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蛍火(けいか)<辺境伯の息子と異世界転移者>  作者: 茎乃ハル
2章:ヒカリ編(異世界転移者)
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10-苦中作楽


10話


「美しくて、ちょっと寂しくなる物語。

ふたりは二度と会うことは叶わなかった。でも、心でふたりはずっと繋がっていたんだと思う」

話し終えると息を吸い込みながらうーんと大きく伸びをする。

「だからヒカリくんも頼ってね」


肩の力が抜けたような声で自然に言った彼女の言葉にヒカリは「えっ?」と、口を開けて動けなくなってしまった。

”騎士と娘の物語・・・心でふたりはずっと繋がっていた・・・だからヒカリくんも頼ってね”

この道筋を辿るとするならば、それはつまりあれだ・・・俺のことが

(ダメだ)

頭の中でヒカリは勢いよくかぶりを振る。

もしも、万が一にも俺たちが両想いだったとしても、彼女の幸せを願うのなら俺は彼女から離れるべきだ。

いつか彼女は母から村長の座を引き継ぎ、村をまとめるリーダーになるのだから。よそ者の俺が側にいることに納得できない村の人たちと彼女が対立でもしたら村の団結力に亀裂が生じてしまうかもしれない。俺のせいで負う必要のない労力を費やすことになってしまう。

・・・・・。

いや、落ち着けヒカリ・・・

そもそも俺が自意識過剰なだけで別に深い意味なんてそもそもないんじゃないか?

『忙しかったら私を頼ってね』程度で、俺が勝手に盛り上がっていただけな可能性はないか?

やばい・・・考えれば考えるほど俺が勘違いしてるだけな気がしてきた。

『俺のために争わないで!』みたいなことを俺は真顔でずっと考えていたんだよな・・・。

ダメだ、恥ずかしくて彼女の顔がみられない。


耳まで真っ赤になってうずくまるヒカルの姿を見て、少女は慌てて言った。

「だ、だから!一人だけで解決しようとせずに私やリリーおばさん、クローバおじさん、アイラおばさま・・・と、とにかく!頼れる人には頼ること」


ほら、やっぱり俺の勘違いだバカやろー

ヒカリはただ「はい」と、返事を返した。


 ♦︎♢♦︎


秋虫の声が黙々と丘を下るふたりの背から涼しげに聞こえてくる。

ヒカリはさっきの失態もあり沈黙に耐えきれそうになかったので、あわてて喋り始めた。

「”海に浮かぶ古城”に行きたい理由って聖地巡礼みたいなことなの?」


「えっ?」

少女は驚いたように目を瞬かせた。

「聖地巡礼!?そんな大仰なことではないけど・・・でもうーん、考えてみるとそうなのかも?

私にとっては聖地のような心持ちで訪ねたい場所だし」


柔らかそうな手をあごに当てて、まじまじヒカリの顔を見る。

「でも気をつけてね、その例え方は怒る人いると思うから。

ヒカリくんの例え方ってルールに縛られないっていうか、黒よりのグレーゾーンが多いから聞いてるこっちがヒヤヒヤするよ」


少女は街灯に優しく包まれている村々を眺めながら言う。

「でも、私は”海に浮かぶ古城”には行かないよ」

青白く輝く月に照らされた少女の表情は諦観と愛おしさが合わさった老成さを孕んでいるかのような微笑だった。


「どうして?」

ヒカリは今まで見たことない少女の姿にたじろぎつつ尋ねる。


「ヒカリくんもこの村の歴史を知ってるよね」


賎民(最下層階級)と蔑まれてきたご先祖様たちが迫害のない楽園を探し求め、剣のように尖ったこの山脈を越えてここ西の最果てまでたどり着いた。

もちろん当時は龍神の力を借りることはできない。ご先祖さまは自らを落ち葉にたとえ、次の世代の養分として命を削り、地を耕していった。

幾世代にわたって、未来に生きる子らのために尽力したのだ。

村の人なら誰もが知っている誇りある歴史だった。


「だから私には責任があるの。

ご先祖様から受け継いできたこの村を守って、生まれてくる子がこの村に生まれてきてよかったと思ってもらえるような素敵な村にしたい。

この村でやるべきことはたくさんあるんだ」


言い終えると少女は恥ずかしそうに笑って、「ねぇヒカリくん」と続ける。

「頑張ることはイコールつらいことじゃないんだよ。人一倍頑張ってよろよろになっているキミの姿を見ていると私もつらいよ。

だから・・・

頼ってね。頑張ることは楽しいことなんだから」


 ♦︎♢♦︎


翌日の早朝になり、

リリーとクローバがいる席についてもヒカリはいまだ夢心地だった。

窓から見えるいつもの景色をぼーっと眺めながら夕べのひと時を思い出している。

揺れる右耳のイヤリング、頬から滴る汗。自分と目が合うと嬉しそうに笑う彼女の姿をずっと記憶の中で追っていた。


「・・・っていうことなんだけど!あれ、、、ヒカリくん聞いてる?」

「おーい!ヒカリくん」


リリーに背中を小突かれて目が覚めたようにハッとふたりの顔をみた。

「ごめん、聞いてなかった」


「大丈夫?疲れがまだ残ってるんじゃないかしら」

「へいきだよ。ぼーっとしてただけ」

「そう?ほら干し肉多めに取りなさい」


しっかりヒカリが食べていることを確認したリリーはもう一度話を繰り返した。

「昨夜神格者さまがお越しになったからかなり大騒ぎになっちゃったけど、早めに準備してたおかげで失礼にならない程度には歓待できたと思うわ。

お屋敷でいろいろ面白いことがあったんだけど、これから私はまたアイラの屋敷に戻らないといけないからまた今度話すわね。

だ・か・ら!重要なことだけをお知らせしまーす!」


机に身を乗り出したリリーは溌剌とした気持ちのいい明るい声で言った。

「今日が代拝の日になったの!

今日は飲んで叫んで飛んで踊っての大騒ぎよ!楽しみましょうね!

仔細はクローバに聞いて!それじゃあ私は行ってきまーす!」


ヒカリは呆気にとられながら、もういなくなってしまった入り口に向かって「行ってらっしゃい」と、呟いた。




「苦中作楽」

苦しい中でも、楽しもうとして作り出すこと。

元は苦しいことばかりの世の中で、それが楽しいと思い込んで、この世界に心がとらわれているという否定的な意味で、そこから苦しいことも苦としないという意味に変わった言葉。

四字熟語にも途中で意味合いが変わることがあるんですね。知らなかったです

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