表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛍火(けいか)<辺境伯の息子と異世界転移者>  作者: 柴崎りょう
1章:ルーク編(辺境伯の息子)
8/33

7-コロシアム『円形闘技場』

 異世界語録

「龍神」・・・唯一神

「龍神石」・・・龍神の与える幸福(天福)をもたらすための触媒

「龍石」・・・龍神石の略称

「神格者」・・・(現在では)龍神石に干渉できる者

「龍造人形」・・・神格者の手によって造られた人工物

「収録」・・・龍造人形に意図した内容をインプットする行為



第7部 コロシアム『円形闘技場』


ルークは息を切らしながら大瀑布の門をくぐる___

 

 ♦︎♢♦︎


コロシアム『円形闘技場』の入場ゲートには早くから良い観戦席を確保するために下級騎士や平民の長蛇の列ができており、三大娯楽施設の一つと言われるだけあって注目度の高さを伺い知れる。


下級騎士とは主に門番や警備、平民同士のいざこざの解決に奔走する治安兵であり、下級貴族や商人の出自が多い。フリージアの目指す騎士とは上流貴族から構成される華王騎士であり、渡来する悪漢蛮族どもを討ち果たす最高の栄誉を手にできる唯一の騎士団なのである。そのため、下級騎士も一応騎士と呼ばれてはいるが、下級と華王では天と地ほどの大きな隔たりが存在する。

ルークの兄たちも現在、帝都で華王騎士団の徽章 (きしょう)を手にいれるために死力を注いでいる。


「フリージアお嬢様・・・こっちです」

本道から少し離れた脇道にある大木の前で、愛想笑いを浮かべたそばかすだらけの少女が自分より大きな袋を肩から担いでフリージアの到着を待っていた。

「アン!遅くなってごめんね、待っててくれてありがとう」

フリージアは従者に抱きつきながら感謝したが、従者のアンは眉を寄せながら心配そうにフリージアを見つめている。

「本当の本当に旦那様にはバレないのでしょうか?わたしとっても不安なんです・・・」

フリージは何度も「大丈夫よ」と説明したがアンは納得のいかない様子でなかなか袋を渡そうとしない。


その様子を見ていたロックはルークに目配せをし、ため息をつきながらフリージアとアンの間に入った。

ロックは少女に近寄って腰をかがめ、俯いている少女と目線が合うまで待つと、優しい声色で話しかける。

「大丈夫だ、君の心配は杞憂に終わるよ。重かっただろ? 助かったよ」

頬を赤らめた少女の頭を撫でながら担いでいた袋をさりげなく奪い取ると、「ありがとう」と言い残し、地下にある戦士用受付場へ3人分の防具を持ってひとりでに降りていった。


「待ちなさい!」

呆気にとられポカンとした顔つきからロックがアンにした”振る舞い”を理解したフリージアは眉を吊り上げ怒りの形相となってロックを追い階段を降りていったが、慌てて再度階段を上り地上にいる従者のアンに微笑んだ。

「アン、本当に大丈夫だからあなたは先に帰ってて!帰ったら美味しい焼き菓子をたくさん食べさせてあげるからね!大好きよ」

言い終えるとすぐにまた怒りの形相に戻り階段を音を立てて降りていった。


ルークはアンに「ここまで本当にありがとう」と感謝を伝えると、フリージアの従者は戸惑いながらも、

「フリージアお嬢様のことよろしくお願いいたします」と頭を深々と下げた。


 ♦︎♢♦︎


蝋燭の火で照らされた階段をルークは慎重に降りていくと、案の定・・・階下で喧嘩しているふたりの仲裁を引き受けることとなり、強引にルークは彼らを仲直りさせた。

(登録までの時間がもうギリギリなんだぞ・・・)


焦るルークは辺りを見渡して、『戦士受付案内↓』と書かれた看板に寄りかかっている中年の男に声をかけた。

「受付場はここですか?」

真っ赤になった顔をにんまりと歪ませよろよろと立ち上がる。

男は樽のように背が低く横幅の広い体型で瓢箪(ひょうたん)に入った米酒を呑みながら3人を品定めするかのように目を上下させ、唇を舐めて言った。

「オレぇが()()()だ、ダハハハハッ」


ルークは男の不快なジョークに対し愛想笑いを浮かべ、案内を辛抱強く待った。

「問題ねぇな、おめえら3人とも出場を許可する。あの部屋で着替えてこい」

男は暖簾が掛けられてある部屋に指を向けて、「右が男で左が女だ」と説明した。


先ほど、喧嘩の仲裁という名の叱責を受けたばかりのフリージアはルークに再度怒られることを恐れてはいたが、チラリとルークを見て男に尋ねた。

「その・・・三つの品格の審査はどちらでなさいますか?」


「ひんかくぅ?ダハハハハッ、そんなもんねぇでよ。さてはおめえらお上りさんだな?しょうがないしっかり説明してやらないとな、防具はその袋の中に入ってるのか?武具はこっちで用意したものでしか戦えねぇからよ気をつけな」

ロックは袋に入っている防具を見せると男はうんうんと頷いた。


「品格のテストがないですって?でも・・・品格の審査があるとお父様は・・・仰ってたわ。ルーク様、ロックベル信じてください。私、貴方の前では嘘なんてつきません。必ず立派な騎士になるんだから・・・」

フリージアはルークに向かって何度も謝った。


フリージアの話を聞いていたのか、酒で酔い潰れて聞いていなかったのか、酒臭い男の態度からはわからなかったが、フリージアの崇高な気持ちを踏み躙る発言を繰り返す。

「嬢ちゃん、あんたはべっぴんさんだからそんな仮面つけずに出た方がいいでよ」

フリージアの体を上から下まで舐めるように凝視しながらにんまりとほくそ笑んだ。


屈辱に耐えかねたフリージアは握り拳を作り男に殴りかかろうとしていたが、素早くロックが制すと、いつものカラッとした声で男に話しかけた。

「おっさん、出番まであとどのくらいになりそうなんだ?」


男はロックの質問には答えず、ロックの顔を見て手を叩いた。

「おめえさんもたいそう男前じゃねぇか!仮面で隠すなんてもったいねぇ、金持ちの誰かが見初めてくれるかもしれねってのに、もったいねぇ。これは親切心で言ってんだぜ?顔出しがダメならせめて太腿を出した方がいい、今変態貴族どものブームになってんだ」


ロックはふっと笑うと、男に言った。

「忠告ありがとな、でも俺たちには必要ないんだ」

男は暖簾が掛けられた部屋を再び指すと米酒を呑みながら歌うように話す。

「勝利の女神さんが〜おめえらに微笑むように〜俺も祈ってるぜ〜」


暖簾が掛けてある部屋に向かいながらフリージアはロックに尋ねた。

「勝利のめがみ?・・・あの男は何を言ってるのでしょう?ロックベル、貴方になら意味がわかるのかしら?」

ロックは手を広げて肩をすくめた。

「さあな、酔っ払いの話は受け流すことにしてんだ。フリージアさんあんたもそうしたほうがいい」

「ええ、また一つ学びました。その・・・感謝しますわ」

フリージアは耳を赤くさせながらそそくさとふたりを追い越し、暖簾をくぐった。


「おーい、防具は俺が持ってんだぞ!」

フリージアはにんまりと笑ったロックの脇腹をこずき、自分の防具と仮面を袋から急いで取り出している最中、ルークと一瞬だけ目があい自分の今の慌てふためく姿を見られて恥ずかしかったのだろう、何もない場所で躓きながらも部屋に滑り込んでいった。


 ♦︎♢♦︎


部屋にはルークとロックを除き誰もいなかった。

ふたりは急いで鎧を纏い仮面をつけると『戦士待機場→』と書かれた案内に従って進む。


辿り着くとそこは100人ぐらいであれば悠々と収容できるほどの大きな円形のホールになっていた。

ここで戦士たちは待機しており、各々がこの張り詰めた空気の中で剣の素振りをしたり、奮起させるため叫んだり、目を瞑って心の平穏を保つといった皆が今自分ができることを祈るように何度も繰り返していた。


ルークもこの空気に気圧されて鼓動が速くなり、息苦しくなっていた。(こんなとこ来るんじゃなかった・・・)

プライベートルームで幸せそうに眠っているルキをわき目に収録に関する蔵書を読んでいる自分の幸福な姿を想像し、現状とのギャップで絶望的な気分に浸りきっている。


突然、脇腹に痛みを感じその方を見ると次は頬を両手でつねられた。

「顔がどんどん青くなってるが、大丈夫か?」

ロックは「深呼吸しろ」と付け足し、腰にかけてあったひょうたんをルークの口に無理やり押し付けた。

咳き込んだルークは「このヤロー!」とロックの首に腕を回し投降を促す。

「参ったって言えば許してやらんこともないぞ」


ふたりが笑いながら戯れあっている姿をフリージアは冷めた目で見ていた。

(まさか、ルーク様まで・・・なぜ今戯れあってるのかしら?)

「ルーク様!ロックベル!こっちに武具がありますわよ!」


ルークはバツの悪そうな顔をし、ロックは腹を抱えて笑いながらフリージアの元へやってきた。

「残念ながら、槍は全て貸し出されてしまったようです、仕方がないですわね・・・」

フリージアは自分の等身以上ある大きな斧をため息をつきながら平然と持ち上げ、素振りを始めた。

「怪力女め、」

ロックはルークに聞こえるほどの小さな声で呟くと二刀の短剣を選び刃こぼれがないか入念にチェックする。

ルークは馴染み深い刀剣を見つけようと探し回っていたが、アナウンスが入った。

「戦士ども!中央に敷かれた銅板まで集まれ!」

皆が中央に集まっていく中、ルークはパニックになりながらも急いで適当に選んだ刀剣を持ち上げロックたちがいる場所まで走った。


 ♦︎♢♦︎


地上へ通ずる門が開かれると、戦士を乗せた銅板が緩やかに上がり始めた。

ルークは地上の鋭い光が眼に入りすぎて思わず目を背ける。


コロシアムの観戦席から戦士に対し、下品で相手を蔑んだ甲高い笑いが周囲を覆っている。

「おい!お前に全額かけてるんだ死ぬんじゃねえぞ!」

「まあ!あの子の容姿どタイプだわ!お父様!あれが欲しいです」

「おい見ろよ、蛇に睨まれた蛙のように恐怖で立ちすくんでるぞ!あいつ絶対死ぬぜ、賭けてやってもいい」


龍造犬シェパード、龍造岩ゴーレム、龍造竜ワイバーン 龍造人形がこちらへ無機質な顔を向けて、檻が開くその瞬間を待っている・・・・



「ルーク・S・バロバロッサ・・・次期辺境伯、お前にはこの惨状を知っててほしんだ」





お待たせしてしまい申し訳ございません。

コロシアムまでの道のりを省くことも考えたのですが、世界観や登場人物の深掘りを優先しないとやっぱりダメだろと思い、ここまで時間をかけてしまいました。


評価や感想お待ちしております!

これからもよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ