内容をインプットする行為


8部 コロシアムの惨状そして、


困惑気味な戦士が旗をもった審判に向かって叫んだ。

「対人戦ではないのか?」


戦士は雌雄決する戦いであれその者の命までは奪ってはならない。それはコロシアムの堅い掟であり、尊厳が守られるためには必要不可欠なものであった。

しかし・・


審判は聞こえていたはずの質問には何も答えず、代わりにアナウンスがコロシアム中に響きわたる。

「レディースアンドジェントルメンアンドーその他の皆さん!これからお見せするショーは!!さる高貴な人から賜ったこの素晴らしい龍造人形が魅せるドキドキ危機一髪芸です!ここにいる雄々しい勇敢な戦士たちが蹂躙される様・・・おっと間違えた!立ち向かっていく様をどうか応援してあげてください!」


「おおおー!」「ガハハハッ」「いいぞー!」

アナウンスが終わると、どっと歓声が湧き起こった。


戦士たちが混乱し騒然としている中、ロックは1階桟敷席(上級の観客席)に座っているグレン殿下を虎視し、泰然とした態度で口を開いた。

「ルーク・S・バロバロッサ・・・次期辺境伯、お前にはこの惨状を知っててほしんだ。ルーク、お前は俺が必ず守る。だからその目でしっかり見ててくれ」


「ロック!今何か言ったか?すまない聞きとれなかった。光に眼がやられてしまって涙も頭痛も止まらないんだ」

フリージアはルークの背を優しくさすりながら、ロックを睨みつけた。


「ロックベル、あなたは全て知っていてルーク様を巻き込んだの?」


 ♢♦︎♢


ルークが地上の光に慣れた頃には鉄格子の中にいた20体を超える龍造人形達はすでに自由の身となり、じりじりと迫って来ていた。ロックはルークを庇うように前に出ると短剣を握りしめて彼らの動向を注視している。


一方のルークはあれこれ思考をめぐらせていた。

(自分の正体を明かせばこの人たちを救えるか?・・・いやだめだ。戦わずして降伏など家名を汚すことになる、それだけは絶対にだめだ。ノーマル(龍神の力に干渉できない一般人)のまま戦えるか?それも無理だ・・・数が多すぎる、それに加えて・・・高い敏捷性バネ俊敏性スピードを併せ持つシェパード(龍造犬)、鈍重だがしんねりとした押しの強さがあるゴーレム(龍造岩)、飛翔し鉤爪で急所を引き裂くワイバーン(龍造竜)この戦闘特化の三種がいる状況勝てるはずない)

「これは仕方がないことなんだ」

ルークは隠し持っていた龍石の指輪をはめた。


今にも襲ってくるのではないかと戦士たちは身構えていたが、鈍い琥珀色の瞳を我々に向けじっと見つめているだけで一定の距離を保ち続けている。


皆が額に汗を浮かばせる中、フリージアのみ五感を研ぎ澄まし落ち着き払っていた。

「それにしても、この龍造人形たち・・・泥臭いですわね。私のガルちゃんからはこんなひどい匂い一度も漂ったことありませんのに」


「泥臭い?」

極限の緊張状態が続き嗅覚が麻痺してたのか、フリージアが言ったことで初めてルークはこの独特な匂いを放つ龍石の正体がわかった。


「そうか・・・こいつは”ビート”だ!」


ビートとは又の名を草泥龍石と呼び、北方にあるニヴァース地方でのみ採取される。ビートは龍素含有量が5%未満であることから、龍化があまり進んでいない劣悪な龍石と認識されている。低質であることから市場では安値で取引されているため、フリージアには馴染みが薄いのだ。


「ビート?それがなんだって言うんだ。」

地獄で神に会ったように不幸中の幸いと歓喜するルークに対し、ロックは急ぎ説明を求めた。


「低質であればあるほど龍造人形に収録できる内容は限られてくる、ビートはその中でもトップオブトップに低質なんだよ」

(だが・・・ビートを用いた龍造人形とは聞いたことがない。収録した奴はおそらく凄腕の収録師なんだろう・・・もし龍造人形の全てが異なる内容を収録されていれば困難を極める)

それでも、とルークは続ける。

(龍造人形に生涯をかける収録師であれば必ず自分が造ったものに誇りとしての”証”を残す。だが、この龍造人形達には”証”が見られない。僕だって収録師の端くれだポイントは押さえてある、それでも見つからないとすれば・・・この龍造人形を造った収録師はおそらく己を恥じている。凄腕の収録師が造った設計図をマニュアル化し大量製造した同じ収録物である可能性が高い)


「一体でもパターンが掴めたらこの指輪で無力化できる」


 ♦︎♢♦︎


1階桟敷席(上級の観客席)にて、

冷たい目の色で蔑むように闘技場を眺めているロゴス帝国第一王子グレン・C・ワイスバッハは隣にいる従者にも同様の冷徹な目を向け口を開いた。

「寒地に捨てるほどある安物ビートが人形の原料として利用できるとはな」

「ははっ」従者は座りながらではあるが深々と頭を下げた。


「ときにこの人形を造った者の名を聞いていなかったな」


この何気ない質問に対し、従者は肩を跳ね上がらせおどおどした声になった。

「それが・・・申し訳ございません、大変名誉あることなのですが・・・ビートを用いた龍造人形の大量製造に従事する条件として名を伏せることを要求してきたのです・・・もちろんそのような不道徳な行為とんでもないことでございます。

しかし、頑として首を縦に振らず・・・その時間がありませんでしたので・・・・それで・・・」

従者は震える手を無意識に自分の喉仏に触れると、ハッとした顔でグレン殿下に視線を向けた。情けない顔をした従者は慌てて手を膝に戻す。


(チッ、こいつ”命の誓約”を結ばされたな)

”命の誓約”、神格者と呼ばれる龍神の血をその身に宿す人の皮を被った化け物が自己保身のため頻繁に利用する手口だ。奴らは約束を守らせるため喉仏に印を刻み誓約を結ばさせる、約束を破れば印が浮かび上がり自らの手で自身の首を絞めることになる。


「ふん、その収録師の居場所はわかっておるのだな?」

「はい!もちろんでございます。一日中監視させております」

「ならばどうでもいい」


(さて…人形の性能を確かめさせてもらう。端金欲しさに群がってきた愚か者どもお前たちの墓には花ではなく、安酒を浴びるほど飲めるぐらいの金を手向けてやる)

「本望だろう」

グレンは冷笑を浮かべ肘をついた。


 ♦︎♢♦︎


未だ襲ってこない龍造人形に痺れを切らしたひとりの戦士が息を荒げながらシェパード(龍造犬)に斬りかかる。

「たかが犬ごとき恐れる必要ねぇ!たたっ斬ってやる」

シェパードは高く飛び跳ね上がると瞬時に尾に収めてある刃を立てて、斬りかかった戦士の腕をひとたちで切り裂いた。


戦士の悲鳴、どっと沸き起こる歓声の渦、戦意を失い混乱した幾人かの戦士たちは逃げ場のない逃走劇を始める。

今まで襲ってこなかった龍造人形が突然目を赤く光らせ逃げ出した戦士たちを追いかけ始めた。


収録:逃げた者を殺せ


評価や感想お待ちしております!


これからもよろしくお願いいたします。

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