3-龍造犬"シェパード"
異世界語録
「龍神」→唯一神
「龍神石」→龍神の血を継承するものが干渉することで天福を引き起こすことができる
「龍石」→龍神石の略称
「神格者」→(現在では)龍神石に干渉できる人
第3部
「フリージア様!王室御用達の高級龍石で造られた”シェパード(龍造犬)”を飼育されているお噂は本当なのですか?」
ワインレッドの髪をたなびかせれながら周りを囲む生徒たちに向かってハキハキとした態度で答える。
「ええ、まさにその通りですわ! 私の屋敷に来てから三日になります。”収録”にかかる労力は多少ありますが、ほら!こんな言葉があるでしょう?手間がかかる犬ほど愛らしいと!」
フリージアは犬を愛撫するように何もない空間を撫でると「ふぅー」と吐息を漏らす。
「玉のように美しくて、、、本当はずっとそばにいたいぐらいなのです。が、しかし!家名に恥じぬよう剣の技を磨くことが私の使命!ですので離れることは仕方がありませんの」
無念そうに肩を落とすフリージアを周りにいた生徒のひとりが「おかわいそうに・・・」と彼女の手を握りしめ、明るい調子で語りかける。
「私の拙宅にも”シェパード(龍造犬)”を3頭飼育していますが、どれも並品質です。しかし、フリージア様の”シェパード(龍造犬)”は格が違います!あなたがどれだけ大事に思っているか・・・お気持ち本当に理解できますわ」
フリージアは「ありがとう」と弱々しく微笑む。彼女は後方にいるルークを探し、姿を見つけると、気品に満ちたキリッとした動作で立ち上がりお辞儀をする。
「ルーク様!国王陛下から下賜された”シェパード(龍造犬)”がいましたよね、貴方様のお家では”収録”はどうされていますの?私の”シェパード”は番犬としての役割であれば十二分に活躍できるのですが、どうしても甘えるなどの感情の機微が苦手で・・・もちろん”収録師”に依頼してみたのですが、”収録師”が”収録”可能なものはあくまで番犬として屋敷の警備のみとおっしゃるのです。せっかく良い龍石を使っているのですから色々と”収録”してみたいのに・・・何か良い方法はありませんか?」
フリージアの質問に対し、周囲の視線がいっせいにルークに集まったので仕方がなく話すといった態度を取り繕いながら答える。
「”収録”には複数のコード入力が必要で低品質の龍石だと”収録”に耐えきれず壊れてしまうのです。シロウ(ト)・・おほん・・・高級品質の龍石は滅多にお目にかかれるものではないので、警備以外の”収録”依頼はあまりないのではないかと思います。加えて、甘えるといった複雑な感情機微の動作法ともなればその龍石の状態に合わせて柔軟に対応する必要があるので難易度が高いんです」
ルークは唾を飲み込み魂胆が察せられないように慎重に言葉を選ぶ。
「もしよければ僕が”収録”しましょうか?僕のルキ・・・”シェパード”も”収録”は自分でやっているので甘える動作であればできると思いますよ。手の空いた時にでもフリージアさんのお屋敷に伺いましょうか?」
できるだけ興味なさげに淡々と話すように心がけながら
(お願いだ!僕に”収録”させてくれ!!)と、心の中で強く願った。
「大変ありがたいお申し出、ですがわざわざ出向いていただくのはルーク様の好意に甘えすぎかと・・・そうですわ!ルーク様、貴方様のお暇の時に私が伺います!」
♦︎♢♦︎
ルークは品質の良い龍石を使って”収録”できることが楽しみで仕方がなく鼻歌を口ずさみながら中庭に続く廊下を歩いていた。
すると、窓からコンコンと叩く音が聞こえてきたので予想はついていたが、近寄ってみると、そこにはロックの姿があり、鍵を開けてくれとジェスチャーをした。「やれやれ」と呟きながら開けてやった。
「ロックおまえ、どこに行ってたんだ?」
この程度のことは日常茶飯事だが、それを認めてしまってはロックの行動を容認しているようなものなので非難を含めた声で尋ねる。
「植物園」
ロックは端的に答えると先ほどの出来事についてルークに尋ね返す。
「なぁ、なんで貴族連中はわざわざ龍造犬なるものを造る必要があるんだ?普通に生きてる犬を飼育すればいいじゃねえーか」
「楽しいからじゃないの?」
ロックは退屈そうな顔で「早く答えろ」と催促する。
(素直な感想なんだけどな)
ルークは顎に手を当てると、ロックにはどこから話すべきか少し考え、簡単に話すことにした。
「真面目に答えると、僕たち”神格者”の責務の一つとして、不老不死の研究があるのは流石に知ってるだろ?それで、”龍造人形”には不老不死の秘訣があるに違いないって高明な”収録師”が表明したんだ」
ロックが目をつむって唇をかみながら話を聞いている。
(何か気にさわることを言ってしまったのだろうか?)
「なあロック、明日の授業は昼からだろ?午前中にフリージアさんの”シェパード”がうちに来るんだ。だからお前も来いよ。一度”ルキ”を見て欲しいんだ。きっとロックも”収録”の楽しさに気づくよ」
理由は尋ねたかったが、ロックの普段とは違う雰囲気にルークは話題を変えることにした。ロックから相談されるのを待つことにしたのだ。