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蛍火(けいか)<辺境伯の息子と異世界転移者>  作者: 柴崎りょう
2章:ヒカリ編(異世界転移者)
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1-異世界転移者

1-異世界転移者


満開の桜並木を、真新しい制服に身を包んだ少年は、恥ずかしそうに、祖父の後ろから足音を消してついてくる。


「こら、ヒカリ!なんでコソコソ歩いてるんだ、堂々歩け。何が恥ずかしいのやら・・・」

祖父は呆れ顔で、眉を吊りあげている孫を見つめる。


「恥ずかしいからに決まってるだろ!見ろよ俺の制服!」

ヒカリはぶかぶかな袖丈と、長すぎるズボンの裾を手で掴み、不平たらたら文句を言った。


「何度も言っとるが、成長期真っ只中のおまえなら、あっという間に、この制服も着こなせるようになる。よかったな」

「そんなの半年後とか1年後だろ?今が大切なんだって、こんなダサいの着たくないよ」

友人を作るには、第一印象がものすごく大事なんだ、ようつべ配信で言ってたし。


祖父はヒカリの言葉なんか聞いてないように、桜を見上げ、物思いに耽るように瞳を潤ませている。

「あっという間じゃったな。ヒカリももう中学生か。きっと・・・いや絶対に・・・いなくなってしまったおまえの両親も天から微笑んでいるだろうよ。・・・ついでに、ばあさんも」


数秒の沈黙が流れた。


ヒカリは息を吐きながら、じいちゃんの潤ませている瞳を、冷めた目で見る。

「・・・いや、父さんも母さんもおばあちゃんも仕事だから、暇なじいちゃんが無理についてきたんだろ」


「ふつう、可愛い息子の中学デビューに付き合わん親がおるか?」

「俺がついてきてほしくないって言ったから、みんな汲んでくれたんだよ、じいちゃん以外は。あと中学デビューの意味合いも間違ってるし、ほんといい加減だよな」


じいちゃんは舌を出してニヤリと笑った。

「これはワシのご褒美なんじゃ、おまえに拒否権なんてものはないの」


「拒否権ってなんだよ」

ヒカリも、目のまわりをくしゃくしゃにして笑う祖父の顔につられて、思わず笑みをこぼしてしまう。


「ほんとうにおめでとうな、ヒカリ」


 ♦︎♢♦︎


刷毛で刷いたような白いモヤが辺り一面を覆い尽くしている。ヒカリはこの濃霧のようなモヤが消えるまで、その場に留まることにした。


(これは夢だな)


以前にも同じ経験を何度もしている。しばらく待つと、まるで穴に水が吸い込まれていくように、渦を巻きながら空間が白いモヤを呑み込んでしまう。ヒカリは視界の晴れた真っ白な空間を見渡して、学校の教室に置かれていそうな木製の椅子に腰かけている”顔なし”に手を振った。


顔なしはヒカリ自身がつけた名前で、昔観た映画のキャラクターのように全身が真っ黒で顔には能面のようなお面をかぶっている。最初に顔なしを見たときは襲われるのではないかと肝を冷やしたが、黒い人?はただ手を振っているだけで、なんら影響のない無害な存在に思えた。


どういうギミックなのかわからないが、顔なしに声をかけることで、この場から現実に戻れることをこれまでの経験で知っていたヒカリは、彼に聞こえるよう大きな声を出した。

「顔なし!夢はもういいからここから出してくれ!」


ヒカリはこれで目覚めることができると思い、「うーん」と、息を吐きながら腕を上げて背筋を伸ばした。


・・・しかし、いくら経っても覚醒する兆しがない。きっと顔なしに聞こえていなかったのだろう、ヒカリはもう一度声を上げようと口を開きかけた、その時、


「・・・ヒ・・・カ・・リ・・・・」

か細い弱々しい声だったが、顔なしと呼んでいるお面をつけた黒い生き物から発せられたことに間違なかった。


ヒカリは同じ姿勢で棒のように突っ立ったまま、あんぐりと口を開けて顔なしを見つめる。

顔なしは椅子から腰をあげて、全身金縛りになったかのように指一本すら動かすことができないヒカリへ、ゆっくり歩み始めた。


「くるな!!くるな!!」

ヒカリの必死の叫びも虚しく、ニンマリ笑っているように見えるお面を左右に揺らしながらこちらに向かってくる。


「覚めろ覚めろ覚めろ・・・・・・」

ヒカリは仏に祈るように手を合わせると、後は何も考えずひたすら祈った。


祈りは聞き届かず一定の速さで歩く足音が、とうとう、自分の正面で止まる。

(喰われてしまうんだ)


「あれ?」

予想に反してヒカリの肩には暖かい手が置かれ、まだ声変わりしていないであろう子供の声が聞こえる。


「おもてをあげなさい。ここは夢ではない、ここは賛歌・転移層と呼ばれている」


ヒカリは子供を見るや、驚いて後ろへ倒れてしまった。

ワックスを使って整えようとした変に飛び跳ねている髪、整列するとき必ず先頭になる低身長、声変わりしていない高い声・・・。正面に立っていたのは自分と同じ姿・かたちをしたドッペルゲンガーだったのだ。


「すまない、驚かせてしまったようだ。しかしそれも無理からぬこと、私から見れば人類全て同じ姿・かたちに見える。見分けるには相応の技術が必要なんだよ。人類専門の学者ならば見分けることはできるだろうが、私には難しくてね。

キミ、私の日本語通じているか?キミと会話するためにキミの姿を模写したのだが・・・理解できているのなら返事をくれないか」


「は・・はい」

ヒカリは自分と同じ姿形をした人?が何を話しているのか全くわからなかったが、機嫌を損ねさせないように素直に返事した。


「キミの反応から分析すると・・・やはり、このやり方は失敗のようだ。キミたち人類が語る自由意志とやらを真似してみたくなってね。自分でも酔狂なことをやっている自覚はあるんだけど、大好きなキミと話すときには一度やることにしてるんだ。

さて、通常運転でいこうか。姿を戻すよ」


突然、まばゆい光が自分と瓜二つな人間?から放たれて、空間全てが光に包まれる。

ヒカリが目を開いたとき、そこにはドラゴンが佇み、琥珀の眼をこちらに向けて見下ろしている。


ドラゴンは二階建ての家ほどの大きさがあり、神社にお参りする際に味わう畏怖の念のように、人間の力ではどうにもならない圧倒的な力を肌身に感じ、ヒカリは何歩か後ずさりした。

しかし、ヒカリはそれとは別に違う感情も抱いていた。金魚のひれのようにドラゴンのつばさは透き通っていて、美しく、泳ぐようにはばたかせる姿はこの上なく上品だった。また、ドラゴンのゴツゴツとした鱗は光を受けるたび黄金に輝く、その煌々たるや…ヒカリは全てが完璧に思えた。


「私は<龍神>と呼ばれている。私は多くの世界を創造し、多くのものに命を与え、命あるものに住む場所を創造した」


龍神と名乗るドラゴンの口は開いていないにもかかわらず、ヒカリの頭の内から声が響いてくる。とても不思議な感覚だ。脳に直接語りかけているのだろうか?


「ようこそ賛歌・転移層へ、ヒカリくん。キミが違う星へ転移することは、はじめから、すべて、決まっている」

評価感想お待ちしております。これからもよろしくお願いいたします。

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