3-島の端にある集落
3話
「うわーーっ!!」
意識が戻った時、ヒカリは空にいた。
風の抵抗を受けながらスーっと落ちていく恐怖を味わったのはほんの一瞬で、その後は空にふわふわと浮いているような爽快さを感じるまでにヒカリは落ち着きを取り戻していた。
赤々とした太陽が沈んでいく方向に目を向けると、見渡すかぎり海が広がっていて、その海面を照らす夕日の光が自分の旅立ちを祝福してくれているようで、しぼんだ心をみずみずしく甦らせてくれる。
(すごくきれいだ)
ヒカリは、太陽が過ぎ去った方向に目をやると、ナイフの刃のように切り立った山々が連なる陸地が見えた。そして、ちょうど自分が落下している真下が陸と海の境目になっており、ここが島の端に位置していることがわかった。
島の端からは煙が上がり、よく見てみると集落であろう人家が点々と建っている。
(なんでこんなところに集落があるんだろう?)
ヒカリは不思議に思った。まるで海にポツンと浮かぶ小島のように、島の端にある集落は険しい山脈に囲まれて完全に孤立している。
(さて、地面に叩きつけられる前に、どうにかしてこの状況を脱しないとな)
龍神と名乗るドラゴンが、わざわざ僕をこの世界に連れてきたんだ。このまま落ちて死んでしまうわけがない。
ヒカリには大丈夫だという確信があった。
たしかあいつは”龍神せき”を俺の身体の中に組み込ませたって言ってたよな、
龍神という名が入ってるってことは、あいつの能力を引き出せるのだろうか。
(あいつの能力・・・未来予知とかか?)
ヒカリは頭に全神経を注ぎながら、唸るようにしてこの先に見える未来を想像してみた。しかし、特に何か起こる様子がない。ただ自分が地面に叩きつけられる情景を思い浮かべるだけだった。
ヒカリはだんだんと地面との距離が近づいていく光景を眺めながら、片方の頬をあげてふっと笑う。
「結局、あいつ何がしたかったんだ?
はっ!別にどうでもいい話だ、もう二度と帰ることができない・・・こいつは変わることのない事実だ。
だったらこのまま・・・」
ヒカリは諦めるように目をつぶり、みんなを思った。
♦︎♢♦︎
「○※□#△・・・」
ヒカリは全身がだるく、熱に浮かされたように意識が朦朧としていた。歪んだ視界からは、母と同じ背格好をした人が心配そうに少し眉を寄せながら微笑み、おでこに濡れたタオルを乗せてくれた。
「母さん・・・」
ヒカリは頭を撫でられる安心感に包まれながら再び目を閉じた。
♦︎♢♦︎
「ヒカリくん起きなさい!今日は麦刈りの日よ」
「もう少しだけ寝させてよ」
「まぁ、殊勝なことです。私の拳骨で起こされたいのかしら?」
「起きます!」
ヒカリは昨夜自分で敷き詰め直した藁のふかふかしたベッドから気合を入れて跳ねるように飛び起きると、いたずらっぽく笑っているおかみさんのリリーに向かって挨拶する。
「リリー、おはよう」
「ふふ、おはよう。相変わらずすごい寝癖よ。朝食の前に、顔を洗ってきなさい」
笑ったときにできる目尻のシワがとてもチャーミングで、リリーが笑うと、どんな時だって周囲を明るくすることができる魅力を持った人だ。
ヒカリが外へ顔を洗いに出たことを見るや、リリーは後頭部で一つにまとめた髪を垂らしながら、旦那のクローバの肩に手を置いて頬にキスをする。
外に出たヒカリはたらいにある冷水を両手で掬い、顔を洗う。
「冷てぇー!」
剣のように尖った山脈から上がってくる朝日を浴びながらヒカリは白い息を吐いた。
島の端にある集落にやってきて早三年が経過した。
評価感想お待ちしております。これからもよろしくお願いいたします。




