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蛍火(けいか)<辺境伯の息子と異世界転移者>  作者: 柴崎りょう
1章:ルーク編(辺境伯の息子)
18/33

17-乖離

異世界語録

「龍神」→唯一神

「龍神石」→龍神の血を継承するものが干渉することで天福を引き起こすことができる

「龍石」→龍神石の略称

「神格者」→(現在では)龍神石に干渉できるもの

「龍造人形」→神格者の手によって造られた人工物

「収録」→龍造人形に人が意図した指示を出す行為



 17話 


「ルーク様、私が先陣を切らせていただきます」

フリージアが先頭に立って地上へ続く綱紐にしがみ付くと、上へ上へとたぐりながら登っていく。


地下の旅はほんのわずかな時ではあったが、ルークは太陽の包み込むようなあの優しい光を羨望した。

(きっと地下だからこんなにもクヨクヨしてしまうんだ。上に出たら何もかもが上手く好転する・・・大丈夫だ)


太陽は西に傾き、空の色は春の淡い柔らかなオレンジに染まりはじめている。

ルークは地上の新鮮な空気を吸って、肺に溜まった地下の埃を全て吐き出すように大きく深呼吸した。


ルークの後に続き、井戸から這い出てきたロックは今自分が立っている場所が2mもある高い塀に囲まれていることに気づいて、サラマンド地方で最も高い4階層建築のコロシアムを探すように辺りを見渡した。そしてここがどこなのかわかったかのように「なるほど」とつぶやくと、髭が一面に伸びて乱れている酒場の主人に向かって話しかけた。

「ここは酒場の中庭か。まさか貧困街にも地下水路が繋がっていたとは知らなかったぜ」


酒場の主人は面倒臭そうに眉を顰めながら「そうだ」と、無愛想に返事をした。主人の目は井戸に移り、そこから這い出てきたサルウィンに向かって催促するように毛深い手を前に出す。


服についた埃を丁寧に払って身だしなみを整えたサルウィンは懐から袋を取り出して金貨4枚を酒場の主人に手渡した。主人は「ふん」と唸りながら、渡された金貨を穴が開くくらい食い入るように見つめ、納得したのか口の端をちらっと持ち上げて、金貨を大切に懐にしまうと、ついてくるように手招きして厩舎の裏口までルークたちを案内した。


「表に馬車を手配しております」

サルウィンはルークたちに振り返りながら表口まで誘導する。

厩舎には馬が一頭もおらず、空席となった場所には丁寧に敷き詰められた干し草と水の入った桶が取り残されている。

厩舎の表に出ると木の枝に吊るしてある岩塩をぺろりぺろりと舐めている2頭の馬を労るように、「今日もお疲れ様」と、優しく声をかけながら、大量の汗をかいている彼らの体を拭いているひとりの少年に、ルークと目があった。


少年は目を大きく見開かせて、瞬間、焦ったようにタオルを桶に放り投げた。

「サルウィン!今日ずっと馬たち走りっぱなしだったから、休ませてんだ。ごめん10分だけ待って」

少年は、木陰でタバコを吸いながら雑談している御者らに馬車の準備するよう声をかけ、頭をかきながらサルウィンへ近づき、にっこり笑いかけた。

「今日あったコロシアムのおかげで、馬車利用者が絶えなくって。こっちはありがたいけど馬たちはずっと走りっぱなしで、ほんと、お疲れ様って感じだよ」


龍造人形は貴族の娯楽または護衛として、いわば、第一身分に相当する階級者の特権として用いられている。そのため、庶民はいまだに本物の生きた動物を活用している。ルークは普段見ることのない本物の馬を目をキラキラ輝かせながら、まじまじと見つめていた。

(馬も汗をかくんだな・・・生きた犬や猫のように皮膚には汗腺がないものだと思っていた)


あれ?ルークは突然背筋が凍りつくようなゾッとするような気分になった。もしかして、普段から収録している龍造人形には、正確に、本物の動物の癖をコピーできていると僕は思ってたが、それは間違ってるかもしれない。以前、兄様に自らの手で造った馬の龍造人形を披露したことがあった。自分では最高の出来だと確信して鼻高々だったが、嘲笑のような蔑みが兄様の顔にさっとよぎったことは気のせいではなかったのかもしれない。


神格者は神格者同士との関わりしかない


そこから生まれた神格者同士の常識は、外に出た途端、非常識に変わることがよくある。だから僕は、そこに細心の注意を心がけていた、異物な存在だとみんなに思われたくなくて・・・。しかし他所から見れば、僕の行動も他の神格者同様、気味の悪いものとして映っていたのだろうか?

だとすれば・・・、今の危機的状況に陥った原因である根本も同様に、そもそもが間違っているのではないか?


ルークは蒼白な顔でサルウィンに尋ねた。

「コロシアムに出場し、僕たちが優勝を勝ち取ることは、はたして、名誉にあずかる常識の範疇だったのだろうか?」

「乗車した後です」


御者(馬車運転手)が手綱を締めてルークたちの前に止まり、少年が馬車の中に入るように促した。

ルークたちが馬車に乗り込む中、サルウィンは少年に近寄り小声で話しかける。

「このことはくれぐれも内密に」

「わかってるに決まってんだろ?信用第一だかんな」

自明のことを注意された少年は、腹を立てて、頬を膨らませる。サルウィンは少年の頬をつねりながら、「頼む」と言って、ルークらの待つ馬車へ向かった。


サルウィンのことを緊張しながらじっと見つめて座っている3人をよそに、淡々とランプに火を灯した後、小窓カーテンを下ろした。外からノックする音が聞こえて、サルウィンはノックを返すと、蹄の音を立てながらゆっくりと進み始める。


サルウィンはルークの隣に座るとロックに視線を向けて口を開いた。

「さて・・・まずはロックベル様。

 なぜ、ルーク様をコロシアムに巻き込んだのか、ご説明ください」

ご愛読ありがとうございます


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