14-ダンス ダンス ダンス
14話
瞬く間にひかめく光が周囲を照らし、皆が目を開けるようになった時には新しい龍神石から水が噴出し、感動した村の人々から歓声が湧き上がった。
神格者クレマチスはハンカチで手の汚れを丁寧に拭いレースの手袋をはめながら従者に指示した。
「ここは終わりました。トリス、準備なさい」
「はい」
トリスは村長アイラから替えの龍神石と恩寵処が印された地図を受け取り
「遠い恩寵処からいきましょう」と麦畑方面を指差した。
「ではアイラさん、これから私たちは恩寵処を巡りに行きます。遅くても夕方には帰りますのでどうぞよろしくお願いします」
感情の起伏が激しいクレマチスがせっかく上機嫌になっているのに気分を害してしまわないか心配でアイラは言葉を淀ませる。
「クレマチス様少しご相談がありまして・・・」
「あら?どうぞ、気兼ねなくおっしゃって」
クレマチスはゆっくり目を瞬かせ先を促した。
「昨年に起こった低温障害の影響がこの村ではまだ尾を引いておりまして・・・
クレマチス様、大変不躾なお願いとは存じますが可能な限りお石様を取り替えず、どうにか延命できないでしょうか?」
アイラの言葉を聞いて、ベールで覆われた口元がゆっくりと弧を描いてゆく。
「心配なさらないでアイラ、私を前任の神格者と同等のレベルなどとは考えないでくださいね」
畑仕事など一度もしたことがないであろうしなやかな白い指を立てて、愉快そうに話を続ける。
「私ほどの才があれば街灯の龍石など造作もないこと、次の代拝まで延命させましょう。もちろん照度は下がりますが支障のない程度には調光できるでしょう」
アイラの顔はパッと明るくなり祈るように両手を合わせてた。
「ありがとうございます。クレマチス様が代拝にいらしてくれたことがどれほど我々にとって幸運だったか・・・今回の儀式も問題なく終えられそうです」
♦︎♢♦︎
「ヒカリくんってたぶん一度もダンスを踊った経験ないよね?どうしよう・・・」
代拝前夜、神格者さまが村にやってきたという情報は村中にあっという間に広まり、若い人たちは真夜中にもかかわらず代拝の日にダンスを一緒に踊る約束を薄暗い街灯の下でひっそりしていた。
これは代拝の前日に見られるお決まりの光景で、眺めるだけの私でさえみんなの高揚と緊張が伝わってくる。
当然だよね、
『好意がある人と代拝の日に踊るとその人と結ばれる』そういうジンクスが存在するんだもの、みんな真剣になるのは当たり前だよ。
ジンクスといわれてるだけあって結ばれる確率はすごく高い。代拝の日に踊る意味を理解している親は二人の関係性を知って、パートナーの家族と家族ぐるみの付き合いが増えていく。
外堀が埋まりふたりを隔てる壁は消えてなくなり、自分の大切なものを贈り合う儀式を終えたふたりは遂に結ばれるのだ。
村中のみんながふたりを祝福する幸せな儀式、それが代拝の日で、それがお祭りになる理由。
もし私が村長の孫なんかじゃなかったらこの日をもっと楽しめたのに。
少女は軽口を言いながら手に顎をのせて、窓から見える街灯に、そっと佇む二つの影を眺めていた。
「ヒカリくんをダンスにお誘いしてもいいですか」
代拝の日早朝、スーがオーラと一緒にやってきて、まじろぎもせず私の目をまっすぐ見つめて言った。
今私どんな表情をしていただろうか・・・
「私から許可を得る必要なんてないだよスー。頑張ってきて!私応援してるから」
スーの張り詰めた頬が緩み、可愛らしい笑窪をみせた。
自分でもこんなに心が波立ち動揺していたことに驚き、そして呆れた。
もう諦めたはずなのに、いったい何を妄想していたのだろう。
さよならを言って去っていくふたりの背を見送り、ぐっと背伸びをした。
「さて、はじめますか。まずは教会を掃除しに行って、祭壇に花を飾って、楽器を演奏できる人を手配してっと・・・あっ!そうだった!」
教会までいらっしゃったクレマチス様は、雪のように真っ白な美しいドレスを召され、黒漆のベールを透して見える口元はどことなく寂しそうで無理に笑顔を取り繕っているようだった。
白で統一した上品な花が飾られた祭壇にある燭台に手をかざし、祝詞を唱える。
『輝け』
夕日が沈む真っ赤な空のように神秘的な美しさが教会を満たした。
両膝を地面につけて両手を組み、身をかがめ小さくなるクレマチス。
前任の神格者さまとはまた違う輝きを放つお石様を見つめ、少女は思う。
神格者の性格がお石様から滲み出ているのではないか、こんなに悲しいほど美しい輝きを放つお石様を私は一度も見たことがない。
少女は祈るクレマチスをじっと見つめた。
儀式を終えて教会を飛び出した少女は周りを見渡した。
(ヒカリくんにダンスの指導をしないと、スーに悲しい思いをさせられないわ。
応援すると言ったからには私にできることは全てやらないと!)
ヒカリがキョロキョロ周りを見ながらスーとぎこちないダンスを踊る姿を想像するだけで身の毛がよだつ。
「あっ、いた!」
焦りとは裏腹にあっけなく見つけた。
ヒカリはひとり噴水の縁に腰掛けて、何かに魂を奪われたような虚な目でぼーっと屋台を眺めている。
(いつもヒカリくんは何を考えてるんだろう)
彼がこの村にやってきた当時、背が低い私よりも小さかったから、同い年だと言われても全然信じてなかった。てっきり嘘かと・・・
それが嘘じゃないことに気づいた時には、疾うに私を越して同い年の男の子たちにも負けないぐらい背が伸びていた。
幼かった顔つきも3年の間で逞しくなりクローバおじさんと狩にでることも多くなった。
でもね、太い眉が困ったようにちょっとだけ下がって、心配そうに微笑むヒカリくんの優しい性格は昔から何も変わってない。
「ヒカリくん、ちょっと時間ある?一緒に来て欲しいの」
彼は困ったように眉根を下げて笑った。




